音楽ナタリー Power Push - かりゆし58
中島美嘉と語る 「歌心」と「変化」
ドラマー中村洋貴の休養とバンドの変化
──前川さんも以前、「バンドを続けるためには、うまく休むことも大事」って言ってましたよね。
前川 そうですね。今、うちのドラム(中村洋貴)がフォーカルジストニア(脳からの運動の指令が届かず、意図に反した動き方になる症状)で叩けなくなってるんですけど、それがまさにこのベストアルバムの新曲を録ってる途中だったんです。診断を受けてから休むって決めて、今は洋貴は家で楽しそうにしているみたいで。今回の一番の原因はストレスらしくて、「好きで始めたはずのバンドなのに、何に追いかけ回されてたんだろう?」って考えさせられました。音楽を生業にして、そこに身を投じることで何か大事なものを見落としていたんじゃないか……その信号を洋貴の体を通して教えてもらってる気もしたし。
──それでも活動を続けることを選んだ、と。
前川 はい。10年の間に何かが積もり積もってた気もしたし、「休もうか」という話もあったんですけど、洋貴が「バンドの活動を止めないで、続けてくれ」って言ったんですよね。それで今はBEGINのサポートドラムをやっていた田代浩一さんに手伝ってもらってます。田代さんも同じように悩んで「ドラムを辞めようか」と思った時期もあったみたいで、「洋貴の気持ちはわかるし、あいつが戻ってくるのなら、俺はなんでもやるよ」って言ってくれて。そのおかげでアルバムのリリースもできてツアーも回れて、こうやってお話もさせてもらえてるんですよね。
──その経験は、ベストに入っている新曲にも影響があったそうですね。
前川 そうですね。たとえば洋貴が沖縄で車を運転しているときに、ラジオからかりゆし58の新曲が流れてくるとするじゃないですか。その曲が“がんばれ”とか“覚悟を決めよう”みたいな歌だったら、あいつはそれをどんな気持ちで聴くだろうと思ったんです。「そんな歌を聴いて、あいつがいい気分になれるか?」ということを考えたときに、本当の歌心が俺に宿るような気がしたんですよね。さっきの中島さんの話と重なるんですけど、自分たちにできるのはその人の気持ちを代弁したり、誰かが言おうとして届けられなかった言葉を探すことだなって。
中島 そういうところは共通してますね。
前川 そうですよね。生きることは大変だってことくらい自分たちにもわかるから、あとは「ほかの人も同じように大変なんだ」って理解することだなって。
中島 まあ、生きることの大変さをわからない人もいると思いますけどね。
前川 ハハハハハ(笑)。でも、そうかもしれないですね。
中島 私ね、この職業に就くには、わからないくらいの人のほうがいいのかもしれないって思ったことがあって。どうしても私はマジメに考えすぎてしまうところがあるから……。だって、たった5分の歌で誰かの人生を変えるかもしれない職業じゃないですか。例えば「歌を聴いて、生きようと思いました」とか。
前川 そうですね。
中島 それを深刻に受け止めちゃう性格だから、ずっと悩んでたんですよね。「この歌詞を書いたら、どれくらいの人が傷付くんだろう?」と考えてしまって。でも、それを怖がっていたら……。
──歌を届けられないですよね。
中島 だから、何も考えずにただ楽しく歌える人のほうが合ってるんだろうなって思います。歌について真剣に考えることがすごいストレスになるときもあって、耳の不調もストレスが原因だったからもうイヤだなって。私も歌うことが好きで始めたはずなのに……そこはかりゆしさんと同じですね。うまい具合に休養できたことで、今は前向きに考えられるようになったから大丈夫なんですけど。
バンドは面白いですよ
──中島さんと土屋公平さんによるロックユニット・MIKA RANMARUの始動も、気持ちが前向きになっているからこそ可能だったんでしょうね。
中島 10年くらい前から言ってたんですよ、「ロックバンドを組ませて」って。あまりにもうるさく言ってたから、スタッフも「わかったよ!」ってなったんじゃない?(笑) すごくうれしかったですね。「蘭丸さん、やってくれるの? え、池畑潤二さんも?」って。自分の気持ちが前向きに変わって、このメンバーが集まってくれて。“中島美嘉”とは別名義で発信できるのはすごくいいことだと思うから、大事にしたいですね。
前川 バンドはめっちゃ面白いですよ。
中島 大変なこともあると思うけどね(笑)。普段のライブも1人でやってるつもりはないし、「私だけのもの」って感じもないけど、やっぱり座長ですからね。バンドはみんなで分け合えることができるから、すごく助かってます。「あそこがよかったね」というのも言い合えるし。
前川 かりゆし58は幼なじみ同士で組んだんですよ。音楽をやろうぜって集まったわけではなくて、家の近くで、楽器を触れるヤツがこの4人だったっていう。しかも、24歳くらいで組んだから、かなり遅かったんです。それまではみんな職を転々としていたんだけど、何かの機会に集まったときに「今の仕事を一生やるのはきつい。スタートは遅いかもしれないけど、1年だけ真剣にバンドをやってみよう。それでもしいけそうだったら、30歳まで人生をかけてやろう」という話をして。もちろん達成感も分け合うし、「同世代のほかのバンドはすごくうまい。俺たち、ヤバくない?」みたいな話もするし。ストレスはもちろんあるけど、こんなヤツらでもステージですごい瞬間が生まれることがあるんですよね。中島さんも、きっといい時間がいっぱい待ってると思います。
中島 楽しみです。今は自分が3人いるような感覚なんですよ。代弁者や表現者としての中島美嘉、世間一般の方々がイメージしている中島美嘉、MIKA RANMARUの中島美嘉が同時進行しているというか。
──かりゆし58も中島さんも、2016年はよい状態で活動できそうですね。
中島 15周年なので、いろいろやらせていただこうかなと思ってます。「ここからだな」と思ってるんですよね、ホントに。だいぶ時間がかかってしまいましたけど……。気付くのが遅いんですよ、私。
前川 「こんなシンプルなことになんで気付かなかったんだろう」ってこと、ありますよね。お互い節目の時期に、こうやって話をさせてもらえてすごくよかったです。
かりゆし58「ハイサイロード 2006-2016~オワリ×はじまり~」
- 2016年2月20日(土)沖縄県 桜坂セントラル
- 2016年2月21日(日)沖縄県 桜坂セントラル
- 2016年2月27日(土)東京都 CHELSEA HOTEL
- 2016年2月28日(日)東京都 CHELSEA HOTEL
- 2016年3月1日(火)大阪府 BIGCAT
- 2016年3月3日(木)兵庫県 チキンジョージ
- 2016年3月4日(金)京都府 KYOTO MUSE
- 2016年3月6日(日)愛媛県 松山サロンキティ
- 2016年3月8日(火)高知県 CARAVAN SARY
- 2016年3月9日(水)香川県 DIME
- 2016年3月11日(金)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
- 2016年3月12日(土)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2016年3月16日(水)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2016年3月18日(金)福岡県 DRUM LOGOS
- 2016年3月19日(土)大分県 DRUM Be-0
- 2016年3月21日(月・祝)愛知県 Zepp Nagoya
- 2016年3月23日(水)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2016年4月2日(土)新潟県 新潟LOTS
- 2016年4月3日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2016年4月6日(水)秋田県 Club SWINDLE
- 2016年4月8日(金)宮城県 darwin
- 2016年4月9日(土)福島県 郡山CLUB #9
- 2016年4月17日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2016年5月1日(日)大阪府 大阪城音楽堂(※追加公演)
- 2016年5月8日(日)東京都 日比谷野外大音楽堂(※追加公演)
- かりゆし58 ベストアルバム「とぅしびぃ、かりゆし」/ 2016年2月22日発売 / Pacific Records
- 初回限定盤BOX仕様 [2CD+DVD+書籍+グッズ] / 6264円 / LDCD-50126~7/B
- 初回限定盤 [2CD+DVD+書籍] / 4860円 / LDCD-50128~9/B
- 通常盤 [2CD] / 3240円 / LDCD-50130~1
DISC 1 CD収録曲
- オワリはじまり
- 初恋夜道
- オリーブ
- ウクイウタ
- アイアムを
- For di Future
- 恋唄
- 嗚呼、人生が二度あれば
- かりゆしの風
- 心に太陽
- 日々紡ぐ
- ウージの唄
- 愛の歌
DISC 2 CD収録曲
- このまちと
- Oh!Today
- ナナ
- 南風になれ
- 少年は旅の最中
- まっとーばー
- そばの唄
- 愛なのでしょう
- アンマー(アコースティックver)
- ゆい
- 恋の矢
- さよなら
- 証
- 恋人よ
- 青春よ聴こえてるか
- 潮崎
- 生きてれば良い事あるみたいよ
DVD収録内容
- かりゆし58の10年プレイバック~あのときのかりゆし58~
かりゆし58(カリユシゴジュウハチ)
2005年に沖縄で結成された、前川真悟(Vo, B)、新屋行裕(G)、中村洋貴(Dr)、宮平直樹(G)からなる4人組バンド。バンド名は沖縄の方言で「めでたい / 縁起がいい」の意味を持つ「かりゆし」と、沖縄 のメインストリート国道58号に由来する。2006年2月にミニアルバム「恋人よ」をリリースし、続くシングル「アンマー」がロングヒットを記録。2009年2月にリリースしたシングル「さよなら」は松山ケンイチ主演ドラマ「銭ゲバ」主題歌に採用された。2013年9月には5thアルバム「8」を発表し、翌月より全国47都道府県を回るロングツアーを実施。2014年10月に6枚目のフルアルバム「大金星」をリリースした。2015年12月に中村が病気療養のため活動を休止。デビュー15周年イヤーとなる2016年にはデビュー記念日の2月22日にベストアルバム「とぅしびぃ、かりゆし」を発表し、現在は5月まで続く全国ツアー「ハイサイロード 2006-2016~オワリ×はじまり~」を展開している。
中島美嘉(ナカシマミカ)
1983年鹿児島県生まれ。2001年にドラマ「傷だらけのラブソング」のヒロインに抜擢され、シングル「STARS」で歌手デビュー。2002年リリースの1stアルバム「TRUE」はミリオンセラーを記録した。以降も「雪の華」「愛してる」「桜色舞うころ」などヒット曲を連発。女優としても活躍し、2005年公開の映画「NANA」では主役のナナ役を熱演した。2010年に両側耳管開放症の悪化により音楽活動を休止するも、2011年に活動を再開し、2013年1月には7thアルバム「REAL」をリリース。2015年に土屋公平(G)らと新プロジェクト「MIKA RANMARU」を始動させ、2016年1月にMIKA RANMARUの初作品としてライブアルバム「OFFICIAL BOOTLEG LIVE at SHINJUKU LOFT」をリリースした。2月には初のトリビュートアルバム「MIKA NAKASHIMA TRIBUTE」、3月にはMTVのアコースティックライブ番組での音源を収録したアルバム「MTV Unplugged」を発表する。