カノエラナの2ndアルバム「盾と矛」が12月4日にリリースされる。約1年10カ月ぶりのニューアルバムにはリード曲「嘘とリコーダー」をはじめ、カノエならではの着眼点と妄想から生まれた10曲が収められている。音楽ナタリーの特集では、カノエのリクエストを受け、彼女が過去に楽曲提供をした藍井エイルとの対談を実施。腰を据えて話すのはこれが初めてだという2人が、音楽やゲームなど共通の話題で徐々に打ち解けていく様子をぜひ楽しんでほしい。
取材・文 / 須藤輝 撮影 / 曽我美芽
カノエラナの世界に憧れていた
──カノエさんは、藍井さんの4thアルバム「FRAGMENT」に「パズルテレパシー」という楽曲を提供されていますが、これはどういう流れで?
藍井エイル 私が活動休止中にカラオケに行ったときに、友達がカノエさんの楽曲を歌っていて。それを聴いて私もカノエさんのファンになって、自分のアルバムに楽曲提供していただけないかとお願いしました。
カノエラナ いや、びっくりですよね。お話をいただいたときはリアルに「ひえええ」と声が出ました。私はアニメが大好きで、エイルさんの歌ういろんなアニメの主題歌をいつも「ああ、カッコいいなあ」と思いながら聴いていたので。
藍井 カノエさんの曲はまず歌詞にパンチがあって、それでいてすごくリアル。そういう世界観に私は憧れているんですよ。最近、私はファンの方から「等身大の歌詞を書くようになったね」と言われるんですけど、そこにも実はカノエさんの影響があります。
カノエ 胃が痛いです(笑)。
──カノエさんに曲を書き下ろしてもらうにあたり、藍井さんから何か具体的なオーダーを出されたんですか?
藍井 アルバムの制作に入るときに私が「カノエさんの『ヒトミシリ』みたいな曲があると面白いのにな」という話をスタッフさんにしていたんです。なのでそれをお伝えしつつ、“日常のカケラ”をテーマにアルバムを作っていたので「“日常”を感じる曲を」とリクエストさせていただきました。
カノエ 「パズルテレパシー」のメロディはわりとするっと出てきたんですよね。「ヒトミシリ」っぽい感じだけど、サビで切なさがガーンと出るほうがエイルさんにハマるなと思いながら。ただ、私が歌詞を書くとなるとどうしても言葉がどぎつくなっちゃうので、その色をどこまで出すのか、いい塩梅になるところをかなり探りました。それこそパズルみたいに、ちゃんと“エイルさんの歌”になるように言葉を組み合わせる作業を繰り返して。
藍井 最初にいただいたデモがカノエさんのアコギの弾き語りだったんですが、その時点ですごく引き込まれたし、特に私はBメロの妖しいメロディラインが気に入ったので「早く歌いたい!」と思いました。アレンジは重永亮介さんが王道的なギターロックに仕上げてくださいまして、ライブでは私もギターを弾きながら歌っているんですけど、ホントに歌っていて楽しい曲です。
カノエ ひえええ……。
私には出せないけど、この声だ!
藍井 歌詞も新鮮だったんですよね。例えば「電車」というワードは私の中からは出てこないんですけど、それも含めてカノエさんの見ている世界を歌えるんだと考えたらすごくワクワクしました。
カノエ えっへっへっへっへ(笑)。
藍井 あと、私は「FRAGMENT」の最後に入っている「フラグメント」という曲の作詞、作曲をしているんですね。実はその歌詞の中に、カノエさんが「パズルテレパシー」で書いてくださった「また明日 と決まった台詞を口に出す 明日が来る保証なんて何処にも無いのに」と似たフレーズがありまして……心の中で「ごめんなさい、被っちゃった!」と(笑)。
カノエ いやいやいや(笑)。
藍井 自分でも無意識に書いていて、レコーディングも何もかも終わったあとに気付いたんですけど、そのときに「少しだけカノエさんと心がつながったかも」と思いました。
カノエ うれしいです。私は完成した「パズルテレパシー」を聴いて、もう完全にエイルさんの曲になってると思いました。私が投げたデモ音源が完璧な形で戻ってきて「ひょええええ」ってなりましたね。
藍井 私は逆に、デモのカノエさんの歌声にやられました。いい声だなと思いながら何回も聴きましたし。カノエさんはちょっとかすれた感じの声でも歌えるし、巻き舌気味にも歌えるし、歌に付けるニュアンスが天才的すぎて尊敬します。
カノエ (白目を剥きながら)ひょええええ。それを言ったら私はエイルさんの音域の広さがうらやましくて。カラオケでエイルさんの歌を「うう、高音が出ない……」と思いながら歌わせてもらってますし、「パズルテレパシー」にしてもサビで上のほうに声がスコーンと当たってるのがめっちゃ気持ちよくて、「私には出せないけど、これだ!」と感動しました。どうしたらそんなストレートにマイクに声が乗るんですか?
藍井 最近、背筋をメインに体を鍛えているんですよ。背中を鍛えることによって胸が開きやすくなって、胸が開くと喉の周りの筋肉がリラックスした状態になる。それによって肩が下がるんです。で、肩が下がると軸が安定するので、正しい発声がしやすくなるみたいですよ。
カノエ 私と逆だ(笑)。私は猫背で、キュッて肩を閉じないと歌えなくて。
藍井 ギターを弾く人は巻き肩になりがちですよね。
カノエ だからマイクでパフォーマンスするときも何かを抱えてるような姿勢になっちゃって。気を付けなきゃと思っていたんですけど、背中を鍛える方向で考えてみます。
「先生、僕がやりました」
──ここからはカノエさんのニューアルバム「盾と矛」についてお聞きします。藍井さんはアルバムを聴いてどんな感想を持たれました?
藍井 すごく多彩で、なおかつ攻めてますよね。中でもリード曲の「嘘とリコーダー」は攻撃的なサウンドで、歌詞もなかなか背徳的だし、歌い出しが「先生」というワードで始まるのも特徴的ですよね。
カノエ ありがとうございます。とにかくインパクト重視で、その先のストーリーが気になるフレーズを曲の頭に持ってきたいと考えたときに「先生、僕がやりました」しかないかなと。テレビで管楽器が特集されているのを観て「そういえば昔、リコーダー事件とかあったなあ」なんてことを思い出しながら部屋の隅でぼんやりいたんですけど、まあグロテスクな曲になりましたね。
──リコーダー事件というのは、要するにクラスの男子が意中の女子のリコーダーを……。
カノエ ええと、逆でした。
藍井 ええー!
カノエ 男子のリコーダーを、女子が吹いてました(笑)。
藍井 私はやったことがないからわからないんですけど、リコーダーをくわえるのって、間接キスでもありつつ、その……相手の唾液を入手するような感覚だったりするのかなって。
カノエ すごい感想だ(笑)。
藍井 カノエさんは自分がリコーダーをくわえてたわけじゃないのに、それを想像で膨らませてこんなに生々しい歌詞にしているわけですよね?
カノエ 常に妄想と隣り合わせで生きているからそういう作風になっちゃうんですかね。この歌詞もわりとするすると、あんまり悩まずに書けました。というか、悩むと結局こじれた歌詞になっちゃうので、こういう思春期の素直な歌詞は出てきた言葉をひたすらつなげて、最後どうなるかわからないけど書き続けていくんです。
──「素直な歌詞」というのにやや違和感を覚えてしまったのですが、確かに素直といえば素直ですね。
カノエ なんなら最初から「僕がやりました」と白状してますから。道徳的にはアレかもしれないけど、彼にとってはすごく素直な言葉なような気がします。
藍井 カノエさんの書く歌詞はなんだか映像的ですよね。例えば「カラカラになった花瓶」とか「カビたパン」とか、必ずしも美しい言葉じゃないけど、そういう印象的な言葉からも教室の風景が浮かんできます。
カノエ 昔からアニメが好きだったからか、歌詞をパッと見たときにそのシーンを想像できないとイヤなんですよね。もちろん考察の余地があるような、一見するとよくわからない歌詞もそれはそれで面白いけど、どうしても場面を確定させたいときは、自分をそこに投影させてみるんです。「嘘とリコーダー」だったら自分も教室にいる設定であたりを見回して「花瓶があったな」とか、そこで見えたディテールを書き込んでいく、みたいな作り方をしました。
次のページ »
「1113344449990」はなんて読む?