ナタリー PowerPush - かりゆし58
話題沸騰「オワリはじまり」も収録! 3rdアルバム「めんそーれ、かりゆし」
14曲で1つのことを歌ってる
──今作は、曲作りの面では何か変化があったんでしょうか?
前川 今までのアルバムは12曲とか13曲あれば同じ数のストーリーとテーマがあって、多面性を見せるように作ってたんです。だけど今作は14曲で1つのことを歌ってる。最初の「流星」と最後の「オワリはじまり」に言いたいことはほとんど詰まってるんですけど、その1つのことをいろんなアプローチで表現してる。それは作り終わってから気付いたんですけどね(笑)。
──はっきりと言い切れない、グレーゾーンの感情が出てると思ったんです。例えば「オワリはじまり」なら、別れが来るのはわかってるけど、でも今は楽しいとか。また、別れて悲しいけど、それはそれぞれの自立を意味するものだからうれしいとか。喜びと悲しみが共存してる曲が多いなと。だからシンプルな中に深みがある。
前川 「歌詞は鏡みたいなものだったらいいな」っていうのは考えてますね。歌詞を読んでくれた人の中の何かを投影して反射する鏡。きっと歌詞を読んで悲しくなる人は自分の中の悲しみが刺激されたんだろうし、楽しくなったとしたらその人の喜びが刺激されたんだろうし。何かから離れるってことは何かに近づくってことですよね。それは悲しみでもあり喜びでもある。そこを意識して歌詞を作って、聴いてくれる人それぞれの感情を刺激できればいいなと。ただ、絶望だけは歌いたくないんですよ。
歌の向こうにある音に気付いてほしい
──ではレコーディングで印象的だったことは?
宮平 「L.I.F.E.」は打ち込みで、自分たちで作ったオケを中塚武さんに投げて仕上げてもらったんです。この曲は別バージョンで前にリリースしてて、そのときは(新屋)行裕が歌ってたんだけど、今回は(前川)真悟が歌って。エレクトロポップになったんで反応が楽しみです。
前川 それもいいけど、自分が担当したことで印象的なことを言いなよ(笑)。
宮平 あ、そうか(笑)。今回は新しいことをやったというより、前よりも1つひとつのフレーズを考えて、音色を選んで演奏しました。
中村洋貴(Dr) 俺もそうですね。
──アルバム序盤には「サマーソング」と「さいな」というカリビアン調の曲が続いてますね。
前川 「サマーソング」は遊ぼうと思ってやってみたんです。とにかく遊ぼうって。
新屋行裕(G) 「さいな」はもともとはメロディも何もなくて、セッションみたいなとこから発展してできた曲で。カリビアン調だけどちょっと大人っぽい感じになって、自分たちでも面白かったです。
──「雨のち晴れ」は沖縄独特のエイサーから入ってるのにロックンロールな感じになっているのが面白いと思いました。あと印象的なのは「雨上がりのオリオン」にストリングスが入ってるところとか。
宮平 クラシカルな感じにしたかったんです。今まで2本のギターはバッキングと上物みたいに分けて弾いてたんですけど、ここでは2本重ねて弾いてみようと。だから自分の手癖で弾くんじゃなく、今までとは違う弾き方、違う音色を考えて。オーケストラみたいなスケール感が出せたかなって。
前川 どの曲もジャンル分けしにくいと思うんですよね。前は自分たちでも言葉を探してたんですよ。ミクスチャーとか、レゲエとパンクの融合とか。でもそんなジャンル分け、作る必要ないんですよね。
──やっぱり“歌”ってことなんでしょうね。
前川 歌であってほしいし、でもその向こうにある音に気付いてほしいですね。耳を澄ましたらいっぱいいろんな音が響いてくる。そうやって何度も楽しめるようなアルバムにしたくて。
アルバム制作中はいつも面白いことを探してた
──いろんな音がありつつ、でもこのアルバムにはひとつ筋の通った統一感を感じるんですよね。
前川 いや、そう言っていただけるのはすごくうれしいんですけど、自分たちでは反省点もあるんです。ちょっと額縁に収まってしまったかなって。歌と演奏と音色が寄り添うというよりも、もっとそれぞれが戦って額縁に収まりきらないくらいになって。それでもちゃんと共存しているのが理想なので。
──なるほど。アルバムが発売されたばかりなのに次の課題も見えてるというのはいいことですね。
前川 もちろん今作は多くの人に聴いてほしいんです。自分たちにとっても大事な作品で、この作品を作ったからこそ気付いたことはたくさんありますから。
──濃密な毎日の中から生まれた1枚という感じがしますね。今作の制作期間はどんな時間だったんでしょう?
前川 面白いことを探してたし、面白いことを自分でもどんどんやってみようと思ってました。いろんな人と会っていろんな話をしようって心掛けた時期ですね。具体的に言うとね、僕はET-KINGのメンバーと仲がいいんですけど、あるとき彼らと1人1万円出してプレゼント交換するって遊びをしたんです。そしたらET-KINGのイトキンさんが1万円する50円玉を買ってきた(笑)。その50円は穴がズレてて1万円の価値があるんですって。で、それを俺はすごく面白いって思ったからこうやって人に言ってるんですけど、俺からその話を聞いた人が同じことをやったり、もっと面白いことを発見したりするかもしれない。音楽もそういうものだと思うんです。「これ面白いから聴いてみなよ」ってそういうふうに広がっていくものだと思う。そうやって、かりゆし58の音楽もみんなの生活の中になじんでいけばいいなって、それはますます強く思うようになってきてますね。
CD収録曲
- 流星
- 会いたくて
- サマーソング
- さいな
- 風まかせ
- 雨上がりのオリオン
- 予告編
- L.I.F.E.(with中塚武)
- アナタの唄
- 雨のち晴れ
- ララバイ
- ピクニック
- 全開の唄
- オワリはじまり
初回盤DVD収録内容
- 「会いたくて」プロモーションビデオ
- 沖縄旅人(たびんちゅ)めんそーれツアーオフショットムービー
かりゆし58のすべてがわかる! 超豪華150ページ「かりゆしバイブル」付属(初回盤のみ)
かりゆし58(かりゆしごじゅうはち)
2005年に前川真悟(Vo,B)、新屋行裕(G)、中村洋貴(Dr)により結成。バンド名は沖縄の方言で「めでたい/縁起がいい」の意味を持つ「かりゆし」と、沖縄のメインストリート国道58号から取られている。2006年2月にミニアルバム「恋人よ」をリリース。続くシングル「アンマー」が有線でロングヒットを記録し、同年末の第39回日本有線大賞では新人賞を受賞する。2008年には新メンバー宮平直樹(G)が加入し、現在は4人編成で活動中。2009年2月に発売されたシングル「さよなら」はドラマ主題歌に起用され、スマッシュヒットを記録した。2010年8月に3rdフルアルバム「めんそーれ、かりゆし」をリリースし、9月より全国ツアー「ハイサイロード’10~秋の陣~」をスタート。現在も沖縄在住。沖縄で生まれ育った彼らならではの“島唄”を全国に向けて歌い続けている。