1曲ぐらいは暗いやつがあってもいいじゃないですか……
──続く「ラフレシア」の歌詞も非常に抽象的で、その中で厭世観というか救いのなさのようなものを感じます。
どうしても救いのないものが好きなので。今回は「アニメオープニング主題歌集」というテーマが最初にあったんですけど、それに耐えられなくなったというか(笑)。「いや、オープニングって言ったって、1曲ぐらいは暗いやつがあってもいいじゃないですか……」と、終盤で私のわがままが出ちゃったんです。でも、この曲があるのとないのとではアルバムの印象がまったく違ってくると思うので、そういう意味では「クラスの端っこにいるヤバいやつ」みたいな位置付けの曲ですね。ひっそりと咲いている感じ。
──歌詞に「怪獣」というワードが出てきますが、元になった作品は怪獣アニメではない?
ではないです(笑)。でも、主人公はものすごく暴れるので、それを表現するために「怪獣」という言葉を使いました。この主人公は、ある人に出会ったことで自分の本性を暴かれてしまうというか、思春期あるあるみたいな話でもあるんですけど、説明するのが難しいですね……。
──正直、なんのアニメか見当もつきません。
いや、実際この曲はそれを当てるのが一番難しいかもしれない。作品自体もけっこう抽象的で、私としては主人公はすごく真面目で、真面目であるがゆえにこうなってしまったんだなと思いながら書きました。
──曲調としてはエレガントな、しかし退廃的なワルツで、カノエさんの気怠げなボーカルもフィットしていると思いました。
この主人公はたぶん、自分以外の人たちをちょっと下に見ているところがあるので、「あいつらとは違うんだ」という思いを込めながら、主人公が「汚い」とみなしているであろう世界を歌いましたね。
──カノエさんは、「あいつらとは違うんだ」というタイプではないですよね。むしろ自分以外の人を上に見ているというか。
「あなた様方とは違うんです、ごめんなさい!」みたいな(笑)。
──そして最後の曲「秋の空またはオレンジの夕暮れ」は、先ほどおっしゃった通り解放感がありますね。
この曲の主人公は、1曲目の「思春期中二話症候群」の主人公と同年代の子だと思ってもらって大丈夫なんですけど、「中二話」が“陰”の人なら、「秋の空」は“陽”の人というか、ちょいチャラめでわりと人生をエンジョイしている人なんです。そういう陰と陽の対比をやりたかったのと、さっき言った「あと1曲で終わるぜ!」という解放感もあり、歌詞も振り切ってしまおうかなと。サビの頭でいろんなファンタジーをぶち壊して、聴いた人を急に現実に引き戻すようなものを目指しました。
──サビ頭の歌詞が「はじめてのキスは涎の味」ですからね。身も蓋もない。
ひどいですね(笑)。
──ただ、楽曲としてはあくまで“陽”で、シャッフルビートも相まってウキウキする感じがあります。
私も気分がいいときに聴くと本当にルンルンになりますし、今回の収録曲の中では一番歌いやすかったです。楽曲の作り方としては、私1人だけで作詞作曲から歌唱、楽器の演奏まで全部やる「ぼっち」シリーズに近いというか、「シンガーソングライターっぽい一面もちゃんと見せておこう」という狙いもあって。なおかつ、ここまで書いてきた6曲の流れも踏まえつつ、キャッチーさを出そうと思ったらこうなったんですけど、ボーカル的にはなんら抵抗なく歌えて、レコーディングもほぼ一発OKに近かったですね。
今しかできない歌い方をしているカノエを観にきてほしい
──ここまでお話を伺ってきたように、本当にバラエティ豊かな楽曲群ですね。しかもどれもキャッチーで、「カノエラナ的アニメオープニング主題歌集」というコンセプトの効果が表れているのではないかと。
ありがとうございます。今回は自由に遊び回りつつも、あくまで「オープニング主題歌集」というテーマに軸足を置いて、そのうえで「カノエらしさとはなんぞや?」みたいなことを探求していく作業だったというか。最初から最後まで、いろいろ考え抜いて作ったという実感があります。
──現時点での「カノエらしさ」って、具体的に言葉にできます?
うーん……いい意味で統一感がない。これは「こだわりがない」というのとは違うんですけど、例えば私は「何色が好き?」と聞かれるとすごく困るんですよ。いろんな色が好きすぎて、1色に絞れないから。なので、いつも「いろんな色の絵の具が乗ったパレットみたいな曲を作りたいな」と思っていて。
──ジャケット写真でカノエさんが着ている白衣も、いろんな色でペイントされていますね。
あ、そうですね。だからカノエらしさとは、つかみどころがありそうでない、いろんな色をしているところです。まあ、いろんな色といっても、どの色もトーンは抑えめなんですけど(笑)。それを意図的に、わざとやっているのがカノエラナかもしれない。
──そんなカラフルなカノエさんの歌を直に聴ける東名阪ツアーが、10月に予定されています。
弾き語りツアーではない、バンド編成のツアーは本当にひさびさなので、正直、不安もあります。それに、まだお客さんは声を出せないんじゃないかとか、ちょっと想像しづらい部分もあって。でも、自分としてはすごく面白いアルバムができたし、すでに「早くライブでも聴かせたい!」と前のめりになっている自覚があるんです。なので不安よりも「今しかできない歌い方をしているカノエを観にきてほしい」という気持ちが上回っていますね。
──「今しかできない歌い方」とおっしゃいましたが、確かにカノエさんのボーカルスタイルは変わり続けていますよね。
そうなんですよ。初期のCDを自分で聴いても「誰これ?」ってなりますもん(笑)。だから本当に、今じゃなきゃ聴けない歌になると思います。
公演情報
カノエラナ アルバムリリースバンドツアー2022「思春期東名阪症候群」
- 2022年10月14日(金)大阪府 Live House Anima
- 2022年10月15日(土)愛知県 ElectricLadyLand
- 2022年10月21日(金)東京都 Spotify O-WEST
プロフィール
カノエラナ
1995年生まれ、佐賀県唐津市出身の女性シンガーソングライター。2015年4月にTwitterに弾き語りの30秒動画を上げるようになったことをきっかけに人気に火が付き、ライブ動員を徐々に増やしていった。2016年3月に行った東京・渋谷CLUB QUATTROでの初ワンマンライブはソールドアウト。同年8月にミニアルバム「『カノエ参上。』」でメジャーデビューを果たし、2018年2月に1stフルアルバム「『キョウカイセン』」をリリースした。2021年9月に、全曲の作詞作曲、アレンジを自身で手がけた初のコンセプトアルバム「昼想夜夢」を発表。翌2022年1月にWOWOW開局30周年記念長編アニメ「永遠の831」のオープニングテーマを担当し、同年8月に「カノエラナ的アニメオープニング主題歌集」をテーマとした3rdフルアルバム「歌楽的イノセンス」をリリースする。