音楽ナタリー Power Push - かりゆし58
中島美嘉と語る 「歌心」と「変化」
救う歌のあり方
前川 実はこの「アナタの唄」を書いたあとくらいから自分たちの曲の中に、ただまっすぐ誰かの救いになるような歌を歌おうとする気持ちだけじゃなくて、憂いも入ってくるようになったんです。でも自分としては「それも悪くないな」って考えてて。そのきっかけをくれたのも中島さんかもしれないです。自分たちは沖縄の人間であることを武器にして、“楽しくいこうよ”という歌を歌ってきたけど、中島さんの憂いを帯びた歌で救われてる人はたくさんいて。その違いはなんだろうって考えたときに、悲しみを知っている人は、痛みにもがいてる姿にも救いを見出だせることがあるんじゃないかと思って。
──その結果、中島美嘉という歌い手の特長を深く理解して、それを自分たちの作風にも反映させることができたと。
中島 うれしいです。あと、さっき「“僕”という歌詞が似合う」って言ってくれたじゃない? 自分で書く歌詞は確かに“僕”が多いし、よく「“僕”が似合う」とも言われるんだけど、それはなんでだろう? 中身がオジサンだからかな?
前川 いやいや(笑)。これも自分の勝手な印象ですけど、中島さんはそのときの場所や状況から抜け出そうとしてもがいてる感じがするんですよね。大成功しているときも、うまくいってないときも。女性という1つの性にも収まらない感じがあるから、“僕”が似合うのかもしれないなって。とにかくエネルギーがすごいから、ぶっ飛んだことをやっても意外という感じがしなくて、「もともと持っていたものなんだろうな」っていう印象があります。
──中島さんはビジュアルをはじめ一般的な女性アーティストのイメージとかけ離れた存在感がありますからね。
中島 それ、褒めてます?
──褒めてます(笑)。変化の仕方も極端だし。
中島 0か100かしかないんですよ、性格上。「中間を取ってうまくやろう」っていうのがどうしてもできないんです。だから15年間、スタッフのみんなを困らせてると思います(笑)。
──「前のほうがよかった」みたいな批判は怖くないですか?
中島 それはまったくないですね。だって、いろいろ言われるうちが華でしょ? イヤなことを言われたり書かれたりしても、「私のことが気になってんじゃん!」って思うだけだし、あとは「お好きにどうぞ」です。
前川 イケてますね。
中島 イケてないよ(笑)、バカなだけ。
共作のやりとりを巡るエピソード
──前川さんが中島さんに提供した「愛の歌」についても聞かせてください。
前川 以前「中島美嘉さんに曲を書いてみない?」っていうお話をいただいたことがあるんですけど……。
中島 その後の細かいやりとりをする時間をあまり作れなくて。そのとき「(かりゆし58は)ご自分たちのペースを大事にされていると思うから、それを壊さないであげてください」って言って実現しなかったんです。また機会があればいいなと思ってたんですけど、今回、「愛の歌」を書いていただいて。「やっと来た!」という感じですね。
前川 そう言ってもらえてよかったです。実は前回お話をいただいたタイミングって、バンドとして力が抜けてきた時期なんですよね。30歳になって、「どうやって続けていく?」ということを考え始めて。僕も初めてスランプみたいになって、今まで作った曲にも、新しく作る曲にも感動できなくなってたんです。昔の歌を歌うのも苦痛だし、歌詞やメロディを書いてもクシャクシャポイッ、ということが続いて。
中島 そうなんだね。
前川 それで今回はバンドのデビュー10周年が目の前にあったタイミングだったんですけど、やっぱり「どうやって生きていこうか?」という話も出てたんですよね。「音楽だけに自分の人生の時間を100%使うのは違う気がする」とか……。そういうときにドラマ「表参道高校合唱部」の楽曲提供のお話をいただいて、ドラマの1話と2話の台本を読ませてもらったんですけど、バラバラの状態だった高校生たちがそれぞれの愛するモノのために集まってくるというストーリーには、今のバンドの状態に似てる部分もあるなって思えて。
──そこが「愛の歌」の起点になったわけですね。中島さんは「愛の歌」を聴いて、どんなふうに感じました?
中島 曲自体は「さすが!」だけど、独特の歌い回しもあるし「難しいよ!」って(笑)。あと「私の声でこの曲を歌ったとき、どう響くんだろう?」というのもありましたね。彼はもちろんドラマのことも考えただろうし、私のことも考えてくれたと思うんですけど、いきなり「巡る 巡り巡るめぐり逢い」という歌詞が出てくるのはすごいなって思いました。また勉強になりましたね。
前川 ありがとうございます。中島さんは、自分自身で自分を一番酷評しているような人だと思うんです。そういう人がこの曲に魂を注いでくれて、大事にしてくれるかぎり、曲はちゃんと育っていくだろうなって。15年も歌をやっている歌い手、10年バンドをやっているバンドマンの人生が重なったという記録がこういう曲でホントによかったなって思います。10年後、20年後にもライブで聴けたらいいですね。
それぞれの「愛の歌」
──「愛の歌」は歌うことへの決意が伝わってくる楽曲でもありますね。
前川 中島さんも覚悟を持ってステージに立ってると思うんですよ。これまで築き上げてきたものがすごいから、調子がいい、悪いに関わらず、突きつけられるものも俺たちとは比べものにならないほどデカいと思うんです。ステージで横を見ても誰もいないし、目の前には、ある意味残酷なくらいの期待を持っている人たちがいて。そこから逃げずに向かっていくって、どんな覚悟なんだろう?って思ったんですよ。
中島 すごい、全部読み取られてるみたい。私からこの曲について言うことはもう何もありません。
前川 いや、そんな(笑)。かたや俺たちは自分たちに対して「それぞれの人生だからね」って言って逃げ込もうとしているところもあって……。最後は「どうなるかわからないけど、こいつらと一緒にバンドをやれて楽しい」という思いで「愛の歌」の歌詞を書いたんですけどね。
中島 そういえば、かりゆしさんのセルフカバーでは歌詞を変えてましたよね?
前川 そうなんですよ。中島さんのバージョンは「青春の甘酸っぱいエピソードが感じ取れるほうがいいよね」という話があったので、恋愛に関する歌詞も入れてたんです。で、俺らとしては「卒業式でもこの曲を歌ってほしい」という気持ちがあったから、そのパートを削ったんですよね。バンドでやるんだから、もうちょっとガシャガシャ演奏するのに向いた歌詞でもいいかなというのもあったし。
ステージに立つ気持ちの変化
──これまでのキャリアの中で、ライブなどに対する意識に変化はあったんでしょうか?
中島 ガッツリありましたね。かりゆしさんの新曲のタイトル(「嗚呼、人生が二度あれば」)じゃないですけど、いまは“2度目の人生”です。
前川 そうなんですか。
中島 はい。耳の不調で休養する前はずっと「できる限り作品に近い形で歌を聴いてもらわなくちゃいけない」って言われていたし、私もそれが正しいことだと思っていたんです。でも、「どうしても同じようにはできないのにな」といういらだちもあって。その後、休養したときにいろいろ考えて「私は代弁者だな」と思ったんですよ。「あなたの心を代弁するから、泣きたかったり、苦しかったら、ライブに来てください」という方向に気持ちを変えたら、緊張と不安が大きかったライブが楽しくなっちゃって。
──確かに以前はツアーのたびに気持ちが落ちてた印象がありますからね。結果的には休養したことがよかったのかも。
中島 うん、よかったと思います。休んでなかったらあのまま同じことを続けていただろうし、まだまだもがいて、イライラしてたと思いますね。今はいい意味で開き直れたし、すごく歌いやすくなったんですよ。
次のページ » ドラマー中村洋貴の休養とバンドの変化
- かりゆし58 ベストアルバム「とぅしびぃ、かりゆし」/ 2016年2月22日発売 / Pacific Records
- 初回限定盤BOX仕様 [2CD+DVD+書籍+グッズ] / 6264円 / LDCD-50126~7/B
- 初回限定盤 [2CD+DVD+書籍] / 4860円 / LDCD-50128~9/B
- 通常盤 [2CD] / 3240円 / LDCD-50130~1
DISC 1 CD収録曲
- オワリはじまり
- 初恋夜道
- オリーブ
- ウクイウタ
- アイアムを
- For di Future
- 恋唄
- 嗚呼、人生が二度あれば
- かりゆしの風
- 心に太陽
- 日々紡ぐ
- ウージの唄
- 愛の歌
DISC 2 CD収録曲
- このまちと
- Oh!Today
- ナナ
- 南風になれ
- 少年は旅の最中
- まっとーばー
- そばの唄
- 愛なのでしょう
- アンマー(アコースティックver)
- ゆい
- 恋の矢
- さよなら
- 証
- 恋人よ
- 青春よ聴こえてるか
- 潮崎
- 生きてれば良い事あるみたいよ
DVD収録内容
- かりゆし58の10年プレイバック~あのときのかりゆし58~
かりゆし58(カリユシゴジュウハチ)
2005年に沖縄で結成された、前川真悟(Vo, B)、新屋行裕(G)、中村洋貴(Dr)、宮平直樹(G)からなる4人組バンド。バンド名は沖縄の方言で「めでたい / 縁起がいい」の意味を持つ「かりゆし」と、沖縄 のメインストリート国道58号に由来する。2006年2月にミニアルバム「恋人よ」をリリースし、続くシングル「アンマー」がロングヒットを記録。2009年2月にリリースしたシングル「さよなら」は松山ケンイチ主演ドラマ「銭ゲバ」主題歌に採用された。2013年9月には5thアルバム「8」を発表し、翌月より全国47都道府県を回るロングツアーを実施。2014年10月に6枚目のフルアルバム「大金星」をリリースした。2015年12月に中村が病気療養のため活動を休止。デビュー15周年イヤーとなる2016年にはデビュー記念日の2月22日にベストアルバム「とぅしびぃ、かりゆし」を発表し、現在は5月まで続く全国ツアー「ハイサイロード 2006-2016~オワリ×はじまり~」を展開している。
中島美嘉(ナカシマミカ)
1983年鹿児島県生まれ。2001年にドラマ「傷だらけのラブソング」のヒロインに抜擢され、シングル「STARS」で歌手デビュー。2002年リリースの1stアルバム「TRUE」はミリオンセラーを記録した。以降も「雪の華」「愛してる」「桜色舞うころ」などヒット曲を連発。女優としても活躍し、2005年公開の映画「NANA」では主役のナナ役を熱演した。2010年に両側耳管開放症の悪化により音楽活動を休止するも、2011年に活動を再開し、2013年1月には7thアルバム「REAL」をリリース。2015年に土屋公平(G)らと新プロジェクト「MIKA RANMARU」を始動させ、2016年1月にMIKA RANMARUの初作品としてライブアルバム「OFFICIAL BOOTLEG LIVE at SHINJUKU LOFT」をリリースした。2月には初のトリビュートアルバム「MIKA NAKASHIMA TRIBUTE」、3月にはMTVのアコースティックライブ番組での音源を収録したアルバム「MTV Unplugged」を発表する。