ナタリー PowerPush - 片平里菜

「これから戦っていかなきゃ」メジャーデビューに対する覚悟明かす

イメージをひっくり返していって反応を見るのも楽しいかも

──ここからはデビューシングル「夏の夜」の話題に移りましょう。この曲って片平さんにとって、ある意味原点の1曲ですよね。さっき言っていたように高校生の頃に書いた曲であり、デビューのきっかけになった「閃光ライオット 2011」でも歌っていたし。デビュー曲に選んだのはそういう理由もあるんですか?

片平里菜

この曲しかないかなと思って。閃光ライオットで審査員特別賞をもらうきっかけになったし、こういう世界に踏み出すきっかけになった曲でもあるし。初めて10代のリスナーの方に共感してもらえた曲でもあったので、自分の中では特別な1曲なんです。だから改めてCDにして出したいなっていうのは思ってましたね。

──歌詞には10代のときに感じる不安だったり、どうにもならない悶々とした気持ちが表現されています。17、18歳のときに書いた曲を現在21歳の片平さんは気持ちを込めて歌うことができるんですか?

この曲を書いた昔の自分を客観的に見られるから、今は歌えるというのはあって。当時は自分の殻にこもって人前で歌えなかったけど、今はこんなふうに夢がちょっとずつ叶って結果も出せているから、自分的には希望にあふれた曲に変わったなと思ってます。

──この曲を作った当時は片平さんと同じ気持ちの人が惹かれ合ってただけかもしれないけど、そこから歳を重ねたことで「そういう気持ちもわかるよ」と視野が広がって、より多くの人たちに届くように表現できるようになったのかなと。

そうかもしれない。昔よりも聴いてる人に勇気や希望を与えることができるかもしれないとは思いますね。

──この曲のアレンジはaikoやいきものがかりで知られる島田昌典さんがアレンジを手がけています。すごく心地よい仕上がりになりましたね。

さすがですよね。風が吹きまくりというか。島田さんがアレンジしたテイクを初めて聴いたときに、「あ、『夏の夜』ってこんなにいい曲なんだ」って思いましたもん(笑)。

──そしてカップリングにはライブでも披露してきた「baby」が収録されています。「夏の夜」とはまた違った、アップテンポの元気な曲ですが、この要素も片平さんが常に持ち合わせているものだと思うんです。

そうですね。「始まりに」をASIAN KUNG-FU GENERATIONの山田貴洋さんにプロデュースしてもらうときに、もう1曲アレンジしてみようということになって、この曲を選んだんです。実は「baby」ってデモの段階ではミディアムテンポの曲だったんですけど、「始まりに」がしっとりとしたミディアムバラードだったので、アップテンポでノリのいい曲も欲しいよねってことで疾走感あふれるアレンジに変更しました。

──そうだったんですね。片平さんのライブを観たことがない人、それこそ「始まりに」や「夏の夜」のイメージで片平里菜というアーティストを捉えていた人が「baby」を聴いたら、そのギャップに驚くと思いますよ。

そうかあ。今の私の中に渦巻いてるものは、実は「baby」みたいな曲調なんですけどね。でもリリースのたびに、そのイメージをひっくり返していって皆さんの反応を見るのも楽しいかも。

この行ったり来たりする今の状態が私にとってベスト

──3曲目の「Come Back Home」も、最近のライブではお客さんとのやり取りが印象的で、どんどんライブの定番曲になっていく感じがありますね。歌詞では福島と東京の行き来についてつづっているわけですが。

本当にそのままで、東京と福島を行き来する中で生まれた曲です。この曲は地元に帰りたいとか東京にいたくないとか言ってるわけではなくて、東京で音楽活動をするのが今は本当に楽しいし生きがいだし、でも地元という帰る場所もあるからちょっとつらいときでもがんばれるし、そういう今の自分の思いをストレートに書いただけで。今は東京にいることが多いですけど、たぶんずっと地元にいたら環境がよすぎて甘えてしまうし、この行ったり来たりする今の状態が私にとってベストなんですよね。

──さっきのツアーの話じゃないですけど、旅を楽しむ感覚っていうのにもつながるのかもしれませんね。

そうかもしれない。私、1つの場所にとどまるのが嫌で、いろんなところへ行きたいって気持ちが強くて。だからたまに地元に帰れたらそれだけで本当に幸せだし、ちゃんと地元があるんだっていうだけで心強いんです。

──4月30日の福島でのツアーファイナル後、福島から東京に戻る新幹線でふと窓の景色を観てたら「Come Back Home」のことを思い出して。片平さんはきっとこういう景色を観ていろんなことを考えながらあの曲を書いたのかなって思ったら、ちょっと曲に対する印象も変わってきました。

本当ですか? 印象、どう変わりましたか?

──タイトルにある“Home”っていうのは福島のことなんだけど、でも時と場合によってそのホームが東京になるし、あるいはツアーで訪れた土地がその日のホームになるかもしれない。そう考えるといろんな捉え方ができる曲だなと思ったんです。

そうですね、確かに。地元に限らずですね。本当に自分が落ち着く場所がホームであって、そういう場所があるっていうだけでがんばれるんでしょうね。

──そして最後に「始まりに」の弾き語りバージョンが収録されています。

今までずっと弾き語り中心でライブしてきたし、4月のツアーでもずっと歌ってきた大切な曲なので、こうやって弾き語りバージョンをCDに残せることは、ある意味これまでの集大成なのかな。それにこの曲が持つ始まりっていうメッセージも、1stシングル、メジャーデビューシングルにすごくふさわしいですし、収録できて本当によかったです。

配信じゃなくってCDで出せるのが一番うれしい

──さて、いよいよメジャーデビューですよ。改めて現在の心境を聞かせてください。

やっとですね。やっぱり自分もずっとCDを買って聴いていた音楽ファンの1人なので、配信じゃなくってCDで出せるのが一番うれしいです。形に残るし、ジャケット撮影もPV撮影もデザインも……いろんな思い出が詰まってるんだなって改めて思いました。

──それがCDショップに並ぶわけですし。今まで片平里菜のことを知らなかった人の手元にCDが届く可能性があるわけですよね。

うれしいなあ。全国流通ですもんね。私のことを知ってもらう上でもうってつけの4曲だと思うので、これを聴いてぜひライブにも足を運んでもらえたらうれしいです。

片平里菜
片平里菜(かたひらりな)

1992年5月12日生まれ、福島出身・在住のシンガーソングライター。2011年9月、「閃光ライオット2011」で1万組の中から審査員特別賞を受賞する。翌2012年にはソニーWALKMAN「Play You. Label」第1弾アーティストに抜擢され、山田貴洋(ASIAN KUNG-FU GENERATION)プロデュースのもと楽曲制作。7月にはメジャーデビュー前にもかかわらず「NANO-MUGEN FES.2012」に出演し、話題を集めた。2013年1月にアジカン山田プロデュースによる楽曲「始まりに」を配信リリース。同年4月には20公演にわたる初の全国弾き語りツアー「片平里菜 飾らない笑顔で 弾き語りツアー2013」も敢行した。5月にはギブソン社傘下のギターブランド・エピフォンが片平を日本人女性初のエピフォンアーティストとして公認したことも発表され、大きな反響を呼んだ。そして8月7日、ポニーキャニオンからシングル「夏の夜」でメジャーデビューを果たした。