ナタリー PowerPush - 鴉
激動の1年を経て放たれる彩り豊かなニューシングル
過去の自分がこの仕上がりを聴いたら感動すると思う
──そして1月13日にメジャー2ndシングル「風のメロディ」が発売になります。このシングルには「ライブという切り口で制作した」といううたい文句どおり、ライブ映えのする3曲が収録されていますが、その中から「風のメロディ」をタイトルチューンに選んだのはどうしてですか?
近野 収録曲は全部、元々自分がストックしていたデモ音源だったんですけど、中でも「風のメロディ」と「向かい風」はデモのまんま作り込むこともなかった曲なんです。だから今回ディレクターが「『風のメロディ』やりたい」って言い始めたのはびっくりしましたね。もう2年ぐらい前の曲だし。それで久しぶりに自分が作ったデモを聴いてみたら、当時自分が妄想していたものが、あまりにも大胆で強引だったのを思い出したんですよ。一歩間違えれば「これってなんなの」で終わっちゃうようなこと、でも「そこに踏み出せる勇気は今あるか」って聞かれたら「ない」って答えざるを得ないようなことにチャレンジしてて、ガツンとやられた。気付かないうちに、自分が作るものの角を丸くしていってるのかなって思わされた。「今の自分イケてるぜ!」って思ってたのが急にむなしくなったんです。でも、過去の自分がやりたかったことに今の自分が挑戦してみたら、過去のぐじゃぐじゃしてる音よりすごい良くなるだろうなとも思えたんです。
──むなしくなったというのは、落ち込んだということ?
近野 いや、知らず知らずに大人になろうとしている自分に気付いたってことです。「風のメロディ」を作った当時の自分は、知ってることが少ないからこそ、知らないことにまで手を染めつつ、アクセル全開でやっていたんだなって思って。それに比べたら今の自分ってなんだろうなって感じたんです。知ってることだけを寄せ集めてひねってる感じがあったりするし。
──マスタリングが終わった楽曲を聴いてみて、2007年の近野さんがやりたかったことはできたと思いますか?
近野 そうですね……できてるできてないっていう判断は、結果的にはできてると思いこむことなのかな、と。
──じゃあ聞き方を変えますね。2007年の近野さんが今回できあがった「風のメロディ」を聴いて、どう思いますかね?
近野 2007年の俺がですか? 聴いたらたぶん、感動してくれると思いますよ。
──おぉ。では皆さんは「『風のメロディ』をやろうよ」ってディレクターさんに言われたとき、どう思いました?
一関 「風のメロディ」かぁ……って思いました。
一同 (笑)。
一関 デモ段階の「風のメロディ」を聴いたのと同じタイミングで、ほかの曲もいくつか聴いたんですよ。そのとき、3人で演奏してる絵が強く浮かんだのは、3月のミニアルバムに入れた曲のほうで。「風のメロディ」はメロディと歌詞が強くて、ロックな感じというよりはちょっとおしゃれに聴こえたんですよ。当時のうちらは、8ビートバリバリのガツンと来るサウンドに寄ってたんで、デモのときはピンと来なかったのかもしれないです。でもまぁいざやってみたらおしゃれになんかなるわけもなく(笑)。結局ガツンと努力しちゃいましたね。淳一はおしゃれ狙ったんでしょ?(笑)
近野 狙った狙った(笑)。Bメロとかコード感とか。実は、こういうミドルテンポの曲って未だにちょっと抵抗あるんですよね。若干、線が細くなる感じがして。だから卓さんが言ったとおり、思い起こすと“俺デモCDミニアルバム”に入ってたほかの曲は全部、8ビートでもうちょっと泥臭い感じだったんですよ。そんな中に入ってたから、曲がいいとか悪いとかじゃなくてインパクト的な問題で後回しになったように思う。
──でも、ディレクターさんが「やろうよ」って言ってくれたってことは、今の鴉だったらこの曲がバンドで鳴らせるって信じてもらえたからですよね。
近野 それもあるのかな。でもそれよりも単純にいい曲だっていうことだと思います。
女々しい気持ちは男の象徴
──で、歌詞の内容はすごく切ないラブソングですね。
近野 …………はい。まぁラブソング、です。なんか……この曲は、別れてひとつ面倒くさいことを断ち切って次に行きましょうっていう意味を持っていて。完全に区切りを付けられる1つ手前の段階にいて、この後にちゃんと前向きな姿があってほしいなって思いを込めてる。俺はいつも面倒くさい歌詞を書くんですけど、今回はより面倒くさい部分が出てます。
──近野さんの書く歌詞には、いつも考えさせられる。裏にある何かを想像したくなる歌詞だと思います。
近野 まぁ、「どう受け取ってもいい」っていつも言ってるんですけど、正直なところ本当は言いたいことは一応あって(笑)。でもそれって俺が言っていいのかなっていう気持ちもあるな。
──そんなナイーブな面も、同性の皆さんから共感を受けるのかもしれませんね。ワンマンライブでもかなり男性ファンが多かったですし。
近野 男って、意外と男くさい音楽じゃないのも聴きますからね。例えば「女々しい」っていう言葉は男にしか使われないですよね。だからこそ逆に、女々しい気持ちってある意味男の象徴だと感じることもある。なので、胸張ってそういう曲を書いてもいいのかなと思いますね。
鴉(からす)
近野淳一(Vo,G)、一関卓(B)、渡邉光彦(Dr)からなるスリーピースバンド。2001年に近野を中心に秋田で結成。エモーショナルかつ重厚なサウンドと叙情的な歌詞世界で、地元で絶大な支持を集める。2008年頃より関東地区でのライブ活動を開始。2009年1月にTSUTAYA限定シングル「時の面影」を発表、同年2月に「時の面影」がiTunes Store「今週のシングル」に選ばれ各方面で反響を呼ぶ。2009年3月、初の全国流通作品となるミニアルバム「影なる道背に光あればこそ」をリリース。2009年8月には1stシングル「夢」でメジャー進出を果たす。