ナタリー PowerPush - かせきさいだぁ

まるごとシティポップ!歌いまくるニューアルバム完成

ちょっと古くさいくらいのほうが面白い

──「冬へと走り出そう」のセルフカバーもあります。

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ライブでやっててアレンジが面白くできたので入れとこうって感じです。

──久々にオリジナルを聴いたら、今は随分落ち着いてるなって。

わざとそうしたというのもあるんですけど、こういうのはどうだろうってバンドで試してる感はありますね。

──昔の曲を歌うのが恥ずかしいっていう人は多いじゃないですか。

僕は一切ないですね。デビュー曲の「さいだぁぶるーす」をまだライブでやってますから。

──逆に言うと、長く歌える曲だとも言えますよね。

昔から時代に関係ない歌詞を書こうとは思ってました。できるだけ普遍的な言葉を使って書こうって考えてやってるので、あえてちょっと古くさくしようと意識してます。

──でんぱ組.incに提供した「くちづけキボンヌ」なんかも、それこそちょっと古い言葉を使って。

最新の言葉を使ってもしょうがないんですよ。でも「キボンヌ」って言葉なら大抵の人は知っているだろうし。

──ネットから生まれて、既に懐かしくなった言葉を使うのがユニークだなと。

松本隆先生の歌詞をずっと聴いてきたから。「ハイスクールララバイ」とか、当時聴いてもダサかったと思うんですよ。だから、ちょっと古いくらいのほうが面白いという考えはありました。そのほうがみんな知ってるし。松本隆先生に話を聞くと、CMソングを依頼されたときに「セクシャルバイオレットNo.1」というコピーが最初から決まってて、それを使ってくれって言われて「このダサい言葉をどうしたらいいんだ」ってなったときに、そのまま全部サビに使ったという話を聞いてたので。

──ああ、なるほど。その発想もまたヒップホップっぽいですね。

確かにそうかもしれない。

──女の子に書いたこういう歌詞を歌うのはいかがですか?

前作で「ときめきトゥナイト」をやったときに、乙女の気持ちを歌っても大丈夫だなって(笑)。これなら女の子に書いた曲も歌えるなと。

真似したい曲をYouTubeで聴かせて「こうやって」って

──「ときめきトゥナイト」の話が出たので、「さすがの猿飛」の主題歌「恋の呪文はスキトキメキトキス」のカバーについても聞かせてください。

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何かしらアニメの曲をやりたいなと思って。アニメの曲って基本的に音楽ファンからバカにされてるフシがあるので、THE BEATLES級にいい曲ですよと伝えたくて。80年代のアニメソングっていい曲がたくさんあったんですよね。突拍子もない歌詞が乗っかって。

──この曲は歌詞の面から見ていかがですか?

「スキトキメキトキス」なんてフレーズ、本当によく思いついたなと。こんなの考えついたらガッツポーズですよ。仕事で「1週間で書いてくれ」とか言われたんだと思うんですよ。だからすごいなと思いますよ。悔しいなと。当時のアイドルの曲は評価されてるじゃないですか。それに比べるとアニメはなかなかね。

──中川翔子さんとかがフックアップしてますけどね。

前のアルバムで「ロマンティックあげるよ」もカバーの候補に挙がってたんですけど、調べたらしょこたんがとっくにやってて。しょこたんの後にやったらカッコ悪いだろって(笑)。でもさすがしょこたんです。

──あはは(笑)。

候補曲を何曲か投げて、ハグトーンズではまったものがこれで。アレンジで遊びたいというのがあるので。THE DOOBIE BROTHERS風にしようって。

──メンバーの方たちが本当に信頼できるんですね。こうしたいなと思ったときに、ちゃんとやってくれる 。

……いや、僕が全然OKを出さないんですよ。ずっと「違う」って言ってて。リハ中に寝てるのに、起きたら「違う!」って言うから、メンバーはムカつくと思いますよ(笑)。で、トイレに入ったらと思ったら、急にドア開けて「今のもう1回やってくれ!」って言う。

──スッと飲み込んでもらってできるんじゃなくて、めちゃくちゃ試行錯誤があるんですね。

はい。すぐできる曲もあるんですけど、いつもイライラしながら試行錯誤してると思います。

──メンバーに伝えるのも難しいですよね。

小沢(健二)くんの「LIFE」のときはメンバーにレコードを聴かせて「ここと同じように演奏して」ってやってたらしいですけど、僕もiPodやYouTubeで聴かせて「こうやって」って伝えてます。でもきっと「この曲はビートが違うし同じようにはできないよ」とか「かせきさんわかってないからな」「ヒップホップの人は雑だよな」とか思われてるんですよ、絶対(笑)。でも聞こえないフリして、やってみたら「あれ、いいじゃん」みたいなことはありますね。

──サンプリングの強引な組み合わせの面白さがありますからね。

なんか合う、みたいなね。もちろんダメなときもありますけど。プリプロはものすごく大変ですね。

──すごいスピード感があるように見えますけど、練っている時間はかなりあると。

面白がってくれる音楽バカが集まってくれてるので助かってます。「夏の月面歩行」とかすごいソウルフルになっていて。

ツボイくんはハグトーンズの演奏を素材としか見ないんですよ

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──それから、アウトロが見事だと思いました。

レコード会社に曲数を増やしてほしいって言われて、ツボイくんに相談したら、今までのアウトテイクとちょっとのサンプリングで作ってくれて。

──え!? この曲、演奏したんじゃないんですか?

あの曲のあそこじゃん、っていうのを使っていて。前の曲「フリーダムフリーダム」のアウトロから曲の頭につながるようなものを作ってくれて。

──それはすごい!

ありもので作るのがやっぱりうまいんですよ。ツボイくんのところに持っていくと、ハグトーンズの演奏を素材としか見ないんですよ。だからメンバーも「そんなに変えるんだ」って唖然としちゃって。ツボイくんとはずっと一緒にやってきたので、ある意味かせきさいだぁのメンバーですよね。

──ツボイさんはタイトル曲の「ミスターシティポップ」も作ってますね。

すごいノリノリでどうしようと思ったんですけど、アルバムのタイトル曲にしちゃえと。

──アルバムタイトルが先に決まってたんですか?

すごく前に。それもレコード会社の都合で。だからテキトーに付けました。で、そういうタイトルにしたからシティポップをたくさん入れないといけないと。それを足かせにして作りました(笑)。

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かせきさいだぁ「さよならマジックガール」

ニューアルバム「ミスターシティポップ」

収録曲
  1. Mr.CITY POP
  2. さよならマジックガール
  3. ソーダフロートシャドウ
  4. 恋の呪文はスキトキメキトキス
  5. ホリデイ
  6. 夏の月面歩行
  7. 雨のサブウェイ
  8. 冬へと走りだそう
  9. くちづけキボンヌ
  10. フリーダム フリーダム!
  11. アウトロ
かせきさいだぁ

かせきさいだぁ

1994年に始動したヒップホップのソロユニット。1995年にインディーズから、翌年にメジャーからそれぞれ1stアルバム「かせきさいだぁ≡」を発表し、はっぴいえんどからの影響を感じさせる叙情的な歌詞やトラックで一躍注目を集めた。2000年代に入るとワタナベイビー(ホフディラン)とのバンド・Baby & CIDER≡、木暮晋也(HICKSVILLE)と結成したトーテムロックでの活動も開始し、さらにいとうせいこう&POMERANIANS≡にも参加。自費出版4コママンガ「ハグトン」でイラストレーターとしての才能も発揮し、年に3回のペースで個展も開催している。2009年からハグトーンズをバックバンドに迎えてかせきさいだぁ名義での音楽活動を再開。13年ぶりのソロアルバム「SOUND BURGER PLANET」を2011年に発表し、2012年にはシティポップをテーマにしたアルバム「ミスターシティポップ」をリリースした。