ナタリー PowerPush - かせきさいだぁ
アニソンはアニメファンだけのものじゃない!
近年はシティポップの伝道者としてヒップホップにとどまらない音楽性を見せている、かせきさいだぁ。8月7日にリリースする新アルバム「かせきさいだぁのアニソング!! バケイション!」は、なんと全曲アニメソングのカバー集だ。懐メロ的なアニソンを歌い上げるのでもなく、アニメ本編と切り離したところで楽曲を評価しているわけでもない。他のカルチャーに接するのと同じように的確なセンスで楽曲が選ばれ、そしてアレンジされた極上のポップアルバムになっている。かせきさいだぁはアニソンカバーで何を伝えようとしているのか? 各楽曲へのこだわりも含め、じっくり話を聞いた。
取材・文 / さやわか 撮影 / 佐藤類
ずっと「天使の絵の具」のカバーがやりたかった
──新アルバム「アニソング!! バケイション!」はアニメソングのカバーアルバムですが、そもそも過去2枚のアルバムでも、アニソンのカバーをやられていますよね。
そうですね。「ときめきトゥナイト」と「恋の呪文はスキトキメキトキス」をカバーしてました。でも、もともとは今回のアルバムに収録した「天使の絵の具」をカバーしたくて、すでにアレンジも練習もしてあったんですよ。
──80年代の劇場用アニメ「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」のエンディングテーマですね。
ええ。だけどアニソンとしてはちょっと一般的な認知度が低いかなっていうのがありまして。それで2011年のアルバムでは「ときめきトゥナイト」のカバーを入れて、2012年は「恋の呪文はスキトキメキトキス」にしたんです。
──もともと、アニソンが好きでずっと聴いていたんですか?
うーん、特にアニソンが好きという形ではないですけどね。今45歳なんですけど、僕くらいから下の世代はまあ、アニソンだろうが歌謡曲だろうが洋楽だろうが、全部ひっくるめて一緒に聴いてたっていうか。同じようにレコードを買ったりして聴いてた感じはある。音楽は、カッコよければなんでもいいっていう思いがあるんですよね。
──確かに。90年代くらいから、かせきさいだぁさんの同年代くらいの人たちが日本の歌謡曲なんかを自然に「カッコいい音楽」として受け入れるようになっていきましたよね。しかし、今の話だとその中でもアニソンというのは、まだ未開拓のジャンルとして残っていたということですか?
本当に、未開拓でしたね。もちろん今は声優の方とかいっぱいCDを出していますけど、もっと広い意味でのミュージシャンの人がアニソンをガッツリやった例は少ないんじゃないかと思ったんです。
──では、その中でも最初に「天使の絵の具」をやりたかったのはなぜですか?
うちの田舎は「ガンダム」をテレビでやってなかったんですよ。でも、その後に始まった「イデオン」を観たら、あまりのすごさにビックリして。そしたら次は「マクロス」が始まって、すごく面白かったんですよね。それで劇場版を観に行ったんです。そこでエンディングテーマとして流れていたのが「天使の絵の具」ですね。
──まさにリアルタイムの世代ですね。「天使の絵の具」は当時から気に入ってたんですか?
そうですね。EPOさんがコーラスをしてて。当時から「これは『オレたちひょうきん族』でエンディングテーマを歌っているEPOさんっていう人が参加してるな」っていうのは感じてました。あとでアレンジをやっている清水信之さんはEPOさんのアレンジもやっていた人だというのもわかって、そりゃあいい曲に決まってるよなって思いましたね。
──それで今回のアルバムはEPOさんも参加されてるんですね。
「天使の絵の具」「10%の雨予報」「ときめきトゥナイト」でコーラスをやっていただきました。でもコーラスというより、ツインボーカルかっていうくらい音量を上げてます。もともと原曲の「天使の絵の具」もEPOさんの声が大きく出てるんですよ。だからEPOさんの声をミックスするときは、そうしたほうがカッコいいってすり込まれてるのかもしれないですね。それにEPOさんは声が何層にもなって、そのまた倍音をきかせた声で、ぐわーって押し寄せてくる感じがすごいんですよ。それは活かさないと損なので。
アレンジでいい曲に聞こえているものが意外と多い
──しかし劇場版「マクロス」だったら、主題歌の「愛・おぼえていますか」のほうがよく知られていますけど、「天使の絵の具」を選ぶところに思い入れを感じますね。「みゆき」もエンディングテーマの「想い出がいっぱい」が有名だけど、今回は主題歌の「10%の雨予報」をカバーしている。
ちょっとアマノジャクに見えるかもしれないですね。だけど単純に曲として、僕らがシティポップっぽく「10%の雨予報」をやれば、めちゃくちゃカッコいいと思ったんですよ。今回のアルバムは、僕はラップもしてないし、詞も書いてないんですよね。
──ああ、そうか。カバーだからそうなりますよね。
だから普通に考えたらかせきさいだぁっぽさのすごく薄まるアルバムになるんですよね。でもやっぱりアイデアの出し方でヒップホップっぽいところがあるんです。たとえば「恋のB級アクション」だったら、全体的な感じはTHE STYLE COUNCILっぽくして、そこに鈴木茂さんの「砂の女」みたいなギターを足して作ると面白いんじゃないか、みたいな。
──なるほど。サンプリングして組み合わせた感じに似ているというか、マッシュアップ感がある。
そうです。マッシュアップ感で作っていこうっていうのはありましたね。基本はそういうヒップホップっぽい考え方でアレンジを考えていきました。やっぱり歌詞も書かないしラップもしないっていうのは、デカかったです。ならアレンジをとにかく面白くしなきゃと思って。
──ちなみに、今回アレンジを試みたアニソンには、ここに収まらなかったものもけっこうあるんですか?
あります。勉強になったのは、すごいいい曲だと思ってたものでも、実はそんなにメロディがよくなくて、アレンジでいい曲に聞こえていたっていうのが意外とあるんですよ。だからカバーする際に他のアレンジでやると、その曲のよさがなくなってしまうんですよね。「アニソンのカバーをするなら、あの曲やってみたら?」って教えてもらうことも多いんですけど、実際にやってみると「あ、これアレンジがいいんだね」ってわかる。そういう意味では、今回のアルバムに収めた曲は、どれもアレンジを変えたとしても曲のよさが残っている、すごくいい曲ばかりですね。
収録曲
- 10%の雨予報(H2O)
- 恋のB級アクション(伊藤さやか)
- 天使の絵の具(飯島真理)
- ルージュの伝言(荒井由実)
- ときめきトゥナイト(加茂晴美)
- フェアリー・ナイト(ソニア・ローザ)
- UNLUCKY GIRL!!(Sweety)
- motto☆派手にね!(戸松遥)
- 恋の呪文はスキトキメキトキス(伊藤さやか)
- 残酷な天使のテーゼ(高橋洋子)
- 星間飛行(中島愛)
※カッコ内はオリジナルアーティスト
加賀温泉郷野外フェス 2013
2013年9月7日(土)・8日(日)石川県 加賀市片山津温泉 柴山潟湖畔公園
※かせきさいだぁは7日に出演
SECOND ROYAL
2013年9月20日(金)京都府 京都METRO
<出演者>
LIVE: かせきさいだぁ&ハグトーンズ / カジヒデキ / Homecomings
DJ: HALFBY / Handsomeboy Technique / kikuchi(HOTEL MEXICO) / 小野真 / 小山内信介 / and more
BREADISTA!!-10th anniversary special vol.03-
2013年9月21日(土)広島県 福山Cable
<出演者>
LIVE: カジヒデキ / かせきさいだぁ & ハグトーンズ / NOEL & GALLAGHER
DJ TEAM BREADISTA!!
アニソンはじめました。~かせきさいだぁのアニソング !! バケイション ! リリース記念ライブ~
2013年9月27日(金)東京都 原宿アストロホール
<出演者>
かせきさいだぁ&ハグトーンズ(ゲストあり)
かせきさいだぁ
1994年に始動したヒップホップのソロユニット。1995年にインディーズから、翌年にメジャーからそれぞれ1stアルバム「かせきさいだぁ≡」を発表し、はっぴいえんどからの影響を感じさせる叙情的な歌詞やトラックで一躍注目を集めた。2000年代に入るとワタナベイビー(ホフディラン)とのバンド・Baby & CIDER≡、木暮晋也(HICKSVILLE)と結成したトーテムロックでの活動も開始し、さらにいとうせいこう&POMERANIANS≡にも参加。自費出版4コママンガ「ハグトン」でイラストレーターとしての才能も発揮し、年に3回のペースで個展も開催している。2009年からハグトーンズをバックバンドに迎えてかせきさいだぁ名義での音楽活動を再開。13年ぶりのソロアルバム「SOUND BURGER PLANET」を2011年に発表し、2012年にはシティポップをテーマにしたアルバム「ミスターシティポップ」、2013年8月にアニメソングカバー集「かせきさいだぁのアニソング!! バケイション!」をリリース。