ナタリー PowerPush - かせきさいだぁ
まるごとシティポップ!歌いまくるニューアルバム完成
13年ぶりのリリースとなった前作「SOUND BURGER PLANET」から1年と3カ月を経て、かせきさいだぁが4作目のアルバム「ミスターシティポップ」をリリースした。2ndから3rdが出るまでの期間を考えると驚異的なまでに短い間隔で発表された本作は、その勢いの良さを感じさせるとともに、よく練られた至上のポップスが詰まった素晴らしいアルバムに仕上がった。そこで今回“ミスターシティポップ”その人である、かせきさいだぁにインタビューを敢行。アルバムについてはもちろん、驚きの発声法からバックバンド、ハグトーンズについて、話は多岐に及んだ。
取材・文 / 南波一海 撮影 / 佐藤類
「お金がかかるからサンプリングはやめてくれ」って言われて
──アルバム、傑作だと思いました。
あっ、ありがとうございます。うれしい(笑)。がんばった甲斐があります。発売日を1カ月遅らせれてみっちり完成度を上げていったので。
──ラフのCD-Rが届いたあとに、そこからまた時間がかかりましたね。
出せないことはないんだけど、やりたいことを全部やったほうがいいと思って遅らせてもらって。本当は夏の真っ盛りに出したかったんですけど、CDはずっと長く聴いてもらうものなので完成度をより上げようと。
──録り直しはあったんですか?
なかったです。去年のアルバムは半年くらいかけて作ったんですけど、そこで試行錯誤したおかげで、今回は録り直さなかったです。
──合宿でレコーディングしたんですよね。
そうです。練習スタジオで8曲くらい固めて。それを3泊4日くらいでバーッと録って。
──ライブをやるようになったから音楽活動のペースが上がった感じでしょうか。
やっぱりハグトーンズっていうバンドがいてくれるおかげで、やろうとしていることが形になるというか。2009年からライブ活動してるんですけど、そのちょっと前の夏くらいから毎週1度会って、1日かけて曲作ったりアレンジも詰めてく作業をやっていて。今でも毎週やっています。
──今でもですか!? どうしてそういうペースになったのでしょうか。
1998年に2ndアルバムを出した後、事務所から「サンプリングはやめてくれ」って言われたんです。お金がかかるから。僕の曲ははっぴいえんどとかの大ネタを使ってサンプリングスポーツしてたので。それができなくなって、自分の音楽の面白いと思っていた部分の半分を奪われたので、どうしたもんかなって考えてたんですね。Baby & CIDER≡をやったり、木暮(晋也)さんとトーテムロックをやったりはしてたんですけど、あるとき、ハグトーンズの子たちがバックバンドをやりたいって言ってきてくれて。それで、自分の曲をアレンジしてやってくれないかってお願いしてやってみたんです。そうしたら、もうちょっとかせきさいだぁをやってみようかなと思うようになって、ちょうど「ネェ What do you want?」(「SOUND BURGER PLANET」収録)を作っていたので、これやってみてくれない?って一緒にやったら感触が良かったんです。それがきっかけで思ってたことがどんどんできるようになって。サンプリングしなくても思ったことができると。
──それにしても最近の制作スピードはすごいですよね。
でも前のアルバムも今回のアルバムもセルフカバーが多くて。トーテムロックの曲とかをやってるので。あんまり売れなくてすぐ廃盤になったりしたやつを(笑)。アニメのカバーもやってるから、新曲自体はそこまで多くはないです。
──かせきさんご自身が音楽モードになっているということは?
……どうだろう。ハグトーンズの子たちと必ず週1で集まるというスタンスでやっていたので、それで遊んでるようなつもりです。
──決まりごととして週1で集まっていなかったら、こうなっていたかわからない?
そうですね。
──自発的というよりは、周りが大きな要因なんですね。
はい。僕1人が出したいって言ってもこうはならなかったと思います。いろんな人たちが集まってどんどんできるようになりました。CDを出していない13年の間に人間関係が広がったからっていうのはあるかもしれないです。
ポップスの人がやるとパクリ、ヒップホップの人がやるとサンプリング
──今CDが売れないって言われる、そういう状況になってからまた始められたわけですが。
面白いからやっているというのはあります。当然売れてほしいですけどね。
──面白さが優先?
何年か前にベニー・シングスが面白いってみんなで言っていて。たしかにカッコいいと。YouTubeで見ると迷彩のジャージ上下とかで歌ってて、なんでこんな格好なの?って調べると元々ヒップホップの人なんですね。パッと聴くとポップスだけど、ヒップホップの方法論で考えて作ってると。その後もメイヤー・ホーソンが出てきて、ヒップホップの人がポップスをやるのっていいなって思ってたら、俺がやってるのもそうかと思って(笑)。ベニー・シングスが流行ってるときに、(イリシット・)ツボイくんと「日本人は今みんなこれ目指してるんだよ。でも誰もできてないんだよ」って話してて。これは俺もできないからそこは目指さないで3rdアルバム作ったんですけど、なんだかんだ同じようなことをしているなと気付いて。それで勇気が出たというか、何やってもいいなと思うようになったんですね。
──歌をもっと歌うようになったり。
そうですね。去年は「CIDERが止まらない」が表題曲だったんですけど、今回は思い切って全編歌の「さよならマジックガール」にして。これでもいいじゃんみたいな。自分としては「『オレたちひょうきん族』のテーマだった曲」みたいな気持ちです。
──要はアーバンな良い曲ですね(笑)。
そうですそうです。「ひょうきん族」に頼まれて作ったみたいな気持ちで。だからEPOさんにコーラス頼んでるし。
──これは素晴らしいですよね。
ポップスの人がやっちゃうとあからさま過ぎてパクリになっちゃうような大胆なことも、我々がやるとサンプリングなんで、って(笑)。
ニューアルバム「ミスターシティポップ」
収録曲
- Mr.CITY POP
- さよならマジックガール
- ソーダフロートシャドウ
- 恋の呪文はスキトキメキトキス
- ホリデイ
- 夏の月面歩行
- 雨のサブウェイ
- 冬へと走りだそう
- くちづけキボンヌ
- フリーダム フリーダム!
- アウトロ
かせきさいだぁ
1994年に始動したヒップホップのソロユニット。1995年にインディーズから、翌年にメジャーからそれぞれ1stアルバム「かせきさいだぁ≡」を発表し、はっぴいえんどからの影響を感じさせる叙情的な歌詞やトラックで一躍注目を集めた。2000年代に入るとワタナベイビー(ホフディラン)とのバンド・Baby & CIDER≡、木暮晋也(HICKSVILLE)と結成したトーテムロックでの活動も開始し、さらにいとうせいこう&POMERANIANS≡にも参加。自費出版4コママンガ「ハグトン」でイラストレーターとしての才能も発揮し、年に3回のペースで個展も開催している。2009年からハグトーンズをバックバンドに迎えてかせきさいだぁ名義での音楽活動を再開。13年ぶりのソロアルバム「SOUND BURGER PLANET」を2011年に発表し、2012年にはシティポップをテーマにしたアルバム「ミスターシティポップ」をリリースした。