カノエラナ「歌楽的イノセンス」インタビュー|アニメへの愛と願望を込めたアニソン主題歌集

カノエラナが3rdフルアルバム「歌楽的イノセンス」をリリースした。

2年8カ月ぶりのフルアルバムとなる本作は「カノエラナ的アニメオープニング主題歌集」というテーマのもと制作されたコンセプトアルバム。アニメ「永遠の831」のオープニングテーマ「キンギョバチ」のほか、実在する作品のオープニング曲を想定して制作したという楽曲が収められており、カノエのアニメへの愛がこれでもかというほど詰まったディープな作品に仕上がっている。音楽ナタリーはカノエにインタビューを行い、本作の制作背景や、彼女のルーツにもなっているアニソンへの思いについて話を聞いた。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 入江達也

私がいろんな曲を書くのは、アニソンが好きだから

──3rdフルアルバム「歌楽的イノセンス」のテーマは「カノエラナ的アニメオープニング主題歌集」ですが、このテーマはどのように決まったんですか?

もともとはカノエチームの発案だったんですけど、私もアニソンカバーアルバム(2020年4月発売の「『尊い』~解き放たれし二次元歌集~」)を出したし、今後カノエラナとして向かいたい場所が明確になっていて。「アニメソングを歌いたい」というのはずっと自分自身で言ってきたことでもあったので、今回はその制作過程におけるチャレンジ的な意味も込めて、チームの案に対して「私も乗ります!」という格好でした。

カノエラナ

──チームの思惑とカノエさんの思惑が一致していたと。カノエさんは以前からアニソン好きを公言していますが、アニソンがソングライティングなどに与えた影響はありますか?

私がすごくいろんな曲を書くのは、アニソンが好きだからじゃないかなあ。昔から私は特定のアーティストやバンドを追いかけたことがなくて、いろんな人のいろんな曲の中から自分が面白いと思った要素を取り入れているんですけど、それって結局、自分が歌っていて飽きないものを作りたいからなんです。じゃあ、自分が聴いていて飽きないものは何かというと、アニソンなんですよね。アニソンは自由というか、「こんな急に世界が変わることある?」みたいな突拍子もない展開が普通にあったりするし、そういう曲を自分でも書きたいので、たくさん影響を受けていると思いますね。

──カノエさんにとってのアニソンの原体験というか、初めて「このアニソン、好きだ!」と認識した曲って、覚えていますか?

「しましまとらのしまじろう」のエンディングテーマ「ハッピー・ジャムジャム」ですね。しまじろうのぬいぐるみも家にあって、幼い私は「ハッピー・ジャムジャム」に合わせてずっとカスタネットをタンタン叩いたり踊ったりしていたみたいです。

──「ハッピー・ジャムジャム」は、先ほどお話に出たアニソンカバーアルバムにも収録されていましたね。

そうです。私の中ではしまじろう大先生ですね。

──カバーアルバム、すごく面白かったです。例えば「NO, Thank You!」(「けいおん!!」エンディングテーマ)がスカになっていたり、「シリウス」(「キルラキル」オープニングテーマ)がバラードになっていたり、各曲のアレンジも凝っていて。

あのアレンジは、私が作品を観たあとの解釈というか感想を形にしていただいたもので。選曲に関しては、基本的には自分がシンガーソングライターになる以前に、アニソンを聴いていて「好きだな」と思った瞬間を切り取ったような感じです。

──その選曲が1つのサンプルでもあると思いますが、カノエさんが考える理想的なアニソンの形、あるいはカノエさんがそのアニソンを好きになる基準みたいなものはありますか?

好きになる基準といったら、アニメの内容やムードに沿っているかいないか、それだけですね。やっぱりアニメ作品そのものが何より大事なので、その作品に合っていて、かつ魅力を引き出しているような曲が好きです。

「私だったらこんな楽曲を歌ってみたい」という願望も込めたアニメ主題歌集

──「カノエラナ的アニメオープニング主題歌集」ということですが、例えば架空のアニメに主題歌を付けるような作り方だったんですか?

いいえ、実際にあるアニメを観て、参考にしながら書きました。

──ということは、よく歌詞を読むなどすればネタ元が割れる?

割れますね。わりと露骨に書いている曲もあれば、ぼかしたうえで自分の考えを入れ込んでいる曲もあるんですけど、わかる人はすぐわかるんじゃないかな。なので、各作品のいちファンとしての私が「この作品だったらこんな楽曲を歌ってみたい」という願望も込めた非公式の主題歌みたいな感じです。

──では、本作にはアニメ「永遠の831」のオープニングテーマ「キンギョバチ」(2022年1月リリースの配信シングル)という公式の主題歌も収録されていますが、作り方としてはそれとあまり変わらない?

変わらないです。1クールにしろ2クールにしろ全話観て、その観ている間に大事なところを書き出していったんですけど、「キンギョバチ」もそういう作り方だったので。

カノエラナ

──アルバムタイトルの「歌楽的イノセンス」の読みは「かがくてきイノセンス」、つまり「歌楽的」は「科学的」とかけていると思いますが、どういう意図でこのタイトルを付けたんですか?

今回は裏テーマとして、曲の作り方を今までとガラッと変えてみるというのがあって。それは「カノエラナ的アニメオープニング主題歌集」という表のテーマと同じぐらい、自分の中では大きなテーマなんですよ。私は、今までは曲と歌詞を同時進行的に、Aメロから順番になんとなく歌詞を思い描きながらメロディも一緒に作るというやり方をずっとしてきてたんですけど、ちょっと待てよと。そうじゃなくてまずメロディから、しかもサビから作ってそのあとにAメロとBメロを考えていったほうが、もしかしたら曲というものは育つんじゃないかと思ったんです。そのうえで、アニソンを作るのであればキャッチーなものにしたいけれども、そのキャッチーさというのが自分の曲には足りないと感じていて。だから私にとってアニソン的なキャッチーさを出すという作業は実験的でもあったんです。

──なるほど。

あと、「私が初めて曲を作ろうとしたとき、何したっけ?」と思い返してみたら、好きな曲の構造を分析したりしていたなあって。なので今回アニソンを作るにあたっても、例えばある作品のオープニングとエンディングを分解して混ぜ合わせてみたり、2クールアニメだったら1クール目のオープニングと2クール目のオープニングの結び付きを探ってみたりして。めちゃくちゃ時間がかかったんですけど、そういう研究めいた行為って、私が音楽を作り始めた頃に感じていた楽しさに通じているんですよ。その無垢な感じも表したくて「歌楽的イノセンス」というタイトルを付けました。

カノエラナ

──例えば、前作にあたるカノエさん初のコンセプトアルバム「昼想夜夢」(2021年9月発売)は内省的でダークメルヘンな作風でした。

はいはい。

──その「昼想夜夢」がキャッチーではなかったと言いたいわけではありませんが、今回の「歌楽的イノセンス」はキャッチーさの質が違うように思います。

そうですね。今までは自分が好きなものにのめり込んでいった結果、出てきたものを伸ばしていきましょうという感じで。特に「昼想夜夢」を作っていた時期はコロナ禍で、本当に外に出られなくて自分自身も内向きになっていたんですけど、今回は外に出たり出なかったりだったこともあり「皆さん、これどうですか?」と、外に向けて発信していこうという意図がありました。