Karin.「私達の幸せは」インタビュー|変化を遂げた20代初アルバム、ゆかりの4名のコメントも

シンガーソングライターのKarin.がニューアルバム「私達の幸せは」をリリースした。

前作から約2年ぶり、Karin.にとって20代初のアルバムとなる本作。彼女は2021年10月にリリースしたEP「二人なら - ep」で新フェーズに突入し、誰かがそばにいることを想像させる曲を発表し続け、その中から“幸せ”というモチーフを大切に育みながら本作へとたどり着いた。収録されるのは、「二人なら」「星屑ドライブ」「空白の居場所」などの既発曲に新曲5曲を加えた全12曲。そこには“幸せ”と向き合った今のKarin.のリアルな姿が刻み込まれている。

今回の特集では、Karin.がアルバムに注いだ思いを紐解くインタビューとともに、アレンジャーとして参加している村山☆潤とTomoLow、Karin.と親交のある関取花とモモコグミカンパニー(BiSH)からのコメントも掲載する。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / はぎひさこ

Karin.インタビュー

ちょっと器用になったのかも

──昨秋、全4公演が行われた2ndツアー「空白の居場所」はいかがでしたか?

2度目のツアーということで、前回よりもっとクオリティを上げていかないといけないよねっていう思いを持って臨みました。セットリストを決め、リハーサルを何回も繰り返していく中では、自分の作る曲調が変わってきたことを改めて実感することもできて。今まで以上にいろんな表情を見せる曲をバンドメンバーと一緒に演奏していくのはすごく楽しかったですし、回を重ねるごとに全体としてのグルーヴもしっかりできていったと思います。その一体感を体中に感じながら完走できた、とても有意義で楽しいツアーになりました。

Karin.

──ライブでさまざまな景色を喚起させる多彩な楽曲が生まれるようになったのは、どうしてなんでしょうね。意図的にそれを求めていたところもありました?

意図的な部分も少しはあるんですけど、それ以上に大きいのは、20代になってからいろんな方にアレンジやレコーディングをしてもらうようになったからだと思います。たくさんの人と出会うことでいろんなインプットができていることに、今までの自分はそこまで気付いていなかったんですよ。でも2度目のツアーをするにあたり、ここ1年くらいの間に作った曲を並べてみたことで、自分の楽曲の大きな変化を感じることができたという。

──2021年10月に配信された「二人なら - ep」からバンドメンバーやアレンジャーなど、制作にまつわる環境が大きく変わったとおっしゃっていましたよね(参照:Karin. 「二人なら - ep」インタビュー)。同時に、そのタイミングから新たなフェーズに入ったことも宣言されていました。そこからご自身の中に芽生えたさまざまな変化を持って今回、ニューアルバム「私達の幸せは」にたどり着いたわけですね。

そうですね。10代のときに出した3枚のアルバムでは、自分の心の内側にあるものを忘れないように楽曲として紡いでいたところがあったんです。ある意味、ドキュメンタリーのように、その時々で起こった出来事や、そこでの自分の心の動きを表現し続けていた。でも、「二人なら」で「純猥談」とコラボしたことがひとつ大きな変化をもたらしてくれたんですよ。

──「二人なら」は、性愛にまつわる体験談の投稿サイト「純猥談」から派生したショートフィルム「私もただの女の子なんだ」の主題歌として書き下ろされたものでしたよね。

はい。今までは自分の心の内側とばかり向き合ってきたけど、「純猥談」とのコラボや、新しい人たちと制作を始めたことなどが重なったことで、自分のそばに誰かがいるということをすごく意識するようになったし、誰かがいてくれることによってたくさんの優しさや温かさをもらっていたことにも気付くことができて。それが自分にとっては大きな変化だったんですよね。

──ソングライティングの視点が外に向き始めたということかもしれないですね。

ちょっと器用になったのかもしれないです(笑)。私はもともと映画を観たり、本を読むことがすごく好きなんですけど、それに触発されて曲を作ることは一切なかったんですよ。でも「純猥談」の経験を経たことで、それが不思議とできるようになったんです。大好きな三浦しをんさんの小説に刺激を受けて作った「星屑ドライブ」もそうですし、今回のアルバムの曲たちには何かしらの種をもとに作られた曲が多いですね。

幸せは現在進行形では気付けない

──本作は“そばに誰かがいることを想像させる”曲たちで構成されています。同時に、アルバムタイトルが象徴していますが、“幸せ”という大きなテーマも見えてくる内容になっていますよね。

日々の生活をしていく中で、「幸せってなんなんだろう?」と感じることが増えてきたこともあって、そんなに不思議に思うんだったらそれについての曲をどんどん書いていこうかなと考えたんです。なのでアルバムタイトルも含め、必然的に幸せにフォーカスしたものになりましたね。

──楽曲を聴かせていただくと、Karin.さんなりの幸せの受け止め方が見えてきますよね。単純にハッピーだけではくくれない描き方をされている曲も多いですし。

たぶん、周りの人が思う幸せってすごく明るいものだと思うんですよ。でも私はそういうタイプじゃないので(笑)。例えば、生きているのがつらいと思っている人に対して、「生きたくても生きれない人もいるんだよ。だから生きてるだけで幸せなんだよ」って言ったりするじゃないですか。その通りだよなという思いがある反面、私はそんな言葉に勝手に当てはめられても困ると思ったりもするんですよね(笑)。幸せを見つけたはずなのに、それがダメになって傷付いて、でもまた違う幸せをつかもうとする人もいる。そういう状況を見たときに、じゃあ最初に見つけたと思った幸せはなんだったんだろう、そもそも幸せの定義ってなんなんだろうって、どんどんわけがわからなくなってくる感覚もあって。そこを整理するために曲を作っていたところもありましたね。

──曲ができあがるごとに、ご自身中での幸せの輪郭がはっきりしていったところもありましたか?

そうですね。ひとつ思ったのは、幸せというのは現在進行形では気付けないものなんだなってことで。思い返してみると、大きなものから小さなものまで、幸せは自分の周りのいろんなところに落ちていたと思うんです。でも自分はそれをあまり振り返らずにきてしまった。なので、さりげない日常生活の中で「あ、今の時間はすごく幸せだったな」と思い返すことがすごく増えたんです。幸せを見つけるために過去を振り返ったり、歳を取ったりするのは素敵なことだなと思えるようにもなりましたね。

Karin.
Karin.

村山☆潤アレンジ「幸せを願えてたら」で発見した変化

──全12曲を収録する本作の中で、ご自身の中で何かしらの起点になった曲はありますか?

今回のアルバムでは自分なりに挑戦したいことや、アレンジャーとしてお願いしたい人のイメージがけっこう強くあったので、それをひとつ形にできた「幸せを願えてたら」という曲は自分の中で印象深くて。そもそもこの曲は初めてのツアー(2021年11月開催の「solitude time to end」)のあとに作ったんですけど、これが認められなかったら私は周りの人とは歩む道が違うんだなと思うくらい、すごく好きな曲だったんです。で、この曲をレコーディングするために事務所の方を1年くらいずっと説得し続けていた中で、「じゃあ誰に編曲をお願いしたいの?」と聞かれたときに私は、以前に「星屑ドライブ」という曲でご一緒した村山☆潤さんのことがパッと浮かんで。それを伝えたら、「それは面白いかもね」となり、レコーディングできることになりました。ただ、せっかく村山さんにお願いするんだったら、もう何曲か作ろうという話になって、そこで「息を止めて」と「結露」を一気に書いたんですよね。

──その2曲は村山さんにアレンジしてもらうことを目がけて書いたと。

そうなんです。今までの私は、まず自分のために曲を作るという気持ちが大きかったんですけど、今回初めて誰かを意識して書くことができた。自分がこんなにも誰かのことを頼り、信頼して、一緒の景色を見たいと思えるようになったんだなっていう発見が「幸せを願えてたら」という曲をきっかけにあったんですよね。

──「幸せを願えてたら」のアレンジャーとして村山さんが思い浮かんだのはどうしてだったんですかね?

村山さんはJ-POPの王道的な、すごく明るい曲を作る方なので、私にとって思い入れの強い曲を、私が想像している以上に大きな曲にしてくれるだろうという確信があって。デモの段階からバンドサウンドが見える疾走感のあるテンポではあったんですけど、上がってきたアレンジがあまりにも明るい雰囲気だったのでちょっとびっくりはしたんですよ(笑)。でも私が想像していなかったくらい、すごく気持ちいい仕上がりになったので、やっぱり村山さんにお願いしてよかったなって思いました。

──後悔をにじませながら幸せについて思いを馳せる歌詞もいいですね。

ありがとうございます。誰かの幸せを願えるほど自分には余裕がなかった。でも、もっと素直になって人の幸せを心から願えるようになっていたら、もっと違う景色を見ることができていたのかな、という思いを書きました。