ナタリー PowerPush - かりゆし58
人間の素晴らしさを歌う ファン投票ベストアルバム
笑うことを選んでくれた先輩たちに感謝してる
──「ウージの唄」は、第二次世界大戦での沖縄戦をモチーフにしているように思えますね。
前川 よく「反戦の歌ですか? 平和を訴える歌ですか?」って訊かれるんですが、そんなつもりはなくて。そうじゃなく、人の生き方を歌にしたというか。何かが起こったとき、起こってしまったことに対して泣くか笑うか。沖縄の先輩たちは笑うことを選んできてくれたんですね。笑うことを選んでくれた先輩たちに、俺は感謝してて。笑うことを選んで生きてきた人の優しさ、明るさ、たくましさが愛しいなって、そういう歌なんです。
──反戦の歌じゃなくて人間賛歌というか。
前川 そうですね。そんな感じです。
──かりゆし58の曲ってポジティブだけど、応援歌とはちょっと違いますよね。「がんばろう」ではなく「笑ってみよう」って感じの歌で。
前川 30年近く生きてきてちょっとわかったのは、元々みんな、なんとかしたくて生きてるんだなって。それは俺が言わなくても、みんなわかってることで。で、楽しいから笑うのはもちろんだけど、苦しいから笑うってこともあるんですよね。人間って単純じゃないし、泣きたいときは泣いたっていい。だから「がんばろう」でもないし「笑おう」ともちょっと違うんです。「笑ったらちょっとは楽になるかもよ」って、そんな願いみたいな気持ちなんですよね。
「福島に遊びに来てよ」って言われて、この歌を作った
──アルバムのラストに収録されている新曲「このまちと」にも、願いの気持ちを感じます。これは震災後に作った曲ですよね?
前川 震災があって、何を歌うべきかって考えて。そのときに聞こえてくるメッセージって「立ち上がろう」とか「ひとつになろう」とか「1人じゃないよ」とか、世の中はそういう言葉であふれかえっていた。それを俺が重ねて言う必要はないなって思ったんです。で、福島に友達がいてメールのやり取りをしてたんですけど、その友達は「しんどい」とか「辛い」とか「悲しい」って言うんじゃなく、「福島はいいとこだから遊びに来てよ」って言ってくれて。それを歌にしただけなんです。
──さりげないけどうれしい言葉ですね。
前川 はい。俺の友達は明るくて、福島はいいところだっていう、そのひとつの事実を歌にしただけなんですよ。もちろんいろんな人がいていろんな現実があって、だから俺は「この街は大丈夫だ」って言う気はないし「まだまだ苦しいけどがんばろう」なんて言う気もない。俺が歌えることは、俺が出会ったひとつの現実だけ。最近の心あたたまる出来事のひとつを歌っただけなんです。
──被災地の方々のことも、被災者ってことでひと括りにはできないし。
前川 ですよね。1人1人の生活や現実がある。でもこの曲は被災地の方に聴いてほしいっていうのは思いますけどね。
──実際に被災地で歌ったんですか?
前川 はい。そこにいる人たちの迷惑にならないなら歌いに行こうって。で、コーディネートしてくれた方には「『アンマー』と『さよなら』は歌わないでくれ」って、事前に言われてたんです。お母さんを亡くされた方もいるし、別れのイメージがある曲は歌わないほうがいいだろうって。でも俺、その場で「こんな歌があるんですけど歌っていいですか?」って訊いたんです。そしたらみんな拍手してくれて。だから歌いました。歌い終わっても拍手してくれて。
──被災地で歌ってみて、音楽で希望を与えられると感じましたか?
前川 いや、俺は希望や理想を歌うつもりはなくて。そこで音楽と遊べればいいと思うんです。音楽は気持ちを盛り上げる道具であればいいと思う。だから支援のために曲を作るんじゃない。支援のためっていうと、与える者と受け取る者って境界線ができてしまうと思うんですね。そんな境界線なんかなくて、みんなで遊べるのが音楽だと思うんです。だからこの曲も、俺は支援のために作ったんじゃなく、俺のひとつの最高の出会いを曲にしただけで。
──そうですよね。かりゆし58はずっとそれを目指してきたわけだし、被災地で歌って、それをより実感したのかもしれませんね。
前川 そうですね。だから音楽が素晴らしいというより、音楽を聴いて何かを感じる、その人間が素晴らしいと思うんですよね。だからこそ、素晴らしい音楽を作っていかなきゃと思うんですけど。
──わかりました。じゃあ次のオリジナルのニューアルバムも待ってます。今年中に聴きたいところですけど……。
前川 そうですね。メンバーをけしかけてやってください(笑)。
CD収録曲
- 恋人よ(アコースティックver.)
- アンマー
- オワリはじまり
- ナナ
- 手と手
- ウージの唄
- アナタの唄
- 電照菊
- 心に太陽
- 風のように
- 全開の唄
- ウクイウタ
- 会いたくて
- ただひとつだけ伝えたいこと
- 流星
- さよなら
- このまちと ※新曲
かりゆし58(かりゆしごじゅうはち)
2005年に前川真悟(Vo, B)、新屋行裕(G)、中村洋貴(Dr)により結成。バンド名は沖縄の方言で「めでたい / 縁起がいい」の意味を持つ「かりゆし」と、沖縄のメインストリート国道58号から。2006年2月にミニアルバム「恋人よ」をリリース。続くシングル「アンマー」がロングヒットを記録し、同年末の第39回日本有線大賞新人賞を受賞する。2008年には新メンバー宮平直樹(G)が加入し、現在は4人編成で活動中。2009年2月リリースのシングル「さよなら」が松山ケンイチ主演ドラマ「銭ゲバ」主題歌に抜擢され大きな話題に。2011年9月からは今回のベストアルバムを携えて初の全国ホールツアーも実施。沖縄で生まれ育った彼らならではの“島唄”を全国に向けて歌い続けている。