ナタリー PowerPush - かりゆし58
人間の素晴らしさを歌う ファン投票ベストアルバム
これから作る曲は過去のどの曲よりもいい曲にする
──今回のベストアルバムをリリースした理由は?
前川 やっぱり5周年っていうのもあるし、今年30歳になるんで20代最後の年でもあるし。節目というのは必要だなって。アルバムを作ってツアーまわって、そこで得たものを込めてまたアルバムを作る。そういう流れの中で自分たちを見つめたり振り返ったりするのにベストアルバムはちょうどいいと。人生の普遍的なテーマみたいなものに「昨日の自分に負けない」っていうのがあるんですけど、それを具現化するのにベストアルバムはちょうどいいなと。
──なるほど。
前川 そして、これから作る曲はベストアルバムに収録されたどの曲よりもいい曲にするよって、そういう宣言でもあるんです。このベストアルバムが今後の自分たちのライバルだと。あとね、ずっと聴いてくれている人はもちろんですが、これからかりゆし58を聴く人にとっての入口になる作品も、そろそろ必要なんじゃないかって。
──選曲はどのように?
前川 リスナーやファンの皆さんが選んでくれた曲なんですよ。
──自分たちではなくリスナーに選曲してもらおうと思ったのはなぜ?
前川 リスナーに選んでもらえば、そのリスナーの人たちは買ってくれますからね(笑)。まあ、自分たちが作ったものに甲乙はなかなかつけられないし、自分たちで作り出すものとは別の自分たちらしさっていうのは、きっと周りが判断してくれて、それがあって初めてかりゆし58だと思うんですね。
──ああ、自分たちらしさって、実は自分たち以外の人のほうがわかってたりすることってあるでしょうしね。
前川 そうなんですよね。自分たちで自分たちを決めつけるんじゃなく、自分たちが気付かないことをリスナーの方々は感じてるかもしれないし。
──3rdアルバムのときのインタビューでも「音楽は自分たちだけではなく、みんなのもの」って言ってましたしね。
前川 はい、そう思います。かりゆし58ってメンバーだけのものじゃないし、もちろんレコード会社のものでもない。リスナーの方々のものでもあると思ってますから。役割分担でいうと作る人、伝える人、そして受け止める人がいて、受け止めた人が僕らに何かを返してくれて、だから僕らはまた作っていく。そうやってつながってかりゆし58は存在してると思うので。だからみんなが聴きたい曲こそが、かりゆし58の実態なのかもしれないです。
ファンの選曲はド真ん中
──ファンの皆さんに選ばれた曲を見てどう感じましたか? 意外な曲もありました?
前川 いや、ド真ん中でしたね。みんなの感覚と僕らの感覚が一致してたことに安心しました。
──1曲目の「恋人よ」はアコースティックの新録バージョンですね。
前川 「恋人よ」はデビュー曲だし、5年間の歩みをひとつの形にするってことで、この曲だけ録り直したんです。まあ、1曲ぐらい新しく録音しないと、サボってるって思われちゃいますからね(笑)。この曲は右も左もわからない頃にリリースしたけど、みんなと一緒に過ごした5年間でこういう形になりましたよっていうのも伝えたくて。
──今のアレンジのほうがしっくりきますか?
前川 どっちもいいなって思います。どっちでもいいじゃなくて、どっちもいいなって。最初の頃、いろいろな曲のアレンジを考えるとき、「絶対こっちがいい」「こっちじゃないとダメ」とか、そういう気持ちがあったんです。それは確固たる自信があったからかもしれないけど、バンドにとって狭苦しさを生じさせていたのかもしれなくて。今は「どっちもいいよね」って思えるようになってきた。ひとつの形に決めつけないで、その時々でいいと思ったアレンジでやるっていう。
──それは楽曲に完成形があるのではなく、日々の中で変化していくものという感覚なんでしょうか?
前川 そうですね。「恋人よ」はそういう気持ちがわかりやすく具現化された曲だと思います。あと、今この曲を改めて収録して思ったのは、例えば違う人がこの曲を歌ってたら、俺はきっと面白いって思うだろうなって。
──自分の曲を客観的に受け止められる。つまり曲が巣立っていった感じがしたんですね。
前川 かもしれないですね。この曲に関しては、いい意味で客観的になれたと思います。
曲は聴いた人の心を映し出す鏡みたいなもの
──この5年間、曲作りや歌に対する視点の変化などはありましたか?
前川 曲の中に、あまり結論や答えみたいなものは求めなくていいんじゃないかって思うようになりました。「この曲ではこれを言いたいんだ」って言い切るような作り方はだんだんしなくなってきた。曲の中で言い切るんじゃなく、曲を受け取った各々が、なんらかの答えを見つければいいんじゃないかって。曲って、聴いた人を映し出す鏡みたいなものだと思っていて。ある人が「切ない曲だ」って感想を持ったなら、きっとその人の中にある切なさを曲が映していたってことだし、「優しい曲だ」と思うなら、その人の中の優しさを映しているってことで。だから曲が優しいというより、その人自身が優しさを持ってるってことだと思うんですよね。ただ、曲の中に結論や答えを求めないっていうのは、曖昧な歌詞を書くということじゃないですよ。10年後20年後に自分の歌を聴いたとき、変わらず信じていられる言葉を選んで作っているってことなんです。
──なるほど。私はこのアルバムを聴いて、改めて「風のように」が印象的だなと思ったんです。カリビアン調の曲だけど、明るくにぎやかなイメージではなく、どこか抑えたアレンジで自然体の歌を聴かせている。
前川 「こういうふうにしたらどう?」ってアドバイスしてくれる人がいたんです。俺たちの中にないものを付け加えるんじゃなく、俺たちの中にあるものから引っ張り出してくれるようなアドバイスをしてもらって。それでこういうアレンジになったんですけど。びっくりするぐらい違和感なかったですね。
中村 沖縄は多いかもしれません。ラテン系のリズムを持ってる人が。
新屋 すごく自然にやれたのを覚えてます。
CD収録曲
- 恋人よ(アコースティックver.)
- アンマー
- オワリはじまり
- ナナ
- 手と手
- ウージの唄
- アナタの唄
- 電照菊
- 心に太陽
- 風のように
- 全開の唄
- ウクイウタ
- 会いたくて
- ただひとつだけ伝えたいこと
- 流星
- さよなら
- このまちと ※新曲
かりゆし58(かりゆしごじゅうはち)
2005年に前川真悟(Vo, B)、新屋行裕(G)、中村洋貴(Dr)により結成。バンド名は沖縄の方言で「めでたい / 縁起がいい」の意味を持つ「かりゆし」と、沖縄のメインストリート国道58号から。2006年2月にミニアルバム「恋人よ」をリリース。続くシングル「アンマー」がロングヒットを記録し、同年末の第39回日本有線大賞新人賞を受賞する。2008年には新メンバー宮平直樹(G)が加入し、現在は4人編成で活動中。2009年2月リリースのシングル「さよなら」が松山ケンイチ主演ドラマ「銭ゲバ」主題歌に抜擢され大きな話題に。2011年9月からは今回のベストアルバムを携えて初の全国ホールツアーも実施。沖縄で生まれ育った彼らならではの“島唄”を全国に向けて歌い続けている。