孤独は一生のテーマ、Karin.の尖った部分
──「息を止めて」と「結露」に関しては、村山さんのアレンジを想定したうえでソングライティングしたことで、何かいつもとは違ったアプローチができた部分はありましたか?
コード進行が普段とはけっこう変わったかなと思います。以前、「嫌いになって」(2022年6月リリースのEP「星屑ドライブ - ep」収録)でご一緒したときに、もともと転調していなかったものを現場で出た村山さんのアイデアで転調させてみたら面白い仕上がりになったんですよ。その記憶があったので、「息を止めて」ではデモの段階で何回も転調しては戻ってくるという忙しい進行にしてみました。構成がごちゃごちゃしちゃって、転調したものの戻り方がわからなくなっちゃったりもしたので(笑)、そこは村山さんにうまく整えていただいて。あと「結露」に関しては、村山さんと一緒に初めてやったライブのイメージを持って作ったところはありましたね。
──2021年11月にストリーミング配信されたアコースティックライブで村山さんと初めて共演されたんですよね。
はい。あのライブは、村山さんのピアノと林田順平さんのチェロと私の3人でやったんですけど、その雰囲気をもう一度味わいたいなと思ったので、「結露」ではそういったアレンジが浮かぶような曲として書きましたね。村山さんは弦のアレンジに関してもすごくお上手なので、そこは信頼して委ねました。
──「息を止めて」の歌詞の中には“孤独”というワードが出てきています。Karin.さんは孤独をテーマにした「solitude ability」「solitude minority」という2枚の作品をリリースされていますが、そこは“幸せ”をテーマにした今のフェーズにおいても切り離せないものなのかなと感じました。幸せを意識すればするほど孤独が浮き彫りになる部分はありますもんね。
そうですね。いろいろな人と出会うことで、いろいろなことを知れるようになったし、幸せについて考えられるようにもなったんですけど、曲作りにおいて孤独が関係してくるという部分に関しては変わらないんですよ。そこが私の一生のテーマのような気がするというか。例えば、誰かと一緒にいて幸せだなって思える瞬間があったとしても、この人と出会わなくても私は今までも生きてこられたんだよなっていう気持ちになっちゃったりもして。そこで孤独を感じたりするんですよね。
──あははは。その感覚は面白い(笑)。
「みんな孤独だって知っていて、それでも今日を生きているんでしょ?」ということをなんとなく投げかけたい気持ちは常にありますね。
──それってある種の防衛本能のような気もしますよね。人間は根本的に孤独なんだと認識しておけば、幸せな時間が去ったときに痛みが少なくなるかもしれない。
自分の思いを相手に押し付けることが私は嫌いなので、どんなに幸せな状況であっても、その状況も感情も自分の中だけで完結させることを夢見てるんだなって。そんなことをこのアルバムを聴いて思ったりもしましたね。まあ、そういう考え方はわりと理解され難いので、そこに関しては周りの人に「尖ってるね」と言われます(笑)。
──アルバムのエンディングを担う「結露」は、ピアノと弦のみで構成されたビートレスの曲です。この歌詞はどんなイメージで書かれたんですか?
「星屑ドライブ」という曲を作るきっかけになった三浦しをんさんの「星くずドライブ」という短編小説があって。その続きを私だったらどう書くかなと思って作ったのが「結露」です。「星くずドライブ」は女性が去ってしまったあとの男性目線で書かれたものなんですけど、私は女性側の心情を書いてみました。
──サウンドがシンプルな分、Karin.さんのボーカルがより生々しく響いています。
「結露」のサウンドはクリックも流さず、演奏する方の呼吸感で弦とピアノを録っていただいたんですよ。なので自分もその雰囲気に合わせて歌いたいなと思ったので、普段はワンコーラスごとに歌って、気になるところを修正していくんですけど、今回はフルでわーっと歌って。それをほぼ手直しをせずにそのまま使いました。歌のニュアンスに関しては村山さんにいろいろアドバイスもいただきましたね。最近は、アレンジャーさんからいただいた言葉にちゃんと寄り添って歌えるようになってきて。そこはひとつ大きな進歩かなと思います。
「私」ではなく「私達」である意味
──アルバム収録の新曲で言うと、表題曲となる「私達の幸せは」と「初恋は」もありますね。どちらもTomoLowさんがアレンジを手がけられています。
TomoLowさんとご一緒するときは、まず私なりのイメージをお伝えするんですよ。こういう思いで作った曲で、こういう楽器が鳴っているのが浮かんでいて、全体としてはこういう曲調がいいです、みたいな感じで。リファレンスとして自分の好きな洋楽のシンガーソングライターの曲を聴いていただいたりしながら、話し合って形にしていきます。TomoLowさんはボーカルレコーディングが終わってもさらにアレンジを続ける方なので、最後までどうなるかわからないのが面白いです。曲に魔法がかけられていく過程を一緒に見ていると、音楽の可能性を改めて感じたりしますね。
──以前、TomoLowさんは打ち込みを得意とされている方だとおっしゃっていましたが、「私達の幸せは」は生音を使った柔らかいサウンドになっていますよね。
そうですね。この曲は生っぽい音がいいなと思っていたので、そういう音質にこだわって作っていただきました。
──この曲の歌詞は、幸せな瞬間にいる2人の物語になっています。
コロナ禍で曲が作れなくなってしまったことがあって、そのときにバンドメンバーのみんなの優しさにすごく助けてもらったんです。でも、そうやって自分が弱ったときに誰かの優しさに気付くのはすごく虚しいなとも同時に思って。もっと普段から感じられたはずだよなと思ったので、もしあの曲が書けなくなったときに戻れたとしたら私はどういう自分でいようかなと考えながら作りました。私は、幸せは自分自身で見つけるという気持ちが強いけど、その過程には必ず誰かの存在がないとダメ。だからこの曲では“私達”という言葉を使うことにこだわりましたね。
──もう1曲の「初恋は」は、タイトル通り初恋の甘酸っぱさを感じさせてくれる柔らかなバラードです。
これは去年の12月中旬に作った曲で。渋谷をフラフラ歩いてるときに偶然、テレビか何かのインタビューを受けたんです。「あなたの初恋は実りましたか?」という質問をされて、自分の回答のほうにシールを貼るっていう。そこで自分の初恋を思い返してみたけど、その相手が全然思い浮かばなかった。私はそもそも気持ちが更新されていくタイプなんですよ。誰かを好きになると「あ、今までこんな気持ちになったのは初めて!」といつも思うので、それが私にとっての初恋。毎回それがただの思い込みだということに気付き、また次の初恋をしていくっていう(笑)。ただ、私も小学生とか中学生の頃に戻り、みんなが思い描くような初恋を体験してみたいなという気持ちにもなったので、その思いを曲にしてみました。
──そういう気持ちになれたのは年齢を重ねたことも関係しているのかもしれないですよね。
そうですね。前はものすごく背伸びをしていたのに、今は早く大人になりたいとはあまり思わなくなりましたからね。その変化に寂しさを感じたりもするから、以前の自分に戻りたいと思いつつ、でも今のままの自分でいたいっていう気持ちも強い。今回のアルバムは、その2つの感情がすごく交差した作品になったような気もします。今回は20代になって初めてのアルバムですけど、これを数年後に聴き返したときに自分がどう思うのかがすごく楽しみでもありますね。