ナタリー PowerPush - かせきさいだぁ

まるごとシティポップ!歌いまくるニューアルバム完成

僕は歌がうまくなったんじゃなくて、秘密をつかんだんです

──このアルバムですごいなと思ったのは、かせきさんがめちゃくちゃ歌える人だったという。

いつの間にか歌えるようになったんです。1枚目、2枚目の頃はそうでもなかったんですけど。

──でも明らかに前作からも変化があるじゃないですか。この1年くらいで。

そうですね。前作のレコーディングのときに考えてて。自分は歌がうまいのではなくて「味がある系」の歌い方なんですね。細野(晴臣)さんやユーミンもそうなんです。ユーミンをカバーしたハイ・ファイ・セットは歌がうまいのに、ユーミンのほうがいつまでも聴かれるのは、何か秘密があると思って。それで3枚目を作ってるときに「こういうことかな」ってつかむところがありまして。

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──あったんですね?

誰もわからないことだと思うんですけど。それをキリンジの(堀込)高樹に話したら「そんな考え方あるんだ」ってびっくりされて(笑)。「味系」の中の人の一部がやっている手法がわかってきて。

──味系(笑)。

それを4枚目でぶつけてみました。

──それはお話できる範囲でどういう技術なんですか?

それは(笑)。あんまり言いたくないな……倍音を使って歌うんです。

──持って生まれた声質だけじゃなくて、コントロールできるんですか!?

そう。ユーミンは多分わざとやっているんですよ。僕は歌がうまくなったんじゃないんですよ。

──ええー(笑)。倍音のコントロール具合で……。

そうなんです。うまいとかそういう方法論とは違うところを使って。

──超面白い話ですね。

でも言うと誰もわかってくれないですけどね(笑)。できるかどうかもわからないし。

──倍音成分を使いこなそうとするという発想は驚きです。

「F1の車はすごく乗りにくい、その代わりめちゃ速い」みたいなもんで。ひょっとしたらめちゃ歌いにくいのかも。

──それがスコーンとはまると……。

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なんだったら歌がうまい人に匹敵できるという。山下達郎さんの域に到達するのは無理ってわかって、ユーミンや細野さんを研究して。「HOSONO HOUSE」ってみんなにずっと聴かれてる作品ですけど、パッと聴くと「この歌が?」って思うじゃないですか。でも何度も聴きたくなるのは秘密があるはずだと思って研究してたんですね。誰にも応用がきかない「謎のボーカリスト研究」(笑)。

──高樹さん以外には話されました?

ハグトーンズにも話したけど、へーって(笑)。やりたいようにどうぞって。

──あはは(笑)。

でも歌うキーを探す作業のとき、バンドの子たちが「これが一番いい」っていうのは一致するんですね。だから自分のやり方は間違ってないなと。それで自分がボーカリストとしてやっていける自信になったのはあると思います。

次はもっとシティポップになるか、それとも「泰安洋行」になるか

──「ミスターシティポップ」は文字通りシティポップがたくさん詰まったアルバムになりました。

シティポップになってます? ちょっと不安だったんですけど。

──めちゃくちゃなってると思います。前作はトラックっぽかったと思うんですが、今回はより「曲」という印象が強いですね。

「SOUND BURGER PLANET」のときもこのくらいのものにしようと思ったんけど、スチャダラパーのボーちゃん(Bose)に「かせきは放っておくとやりすぎる」って言われて。1枚目、2枚目のファンがいるんだから、いきなり2にいくんじゃなくて1.5くらいの変化にしろと。だからLB(リトル・バード・ネイション)の人たちにお願いして、シティポップっぽいものもあればトラック感のあるものもあって。で、そんな「SOUND BURGER PLANET」で評価をいただいたので、今回は好きにやろうと。

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──ワンクッションおいたから。

はい。全編シティポップをやりたいって気持ちが強くなったので。

──どうして全編シティポップをやりたかったのでしょうか?

はっぴいえんどは「日本語でロックをやるのはどうしたらいいかを考えてた」と聞いて、それと全く同じ方法論でヒップホップができるんじゃないかと思って作ったのが1枚目のとき。2枚目は、はっぴいえんどがティン・パン・アレーになって、いろんな人に楽曲提供したりバックで演奏したりしたポップスの感じをできないかというようなコンセプトで作って。で、彼らはその後、歌謡寄りのシティポップっぽくなっていくんですね。今度はそれをやりたいと。

──なるほど、はっぴいえんどの歴史を順に追っているんですね。じゃあこの先はもっと歌謡然としていく可能性があると。

もっとシティポップになるか、それとも「泰安洋行」になるか。

──トロピカルな方向に(笑)。とにかく今は歌の方向へと流れてきたと。

はい。4枚目を作る前はラップなくてもいいかなって思ってたくらいなんですけど、作ってる途中でやっぱりラップもいいなと思って入れましたね。

ニューアルバム「ミスターシティポップ」

収録曲
  1. Mr.CITY POP
  2. さよならマジックガール
  3. ソーダフロートシャドウ
  4. 恋の呪文はスキトキメキトキス
  5. ホリデイ
  6. 夏の月面歩行
  7. 雨のサブウェイ
  8. 冬へと走りだそう
  9. くちづけキボンヌ
  10. フリーダム フリーダム!
  11. アウトロ
かせきさいだぁ

かせきさいだぁ

1994年に始動したヒップホップのソロユニット。1995年にインディーズから、翌年にメジャーからそれぞれ1stアルバム「かせきさいだぁ≡」を発表し、はっぴいえんどからの影響を感じさせる叙情的な歌詞やトラックで一躍注目を集めた。2000年代に入るとワタナベイビー(ホフディラン)とのバンド・Baby & CIDER≡、木暮晋也(HICKSVILLE)と結成したトーテムロックでの活動も開始し、さらにいとうせいこう&POMERANIANS≡にも参加。自費出版4コママンガ「ハグトン」でイラストレーターとしての才能も発揮し、年に3回のペースで個展も開催している。2009年からハグトーンズをバックバンドに迎えてかせきさいだぁ名義での音楽活動を再開。13年ぶりのソロアルバム「SOUND BURGER PLANET」を2011年に発表し、2012年にはシティポップをテーマにしたアルバム「ミスターシティポップ」をリリースした。