Karin.|誰かの体温を感じる新曲、“孤独”の先にあったもの Column:20歳、Karin.の頭の中

Karin.が10月27日に配信作品「二人なら - ep」をリリースした。

3月にフルアルバム「solitude ability」、5月にミニアルバム「solitude minority」という2枚の作品をリリースしたKarin.。孤独について歌ったこの2枚のアルバムのうち、「solitude ability」はショートフィルムが制作され、脚本および監督を枝優花、主演を伊藤万理華が務めたことでも話題を集めた。当初はWebのみでの公開だったが、劇場上映に合わせてKarin.は劇伴も制作。「solitude ability」の世界を視覚化したショートフィルムは、発売から半年以上経った今も各地の劇場で上映されている。

2作連続で孤独について歌ってきたKarin.が20歳になり初めてリリースする「二人なら - ep」は、“そばにいる誰か”の体温を感じさせる4曲入りの作品。表題曲「二人なら」は、性愛にまつわる体験談が投稿されるサイト「純猥談」とコラボしており、同サイトに投稿された物語をモチーフにしたショートフィルム「私もただの女の子なんだ」の主題歌として書き下ろされた。TomoLowと高野勲という2人のプロデューサーを迎えた「二人なら - ep」にKarin.が込めた思いや制作の裏話、20歳になった今の彼女が思うことなど、話を聞いた。

また特集の後半には、Karin.のパーソナルな部分をより深く知ることができるコラム「20歳、Karin.の頭の中」を掲載。私物とそれらへの思いから、20歳の彼女のリアルを感じ取ってほしい。

取材・文 / 清本千尋撮影 / YURIE PEPE

やっぱり生で見届けてもらいたかった

──Karin.さんはこの春、「solitude ability」「solitude minority」と2枚の作品をリリースしました。孤独(=solitude)について歌った「solitude ability」は、ショートフィルム化され、Webでの公開だけではなく劇場上映もされました。

Karin.

「solitude ability」をきっかけに活動の幅が広がった実感があります。私は映画が好きで、多いときには1日で2、3本観たりもするんですが、このショートフィルムで初めて劇伴を制作して「こんなに大変なのか」と思い知り、3月の「solitude ability」リリースからは本当に怒涛の日々でした。私の曲から入ったファンの方以外も映画を観に来てくれて、新しい人にも知ってもらえてうれしかったです。私の濃ゆいリスナーの方々は、同じ教室にいたらきっと友達になれただろうなという人が多いんですが、映画で初めて私の音楽に触れた人にはまたちょっと違う雰囲気を感じましたね。

──Karin.さんも映画館で上映を観ましたか?

試写会で観させていただいたんですけど、上映中に声を大にして「この曲、私が書きました!」って言いたかった(笑)。それくらいうれしかったです。

──「solitude」シリーズを2枚リリースして、6月には無観客配信ライブも開催しました(参照:Karin.初配信ワンマンで描いた“solitude”な物語、11月に振替公演も決定)。もともとこのライブは有観客の予定が緊急事態宣言を受けて無観客での開催になりましたが、やってみていかがでしたか?

その日のために何回も練習をしていたので、まったく不安はなく当日を迎えました。でも本当はお客さんが目の前にいるところで楽曲を届けたかった。お客さんのいるライブハウスに「solitude」シリーズで描いた孤独な気持ちを置いてくるような心持ちだったので、いざ無観客でライブをやって、思いのやり場に少し戸惑いました。映像として観てもらえたとはいえ、やっぱり生で見届けてもらいたかったです。

──それは残念でしたね。バンドメンバーと一緒に演奏して、曲に対する思いは変わりましたか?

10代の頃に書いた曲へのネガティブな気持ちは少し収まったような気がします。具体的には、大人になることへのコンプレックスがそこまで気にならなくなった。5月30日に20歳の誕生日を迎えたんです。学生の頃は自分より1、2個上の先輩ですらすごく大人に見えて、自分はああいうふうになれるのかなと漠然とした不安があったし、実際に自分が先輩たちの年齢になったときにすごく頼りないなと思うことも多くて。私は確固たるアイデンティティがあるわけでもない、普通の女の子だと思っているので、ずっと周りに合わせることに必死だったんです。でもバンドメンバーとライブに向けて準備をしてたくさん演奏を重ねる中で、メンバーたちが少年のような心で楽器を演奏していたり、ワイワイしていたりするのを見て「なんだ、みんな全然大人になんてならないんだ」と思って(笑)。そう気付いたら不安がなくなったんですよね。バンドメンバーの存在は自分にとってとても大きいです。本人たちがこのインタビューを見たらきっと調子に乗っちゃうけど……(笑)。

──バンドメンバーに20歳をお祝いしてもらいましたか?

はい。ワンマンライブのあとにメンバーがお祝いしてくれました。そこで誕生日プレゼントでもらったシャンパンを少し飲んだんですけど、酔った感じがしなくて。初めてお酒を飲んだから気が張っていたのもあると思います。まだビールは飲めないんですけど、梅酒は好きですね。「ビールは喉で飲め」ってバンドメンバーに言われました。メンバーは本当にいろんなことを教えてくれます。

あのライブで1つの私が終わった

──10月27日に「二人なら - ep」がリリースされます。こちらはいつ頃から制作が始まったんでしょうか?

3月に発売された「solitude ability」の時点で5月発売の「solitude minority」の曲もできていたので、少しずつ次のシリーズに向けた準備を進めていました。20歳になって、ライブも終わってひと区切りがついたので、新しいフェーズでは孤独ではなく、誰かがそばにいることを想像させる曲を作りたいと思っていました。そこに「純猥談」とのコラボの話をいただいて。

──「純猥談」は、性愛にまつわる体験談が投稿されるサイトですね。過去にはKarin.さんの「青春脱衣所」が純猥談をもとにしたショートフィルム「私たちの過ごした8年間は何だったんだろうね」の主題歌に採用されています。今回は「私もただの女の子なんだ」という作品の主題歌として「二人なら」を書き下ろされました。初の書き下ろしになりますが、制作はいかがでしたか?

Karin.

上京してからずっとひとり暮らしをしていて、毎日同じような暮らしをしているので、虚無感に襲われることが多いんです。そばに誰かがいる暮らしのことを思い描くために、実家にいた頃とか、学生の頃のこととか、昔のことをいろいろ思い返しました。これまで私は過去を振り返って曲を書くことは少なくて、その曲を書くときに感じていたことやあった出来事を曲にしていたので、過去を振り返ることで作れる楽曲の幅が広がったように感じます。私、すごく生き急いでいたんですよ。今までは自分がすごく苦しくても誰かのためになれば歌い続けようという気持ちで活動をしていたんですが、最近は日常の中で自分もリラックスして聴ける曲が増えたらいいなという思いがあって。少し楽に曲を作れるようになったのかなと思います。

──そういった心境の変化には何かきっかけがあったんですか?

やっぱりワンマンライブが終わったことが大きいです。あのライブで1つの私が終わったんですよ。あのときから心の余裕ができるようになりました。

──「二人なら」を書くのに苦労したことはありますか?

お題があるうえで曲を書くのは難しかったですね。たぶん10代の私だったら追い詰められて「もう無理!」って手放していたと思います。特に「純猥談」に載っているような話は、私とはかけ離れたところにあるお話というか、読んでも「こういう人たちが実際にいるんだなあ」という感覚なんですよね。だから自分が抱く感情やこれまでの経験と重ねることが難しくて、すごく制作に時間がかかりました。曲を書いては俯瞰的な目線で曲を聴いて、また曲を作り直して俯瞰で聴いて、という作業を繰り返して完成しました。

──物語を読む以外に曲作りのために準備したことはありますか?

街に出て人間観察をたくさんしました。「二人なら」のもとになったお話は、金銭的に厳しくて風俗でお金を稼いでいる女の子のお話なんです。まず風俗の仕組みを知らなかったので、夜の歓楽街に行ってキャッチの女の子を観察して、意外と同い年くらいの子たちがいっぱいいるんだなと知って想像が膨らみました。原作は、ある日コンビニ店員に一目惚れしてお互いに惹かれ合っていくんですが、そのコンビニ店員さんからアプローチされても自分が置かれた状況を話すことができないんですね。自分には実際にそういう経験はないけれど、何かをするときに後ろめたさを感じたり、人に言えないことがあって踏みとどまることって誰にでもあるんじゃないかと思って。それって普通の人間関係じゃんと思って、無事曲にすることができました。

“魔法”を使えるTomoLow、“味付けは塩”な高野勲

──本作ではプロデューサーにTomoLowさん、高野勲さんというお二人を迎えて、サウンド面でも変化があったと思います。

Karin.

今回はあえて自分の制作環境をガラッと変えたんですよ。バンドメンバーもアレンジャーさんも新しい人にお願いして。「二人なら」と「曖昧なままでもいいよ」のプロデュースをお願いしたTomoLowさんは打ち込みが得意な人で、私の歌入れ後もどんどん曲を進化させていくのが新鮮でした。今までの制作だと各パートのレコーディングが終わって、最後に私が歌を歌って終わりなんですけど、TomoLowさんは私の歌を聴いてさらに曲を変えていくんです。しかも徐々にではなくて、本当にマジックのように急に違う雰囲気になるんですよ。最初はプレハブだったおうちが急に中目黒に建っているマンションになった!くらいの変貌ぶりなんです(笑)。

──「曖昧なままでもいいよ」も「純猥談」のお話をテーマに書いた曲なんですよね。

そうです。でも、もともとこの曲はお話をもらう前からあった曲で、特定のお話について書いた曲ではなく、「純猥談」がまとう全体的な雰囲気にぴったり合うかもと思って提案させていただきました。

──「純猥談」は曖昧な関係を書いたお話が多いですもんね。

そうなんですよ。

──3曲目の「最後くらい」は明るめのバンドサウンドの曲ですが、曖昧な関係に別れを告げて、一歩進もうとする曲ですね。

この曲の主人公は別れを切り出したあとに合鍵をポストに入れるんですけど、そのポストに背中を向けることができないというエピソードをもとにしました。「出会う順番を間違えた」という歌詞で始まるんですが、この歌詞、すごく気に入ってるんです。最初から致命的なミスをしていて、そこにどんどんどうしようもない思いが重なっていく……相手との駆け引きもあるけれど、自分の中でなかなか答えが見つけられない、そんな歌詞が気に入っています。歌詞の中でお話が展開していくので、それをノンストップで歌っています。

──最後に入っている「717」はピアノ弾き語りをベースにしたミディアムテンポの曲です。

この曲、実は「二人なら」と同じエピソードをもとに最初に作った曲なんです。今までの自分が歌ってきた孤独の延長として書けそうだったので、そういうテーマで書きました。書き上がった頃に、映画の監督から「投稿者と連絡を取ったらもう今は幸せすぎて当時のことを覚えていないと言っていた」と言われて。それならば過去とも向き合って一緒に歩いていっている姿を書こうと、「二人なら」を作ったんです。同じエピソードがもとになっているんですが、「二人なら」の主人公は明るい表情をしていると思います。

Karin.

──ちなみにタイトルの「717」はどういう意味なんでしょうか?

エンジェルナンバーというものがあるんです。1つひとつの数字に意味があるという考え方なんですけど、「717」は「あなたは今いい道を進んでいるからこれからも自分のことを信じ続けていればきっと幸せになれるよ」という意味を持つ数字みたいで。幸せになってほしいという願いを込めてこのタイトルにしました。

──そうだったんですね。「最後くらい」と「717」は高野さんがアレンジを手がけています。

TomoLowさんが曲をどんどん変化させていくタイプで、いろんな味付けのバリエーションがある人ならば、高野さんは味付けは塩だけでお願いしますって感じの人です。いろんな音を重ねることはお好きなんですけど、生楽器にこだわりがあって、レコーディングのときにはたくさん楽器を持ってきてくれました。あとレコーディング中にいろいろ新しい音楽も教えてもらいましたね。今回のレコーディングは高野さんとTomoLowさんと同時期に行っていたので、その期間は「生楽器って最高!」「打ち込みはこんなことができるんだ!」と2つの考え方が頭の中にありました。自分自身の変化を歌詞だけではなくて、サウンド面でも表現できてすごく楽しかったです。自分の中の変化ってあまり周りに気付かれないですけど、音がガラッと変わるとみんなもそれに気付いてくれてもっと奥底まで見てくれる気がして、この曲たちがリスナーの皆さんに届くのが楽しみです。きっと新しい自分も認めてもらえるだろうなって。

ホームで完結させる「solitude」

──充実したライブと制作とで、この夏はいい20代の幕開けでしたね。

Karin.

おかげさまで。でも相変わらず生き急いでいるので、次の制作も始まっています。昔は周りの人まで生き急がせてましたが、今は自分1人で新しいものを作るための準備を進めていくのが楽しいです。11月には「Karin. 1st tour "solitude time to end"」というワンマンツアーがあるので、実はまだライブでは「solitude」は続いていきます。やっとお客さんの前で「solitude」シリーズの曲を届けられるので、ここでようやく「solitude」が完成するんだと思います。自分の表現の変化も楽しみながらツアーを周りたいです。

──ツアーはKarin.さんの地元・mito LIGHT HOUSEで幕を下ろしますね。

はい。上京してから茨城に帰れてないので、地元に帰れることも楽しみです。地元にいた頃はLIGHT HOUSEでしかライブをしていなかったし、ずっと弾き語りだったので、バンドメンバーを連れて「こんなに大きくなったぞ」と見せられるのが本当に楽しみ。LIGHT HOUSEは、初めてライブをした場所で、正真正銘のホーム。ここで今度こそ「solitude」を完結させたいです。

次のページ »
20歳、Karin.の頭の中