ナタリー PowerPush - 片平里菜

亀田誠治、スカパラ茂木&沖と世代を超えた音楽談義

私の歌で王道J-POPをやると薄っぺらくなる気がする

亀田 里菜ちゃんは曲作りにおいて、何か一貫したこだわりは持っている?

片平 あります。どの曲にも当てはまることだと思うんですけど、なるべく大げさなアレンジにしたくないなって。

左から亀田誠治、片平里菜。

亀田 ああ、それも言ってたね。

片平 はい。ストリングスが後ろで鳴っている、壮大でドラマチックな王道J-POPも好きなんですけど、私の歌でそれをやってしまうと逆に薄っぺらくなっちゃう気がするんです。自分が歌うのはもっとシリアスで、心にズーンと来る曲のほうが好きなので。

亀田 なんというか、強いエンジンは求めるけど過剰なオプションはいらないみたいな、そういう感じだよね。でも面白いのは、ストリングスは嫌いですとかキーボードは入れないでくださいとか言うのは、僕はアーティストさんとの会話の中でよくあることなので全然気にしないけど、周りのスタッフさんが急にザワザワし始めるんだよね(笑)。

片平 ごめんなさい(笑)。

亀田 でもこっちも、それこそ猛獣みたいなアーティストを今までたくさん見てきてるんで、全然大丈夫ですからって返しましたけど(笑)。僕がアレンジをしてる最中に「この曲のドラムは伊藤大地に叩いてもらいたいな」と思って里菜ちゃんに伝えたら、「今まさにライブで叩いてもらってます」と言われて。そういう素敵なシンクロが生まれてレコーディングに至ったんです。レコーディングも順調だったよね。

片平 そうですね。ちょうどクリスマス当日で。

亀田 去年の12月25日にオケの録音から歌の仕上げまで全部やっちゃったの。ちゃんとしたデモがあって、アーティストさんと曲の方向性がしっかり共有できていて、あとは歌心のあるミュージシャンが演奏してくれたら「これは違う」っていう残念な結果にならないという自信があるので。すぐに完成するだろうと思ってたし、そんなに心配はしてなかったです。

片平 皆さんがレコーディングしてるところを見てるだけでも楽しかった(笑)。

いやあ、化けましたね

──片平さん、亀田さんとのレコーディングは今までと違いましたか?

片平 そうですね……今までにないくらい、すごく緊張してましたね。

亀田 でも緊張してるような素振りは見せないんですよ。どちらかというと「私の曲です。よろしくお願いします」みたいに堂々とした印象は受けましたけど。オケもバンドスタイルで録音して、ドラムとベースとエレキギターと、それから里菜ちゃんのギターも一緒に「せーの!」で録ったんです。ライブをやってるみたいで僕は楽しかったですよ。

片平里菜

片平 確かに。ほかのレコーディングと比べて、すごいライブ感がありましたね。

亀田 でもひたすら緊張してたんだよね?(笑)

片平 はい。ふふふ(笑)。

亀田 オケが録れたら、あとはいい歌を録ればいいだけなんで。しかも里菜ちゃん、あの日は声の調子がすごくよかったんだよね。

片平 そうですね。本当にあっという間だったし、しかもにぎやかで楽しかった。亀田さんが私のいいところを全部引き出してくれたんです。

亀田 完成した「Oh JANE」を聴いて、どう思いました?

片平 いやあ、化けましたね。

亀田 あははは(笑)。化けた?

片平 化けました。もともと攻撃的な歌詞ではあったんですけど、リズム隊もエレキギターもすごくとがってるから、より強い楽曲になったなって。今までこういう楽曲を作ったことがなかったので新鮮でしたし、今後の曲作りにおいてすごく勉強になりました。

亀田 この曲は片平里菜っていう「シンガー」「人間」が見えるような、そういう仕上がりになったんじゃないかなと思ってます。この曲の歌詞の持ってる強さや里菜ちゃんが言おうとしてることに対して、それを穏やかに中和させる方向にしちゃダメだと思っていて。里菜ちゃんが強く歌ってるところは演奏も強く聞こえるようにしたりして、一体感を強めようとしました。

音楽の歴史を引き継ぎつつ新しさを感じさせるタイプ

亀田誠治

亀田 去年福島で里菜ちゃんを観たときに、本当に新しいタイプのアーティストだと思ったの。これは持論だけど、新しいタイプのアーティストには2種類あると思っていて、1つは今までいなかったタイプの人、もう1つは今までの流れを感じさせつつも何かしら新しさを持った人。里菜ちゃんは前者のような突然変異で生まれた新しいタイプじゃなくて、普遍的で長く愛される要素を持った音楽の歴史のよいDNAをちゃんと引き継ぎつつ、何か新しさを感じさせる後者のタイプだと思うんです。歌詞にしても聴き手に対してあまり親切じゃないというか(笑)、歌詞というよりも日記をつづっている印象があって。1番と2番とサビの入り口が対になってたり、君と僕が入れ替わってたりする、いわゆるJ-POP的な作り方だけじゃない、まとまりの悪さみたいなものがあるんですよ。そのはみ出し方が非常に個性的で面白いし、もしかしたらそのデコボコ丸出し感っていうのは今のJ-POPシーンに足りないもののような気がしていて。不完全というか……そこに魅力を感じて、初めてライブを観たときに何か一緒に作ってみたいなと思ったんです。

片平 そんなふうに感じ取ってもらっていたとは……(笑)。

亀田 MCもこうフワフワッとした感じでしゃべって、「じゃあ次の曲行きまーす」とか言ってギターネックにカポを挟むみたいな(笑)。自然体なんだけど、なんとなく不思議な時空が流れるんですよね。そこも面白いなと思って。僕はすごく完成されたアーティストをたくさん見てきてるし、もっと言うと最近はアマチュアだったりインディだったりのほうができあがった親切すぎるスタイルを持ってる人たちが多いわけ。でも里菜ちゃんはそこらへんがユルユルの感じで、肝心の音楽と歌だけで人を惹き付けてるっていうところがすごいたまらなかったなあ。

片平 うふふ(笑)。でもそんな特別なものは持ってないですよ。

片平里菜 あの場所で偶然 弾き語りツアー2014
2014年5月12日(月)
宮城県 BLUE RESISTANCE
2014年5月13日(火)
岩手県 LIVEHOUSE FREAKS
2014年5月14日(水)
岩手県 KLUB COUNTER ACTION MIYAKO
2014年5月17日(土)
宮城県 遊楽館かなんホール
2014年5月20日(火)
秋田県 Club SWINDLE
2014年5月21日(水)
福島県 club SONIC iwaki
2014年5月24日(土)
福島県 岩瀬郡天栄村「風とロック CARAVAN福島」
2014年5月25日(日)
神奈川県 横浜赤レンガ地区野外特設会場「GREENROOM FESTIVAL '14」
2014年6月9日(月)
長野県 LIVE HOUSE J
2014年6月10日(火)
新潟県 SHOW!CASE!!
2014年6月17日(火)
北海道 COLONY
2014年6月21日(土)
愛媛県 松山キティホール
2014年6月23日(月)
岡山県 城下公会堂
2014年6月24日(火)
広島県 ナミキジャンクション
2014年6月27日(金)
山口県 Organ's Melody
2014年6月28日(土)
熊本県 cafe Arbaro
2014年6月30日(月)
福岡県 ROOMS
2014年7月2日(水)
鹿児島県 SR HALL
2014年7月4日(金)
香川県 高松MONSTER
2014年7月8日(火)
大阪府 Kitchen和
2014年7月9日(水)
京都府 磔磔
2014年7月11日(金)
東京都 自由学園明日館(アコースティックライブ / ワンマン)
片平里菜(カタヒラリナ)
片平里菜

1992年5月12日生まれ、福島出身のシンガーソングライター。2011年9月、「閃光ライオット2011」で1万組の中から審査員特別賞を受賞する。翌2012年にはソニーWALKMAN「Play You. Label」第1弾アーティストに抜擢され、山田貴洋(ASIAN KUNG-FU GENERATION)プロデュースのもと楽曲制作。7月にはメジャーデビュー前にもかかわらず「NANO-MUGEN FES.2012」に出演し、話題を集めた。2013年1月にアジカン山田プロデュースによる楽曲「始まりに」を配信リリース。同年4月には20公演にわたる初の全国弾き語りツアー「片平里菜 飾らない笑顔で 弾き語りツアー2013」も敢行した。5月にはギブソン社傘下のギターブランド・エピフォンが片平を日本人女性初のエピフォンアーティストとして公認したことも発表され、大きな反響を呼んだ。そして8月7日、ポニーキャニオンからシングル「夏の夜」でメジャーデビュー。翌2014年1月15日には2ndシングル「女の子は泣かない」を発表し、同月末からは初のワンマンツアー「片平里菜 1stワンマンツアー2014 “女の子は泣け、笑え、叫べ”」を東京、大阪、福島で行った。4月30日に3rdシングル「Oh JANE / あなた」をリリース。

亀田誠治(カメダセイジ)

1964年アメリカ・ニューヨーク生まれ。1989年に音楽プロデューサーおよびベーシストとしての活動を始める。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、Do As Infinity、スガシカオ、アンジェラ・アキ、JUJU、秦基博、いきものがかり、チャットモンチー、エレファントカシマシ、WEAVER、MIYAVI、赤い公園、東京スカパラダイスオーケストラなど数多くのアーティストのプロデュースやアレンジを手がける。また2004年夏に椎名林檎らと東京事変を結成し、数多くのヒット曲を発表。2012年閏日に惜しまれつつも解散する。2013年には2回目となる自身の主催ライブイベント「亀の恩返し」を日本武道館にて開催。映画「カノジョは嘘を愛しすぎてる」の音楽プロデュースなどさまざまなかたちで作品を届けている。2014年5月には「SAYONARA国立競技場 FINAL WEEK JAPAN NIGHT」にて音楽監督を務める。またオフィシャルサイトで、自身の知識をフリーでシェアし、新しい才能を応援する「恩返し」プロジェクトを展開中。


2014年5月7日更新