KASHIFインタビュー
ソウルの範疇にある打ち込みサウンドを突き詰めたらテクノになる
──今回のソロアルバム制作は、どのように始まったんですか?
ソロアルバムを出そうという考えは、実は10年近く前からすでにあったんです。ただ、そのときはT-SQUAREを今っぽくしたインストアルバムというか、テクノっぽい打ち込みの上にバリバリのフュージョンっぽいギターが乗ってるものをイメージしていました。でも、そのあと(((さらうんど)))や一十三さんとの活動も始まって、「歌モノ」「シティポップ」「AOR」というようなキーワードが必然的に自分の中でも大きくなっていきました。そこからまた5年くらい経って、さらに若い世代のバンドが出てきたり、そういうシーンも成熟してきて、なんとなく自分の中でもシティポップと呼ばれるジャンルについてひと区切りついた感じがしたんです。だから、いざ2016年に制作を始めたときは「自分のソロの方向性はどうしよう?」と、かなり考えましたね。
──なるほど。
僕もそんなに最新の音楽を追えてるわけではないんですけど、やはり海外のヒットの主流的なポストチルウェイブとか、ポストトラップ的な音楽も気になったりしている中で、いわゆるシティポップ然としたものではなく、何かもう1歩違うイメージのものを作りたいなという気持ちが出てきたんです。僕の中では、やりたい音のイメージを一番大きなくくりで言うと、それはまず「ソウル」でした。
──ブラックミュージック的な要素を意識するということでしょうか。
自分でもはっきり説明できないんですけど、自分にとっての今回の「ソウル」って、いわゆる黒人音楽のファンキーさなどにフォーカスするということではなく、ボーカルラインへの感情の乗り方とコード進行やアレンジなどのサウンド要素との関係性が黒人音楽感を土台にしつついい塩梅であることを指してたりするんですが……ぼんやりしたイメージでですいません(笑)。あとアレンジ面では、気持ち今までと違う質感を取り入れるにはどうしたらよいか考えたときに、ソウルの範疇にあるシンセなどをどんどん突き詰めていくと、その部分に関してはざっくり言うとテクノに向き合い始めることとも言えそうな気がしたんですよね。そういった、ややテクノ要素もあるタイトなトラックの上にソウルっぽい歌が乗っているというバランス感。絶対そこからそれていくだろうという予測も当然はらみつつですが(笑)、今自分が作品を残すなら、まず土台としてはそういうふうにしたいと思いました。そこには当然ギターも乗ります。坂本龍一さんの「千のナイフ」(1978年発表のソロアルバム)での渡辺香津美さんのギターみたいな質感がリードギターに関しては1つの理想的なイメージです。生のソウル性のある歌声、アナログなギター、スクエアな箱庭感のある打ち込みという要素をそういった意識で丁寧に積んでいけば、シティポップ制作の経験も踏まえつつ今までと違う質感にできそうだし、派手な変化にはならなくてもそれがアップデートに向けたトライになると思いました。
「どこを切っても自分しかない」アルバムを
──そういう方向性のモデルになった作品ってあるんでしょうか?
アルバムの方向性であれこれ迷っていたときにXTALくんに相談したところ、「この方向性がマッチしそうじゃない?」といって教えてくれたアルバムが、Shy Girlsという白人アーティストのアルバム「Time Share」(2013年発売)だったんです。それが見事に僕にはどストライクでした。テクノやトラップの要素もあって、かつ音数も少なくスクエアな進行の中で、ギターなどを前面に押し出した生楽器とのアンサンブルがタイトに展開していく。そして主人公はソウルフルな歌という、そのサウンドが僕にはすごく指針になりました。
──テクニックを生かした生音のソウルとは真逆の、機械に任せた音に乗っかっていくのが、自分にとってのソウルだと感じたということですよね。そこがアルバムのフューチャーソウル感につながっていて。
さらに言うと、僕が抜本的な影響を受けた存在として細野(晴臣)さんがいるんですが、細野さんの「フィルハーモニー」(1982年発売)や「Omni Sight Seeing」(1989年)といったアルバムでは、マシーン感やサンプリングによるスクエアな世界観とある種ヒューマンな部分とのバランスが絶妙に成立しています。それが僕にとって一番クールな箱庭的な世界観なので、そこを目指したいなというのもありました。
──いわゆるティン・パン・アレー期ではなく、1980年代にデジタルかつアンビエント的なサウンドに向かっていた時期の細野さんですね。
はい。あと今回の大きなモチベーションとして、これまで自分が多くの友達の作品に何度も参加させてもらった経験の中で、1つの作品に何人ものクリエイター、ミュージシャンが参加するという制作のプロセスが比較的多かったんですよね。そこにはよい点、そして難しい点が複雑に共存しているなあという実感がありました。そこで自分のソロアルバムに何かシンプルに意味を持たせるには「自分1人だけでやったらどうなるか?」というのをとことん突き詰めてみるべきなのでは、と考えるようになりました。自分の活動のシルエットがいろいろと分散しているため伝わりづらい部分もあったので、「どこを切っても自分しかない」という純度の高いアルバムを1回作る。それが今、自分がやるべきことだなと思ったんです。本当にパーソナルに作りたいアルバムだったので、「時代性」とか「最先端」とか「シティポップ」とか「シチュエーション」とか、そういうキーワードや設定などの要素を1回すべて忘れて、今自分の中にあるものだけを形にしてみたいなと思いました。ただの宅録の人に立ち返って制作してみたかったというか。
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「どうも、KASHIFです」
- KASHIF「BlueSongs」
- 2017年5月3日発売 / Billboard Records
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[CD] 2592円
HBRJ-1025
- 収録曲
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- Breezing
- On and On
- The Night
- Clean Up
- Desperate Coffee
- PPP I Love You(Part2.1)
- You
- Neverland
- Be Colorful
- BGM
- PPP I Love You(Part3)
- KASHIF(カシーフ)
- 横浜を拠点とする湾岸音楽クルー「Pan Pacific Playa」所属のギタリスト、作・編曲家、ボーカリスト。同じくPan Pacific Playaに所属する“ネオドゥーワップバンド”JINTANA & EMERALDSのメンバーでもある。2006年よりKASHIFとしてPan Pacific Playaで活動を始め、インディーズシーンでさまざまなアーティストのサポートを務める。ギタリストとしての活動を主軸としつつも、楽曲提供やサウンドプロデュースでも頭角を現し、ソロではDJをしながら同時にギターを弾く形でセルフセッションする“ギターDJ”スタイルでも活動中。2017年5月に初のソロアルバム「BlueSongs」を発表する。