音楽ナタリー Power Push - かりゆし58

中島美嘉と語る 「歌心」と「変化」

かりゆし58がデビュー10周年を記念した2枚組ベスト盤「とぅしびぃ、かりゆし」をリリースした。DISC 1には「オワリはじまり」「かりゆしの風(知名定男アレンジver)」の再録バージョンや、ドラマ「表参道高校合唱部」劇中歌として前川真悟(Vo, B)が中島美嘉に提供した「愛の歌」などのセルフカバー、新曲3曲を収録。そしてDISC 2は「アンマー」「ナナ」「さよなら」などのヒット曲、代表曲17曲をセレクトした内容となっている。本作には2006年のデビュー以来、人間味にあふれた歌を生み出してきた彼らの“これまで”と“これから”が生々しく刻まれている。

今回は前川と、一見かりゆしとはカラーが異なるアーティスト像を持ちながら実はバンドのファンだという中島美嘉のインタビューを実施。お互いの音楽に対する印象、両者がつながるきっかけとなった「愛の歌」の誕生秘話から、歌うことに対する意識の変化などについてじっくり語り合ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 須田卓馬

“プロポーズソング”の「ナナ」

──中島美嘉さんと前川真悟さんは、これが初対面だそうですね。まず、お互いの音楽の印象について教えてもらえますか?

中島美嘉 もちろん以前からかりゆしさんのことは知ってたんですけど、曲をしっかり聴くようになったきっかけがあるんです。4年くらい前なんですけど、私、今の旦那(バレーボール男子日本代表・清水邦広選手)と付き合って、すぐにニューヨークに行っちゃったんですね。1月に飛んだんですけど、2月の私の誕生日に、彼からプレゼントが送られてきたんです。それがかりゆしさんの「かりゆし58ベスト」で。

前川真悟 え、ホントですか?

左から中島美嘉、前川真悟(かりゆし58)。

中島 旦那は前からかりゆしさんを大好きだったみたいなんですよね。あのCDに「ナナ」が入ってるじゃないですか。私、ずっと前に「NANA」という映画に出演したことがあるから、「これはメッセージに違いない」と思い込んでしまって。しかも結婚を申し込む内容の歌だったから「私に結婚を申し込んでるんだ!」って号泣しちゃったんです。で、彼に連絡を取ったら「『ナナ』もいい曲だけど、俺が一番好きなのは『アンマー』やで」って(笑)。

前川 ハハハハハ!(笑)

──プロポーズではなかった、と(笑)。

中島 そうそう。それ以来、私はずっとかりゆしさんの曲を聴いてます。ニューヨークで生活してるときもすごく助けられましたね。

前川 うれしいです。俺は海外に行ったことがないんですけど、CDだけでも旅させてもらえて。

中島 私の部屋に遊びに来た人はみんな聴いてるっていうくらいずっと聴いてるんですよ。かりゆしさんの曲の中には「この一節が好き」という歌詞がたくさんあったんですよね。「こんな言い回しをするんだ」とか「いい言葉だな」と思うフレーズもいっぱいあって、そのうち「この人(前川)の頭の中、どうなってるんだろう?」という興味が湧いてきて。私が歌詞を書くときは比喩とか、少し捻った表現をすることが多いんですね。前川さんの歌詞はすごくストレートだし、短い一節だけで情景がすべて頭に浮かぶんです。

──物語性も強いですよね。

中島 そう、最後までしっかりストーリーがあって。私とは真逆の表現だと思ったし、「こういうふうに書けば、聴いている人をもっと元気付けられるのかな」とか、とても勉強になりましたね。

中島美嘉に歌ってもらいたい「アナタの唄」

前川 ちょうど10年くらい前、「アンマー」を録り終えたくらいのタイミングだと思うんですけど、「アナタの唄」っていうバラードを書いて、音源をディレクターさんに聴かせながら「この曲、中島美嘉さんに歌ってもらえたら最高だと思うんですけど」って言ったら、「お前、身分を知れ」って言われたことがあって。

中島 え、そうなの!? 「アナタの唄」、大好きですよ。

──どうして前川さんはこの曲を中島さんに歌ってほしいと思ったんですか?

前川 俺はバンドをやる前にトラックの運転手をやっていて、1日中、ラジオから音楽を浴びる生活をしていたんですね。そのときに中島美嘉さんの曲を聴いて、すごくいいなと思っていて。特に中島さんの低い声が好きで、「憂いのある歌姫」というイメージを勝手に持ってたんです。それに“僕”っていう歌詞が似合う印象もあったから「こういう人が、男心をわかってもらうような歌を歌ってくれたらうれしいな」と思って。

──それが「アナタの唄」だったと。

前川真悟(かりゆし58)

前川 もちろん作ってるときから中島さんに歌ってもらうことを意識していたわけではなくて、できあがってから「もしこれを歌ってくれたら」と思ったんですけどね。この曲に出てくる女の人は、つらい恋をして、逃げるようにして優しい男のもとに行くんですよね。でも男の人は全部……ときどき悲しそうな顔をしていることも、前の恋が忘れられないこともわかっていて、その上で女の人を受け入れることで、それがまた愛を育てていくと思っているっていう。

中島 そうそう。「アナタの唄」を聴いたとき、泣いたもん。「なんて心の広い男なんだろう!」と思って。この曲だけ、少し雰囲気が違ってたんですよね。ほかの曲は明るくて太陽のような感じなんですけど、「アナタの唄」は悲しみ、切なさが残る曲で。いつか歌います。歌わせてください。

前川 はい、ぜひ!

かりゆし58 ベストアルバム「とぅしびぃ、かりゆし」/ 2016年2月22日発売 / Pacific Records
初回限定盤BOX仕様 [2CD+DVD+書籍+グッズ] / 6264円 / LDCD-50126~7/B
初回限定盤 [2CD+DVD+書籍] / 4860円 / LDCD-50128~9/B
通常盤 [2CD] / 3240円 / LDCD-50130~1
DISC 1 CD収録曲
  1. オワリはじまり
  2. 初恋夜道
  3. オリーブ
  4. ウクイウタ
  5. アイアムを
  6. For di Future
  7. 恋唄
  8. 嗚呼、人生が二度あれば
  9. かりゆしの風
  10. 心に太陽
  11. 日々紡ぐ
  12. ウージの唄
  13. 愛の歌
DISC 2 CD収録曲
  1. このまちと
  2. Oh!Today
  3. ナナ
  4. 南風になれ
  5. 少年は旅の最中
  6. まっとーばー
  7. そばの唄
  8. 愛なのでしょう
  9. アンマー(アコースティックver)
  10. ゆい
  11. 恋の矢
  12. さよなら
  13. 恋人よ
  14. 青春よ聴こえてるか
  15. 潮崎
  16. 生きてれば良い事あるみたいよ
DVD収録内容
  • かりゆし58の10年プレイバック~あのときのかりゆし58~
かりゆし58(カリユシゴジュウハチ)
かりゆし58

2005年に沖縄で結成された、前川真悟(Vo, B)、新屋行裕(G)、中村洋貴(Dr)、宮平直樹(G)からなる4人組バンド。バンド名は沖縄の方言で「めでたい / 縁起がいい」の意味を持つ「かりゆし」と、沖縄 のメインストリート国道58号に由来する。2006年2月にミニアルバム「恋人よ」をリリースし、続くシングル「アンマー」がロングヒットを記録。2009年2月にリリースしたシングル「さよなら」は松山ケンイチ主演ドラマ「銭ゲバ」主題歌に採用された。2013年9月には5thアルバム「8」を発表し、翌月より全国47都道府県を回るロングツアーを実施。2014年10月に6枚目のフルアルバム「大金星」をリリースした。2015年12月に中村が病気療養のため活動を休止。デビュー15周年イヤーとなる2016年にはデビュー記念日の2月22日にベストアルバム「とぅしびぃ、かりゆし」を発表し、現在は5月まで続く全国ツアー「ハイサイロード 2006-2016~オワリ×はじまり~」を展開している。

中島美嘉(ナカシマミカ)
中島美嘉

1983年鹿児島県生まれ。2001年にドラマ「傷だらけのラブソング」のヒロインに抜擢され、シングル「STARS」で歌手デビュー。2002年リリースの1stアルバム「TRUE」はミリオンセラーを記録した。以降も「雪の華」「愛してる」「桜色舞うころ」などヒット曲を連発。女優としても活躍し、2005年公開の映画「NANA」では主役のナナ役を熱演した。2010年に両側耳管開放症の悪化により音楽活動を休止するも、2011年に活動を再開し、2013年1月には7thアルバム「REAL」をリリース。2015年に土屋公平(G)らと新プロジェクト「MIKA RANMARU」を始動させ、2016年1月にMIKA RANMARUの初作品としてライブアルバム「OFFICIAL BOOTLEG LIVE at SHINJUKU LOFT」をリリースした。2月には初のトリビュートアルバム「MIKA NAKASHIMA TRIBUTE」、3月にはMTVのアコースティックライブ番組での音源を収録したアルバム「MTV Unplugged」を発表する。