音楽ナタリー PowerPush - 前川真悟(かりゆし58)×若旦那
俺たちがあげる“大金星”
人生をかけて夢を歌いたい
──かりゆし58のニューアルバム「大金星」ですが、こちらは前川さんの知り合いの方が経営してるラーメン屋の店名だと伺っています。作品の内容と何か関係があるのでしょうか。
前川 はい。「大金星」は僕の兄弟分がやってる店で。彼は格闘技をやってたんですが、網膜剥離になってその道を諦めたんです。その後はアウトローな仕事にありついて、がむしゃらに働いてその業界のトップになった。でも彼には大好きな女の子がいて「こいつ守らなきゃってときに俺が逮捕されたらどうすんの」って考え、それまでの仕事を全部捨てて、7席しかないラーメン屋を開けたんです。その話とかそいつが店に「大金星」って付けたの、めっちゃいいなって思って。
若旦那 うん。
前川 それで友達が叶えた夢、そこからもらった感動を歌にしようとしたんです。泥臭くて、でも純度の高い自分の夢や願いを抱いて、それを正直に歌うっていうことに僕も人生かけてみたくて。そんなエネルギーをくれたトピックを音楽にしたのが今回のアルバムですね。
ボツ曲なしの“種を拾おうキャンペーン”
──今回のアルバムってサウンド面で新しい打ち出しが感じられる内容になっていますね。例えば「E.D.O Dance」「フリーなり」みたいなダンスミュージックやディスコのフレイバーを取り入れたものはかりゆしの新しい一面じゃないかと思いました。
前川 なんでこうなったかっていうと、今回はボツ曲を作らなかったからなんですよ。アルバムを作るとなると、以前はたくさんの候補からふるいにかけて選りすぐりを集めたものがいい作品になるって思ってたけど、ちょっと考え方を変えて。
──というと?
前川 生まれた楽曲の中で3分間全部悪いものなんてないよねって思って、今回はメンバーがそれぞれ出してきたデモをとにかく愛してみようと。何十回も聞いて「ここのメロディ最高だからこっから生かしていこうよ」って、それを生かす方法を考えていきました。それで“自分たちの中にある種を拾おうキャンペーン”みたいなのをやってみて、結果的にこんな内容になったんです。今後の自分たちにもいい影響を与えるアルバムができたと思ってます。
──自分たちから出てきたものを素直に形にした結果がこうなったと。
前川 そうです。今までより楽曲を愛してみたら、今までと違うことが起こったっていうことですね。
若旦那 曲って自分らの作った子供なんだよね。すごく売れそうな曲があれば、逆に売れなさそうな、不器用な曲もあって。だからって曲を捨てるってことは俺もできない。絶対に必要な瞬間は来るって思うからボツがあっても絶対どこか別のところで使う。
前川 はい。
若旦那 例えばグループで作った曲を他の3人が「ピンとこねえな」って言ったとしても俺は「何がいいとか悪いとか誰が決めんだよ」ってメンバーと戦ったり、ソロに入れる。自分がいいと思うことを「これがいいんだよ」って言いたいからミュージシャンやってんだよね。迎合して「ですよねー」って言えたら、たぶん俺は音楽とかクリエイティブな仕事やってない。ものすごく厳しくて、かつ未来があるようでないって仕事だけど。
前川 そうですね。本当にそう思います。
音楽から逃げ出したくなった時期
──ミュージシャンに未来はない、ですか?
若旦那 未来がっていうか、約束されたものが1個もないんですよ。そもそも音楽がなんで金になってんのかよくわかってないのにやってるというか、システムがお金をくれてるだけで。
前川 最近まったく同じこと考えてました。みんなに1つの娯楽として音楽を楽しんでもらってる中で、それがどこでお金に変わるのかとか、どうなったらいくらとかがわからない。だから自分の竿みたいなの差しとかんと、もうどこに流れていくかわからない。僕らは自分に確信を持つしか次の道を伸ばせないってことを痛感してるんです。だって歌詞って、必ず心やら頭を通って言葉にしていくものだから、よどみなく通すために自分が何かしらの確信を抱いてないと作れないんです。自分を信じてあげないと。
若旦那 うん。
前川 若旦那さんと曲を作り始める直前くらいまで、実は2年ぐらい自分の書く曲にまったく感動できなくなった時期があったんですよ。
──えっ。
前川 僕はもう10年以上ずっと音楽をやってきて、作り方はわかってるんです。コード並べてメロディ乗っけて、そこに日本語を乗っけたものを曲と呼ぶならいくらでも作れる。
──形式上の楽曲は作れる、と。
前川 はい。でも「それでいいのかな」と疑うようになったというか、目の前で起こったことや人が一生懸命生きてることに感動しない時期がきちゃって。ドラマはそこにあるのに、歌にしようとする動作が起こせなかったり、音楽に昇華するっていうモチベーションにつながらなかった。
若旦那 へえ。
前川 それでもう生まれて初めて音楽から逃げ出したくなるくらいになって。今なんでだろうって改めて思い返したら、確信が持ててなかったんですよ。世の中に絶対がない、明確な未来がないことが怖くて。
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- かりゆし58 ニューアルバム「大金星」2014年10月8日発売 / LD&K Records
- 初回限定盤 [CD+DVD+小冊子] 4104円 / LDCD-50104/B / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 2700円 / LDCD-50105 / Amazon.co.jp
CD収録曲
- 大金星
- Oh! Today
- 青の道しるべ
- 愛を信じている
- RRC
- E.D.O Dance
- アットホーム
- 生きてれば良い事あるみたいよ
- いいよ最高
- フリーなり
- 南風になれ
- 今ならここに
- きっと雨は降らないでしょう
- 大洋と太陽のBBQパーラー
初回限定盤 DVD収録内容
- 「Oh! Today」ミュージックビデオ
- 「愛を信じている」ミュージックビデオ
- ファンクラブLIVEダイジェスト映像
- MV撮影風景、BOOK撮影風景、対談風景などのオフショット
初回限定盤 BOOK収録内容
<メンバーが"会いたい人"との対談企画>
- 前川真悟(Vo, B)×島袋優(BEGIN)
- 新屋行裕(G)×May'n
- 中村洋貴(Dr)×内間政成(スリムクラブ)
- 宮平直樹(G)×宮平勝也(ROACH)
<地元沖縄南部紹介>
- 愛する地元糸満など南部の名所、美味しいお店をメンバーが紹介
<メンバーが語るアルバムへの思い>
- 一致団結で作り上げた今作への思いを各メンバーが語るロングインタビュー
かりゆし58(カリユシゴジュウハチ)
2005年に沖縄で結成。前川真悟(Vo, B)、新屋行裕(G)、中村洋貴(Dr)、宮平直樹(G)からなる4人組バンド。バンド名は沖縄の方言で「めでたい / 縁起がいい」の意味を持つ「かりゆし」と、沖縄 のメインストリート国道58号に由来する。2006年2月にミニアルバム「恋人よ」をリリースし、続くシングル「アンマー」がロングヒットを記録。2009年2月にリリースしたシングル「さよなら」は松山ケンイチ主演ドラマ「銭ゲバ」主題歌に採用され大きな話題を集めた。2011年7月にはベストアルバム「かりゆし58ベスト」をリリース。2013年9月には5thアルバム「8」を発表し、10月から全国47都道府県を回るロングツアーを実施した。そして2014年の10月に6枚目のフルアルバム「大金星」をリリース。11月からは30公演以上のライブハウスツアー「ハイサイロード~大金星~2014-15」をスタートする。
若旦那(ワカダンナ)
1976年生まれ、東京出身。加藤ミリヤやJAMOSAの楽曲のプロデュースを手がけ、自身もこれらの楽曲に客演として参加。2010年3月にはハイチ震災のチャリティソング「いのち~LOVE FOR HAITI~」を配信リリースし、2011年11月にはエイベックスから1stソロアルバム「あなたの笑顔は世界で一番美しい」を発売した。そして2014年には主催イベント「バカヤロ」をスタートさせ、バンドセットのライブも積極的に展開する。そして11月12日には徳間ジャパンの移籍第1弾作品となる3rdアルバム「WAKADANNA 3 ~絶対に諦めないよ、オレは!!~」をリリース。2015年には自己最多となる全国22カ所の「絶対に諦めないよ、オレは!!ツアー2015」も実施する。
- 若旦那 ニューアルバム「WAKADANNA 3 ~絶対に諦めないよ、オレは!!~」2014年11月12日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
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