リンクする地縛霊シリーズ
──5、6曲目には「恋する地縛霊」と「地縛霊に恋をした」というストーリー性のある2曲が入っています。「恋する地縛霊」はすでに発表されていたナンバーですが、「地縛霊に恋をした」はアルバムのために書いたんですか?
カノエ いや、「恋する地縛霊」ができた直後にはもう作っていました。最初に設定を決めたときに地縛霊の女の子と住人の男の子の顔があったので、そのキャラを頭の中で動かしながら歌詞を書いていったんです。だからどうしても男の子の気持ちも知りたいと思って、こっち側を掘り下げていっていつの間にか歌詞になって。
──「地縛霊」シリーズは浅野さんのアレンジですが、「恋する」がジャジーでノリノリな感じなのに対して「恋をした」はひんやりとした切ないアレンジで。
浅野 楽器の構成はほぼ同じなんですよ。最後まで聴いて「死んじゃうんだ……」ってびっくりしました(笑)。
カノエ これは“メリーバッドエンド”なんです。私メリバ大好きマンなので……地縛霊とくっ付くには死ぬしかないんですよ。だから「いい感じの死に方はないかな」って探して。
──浅野さんも歌詞を書くことがありますが、カノエさんのように設定を作ってから書くことはありますか?
浅野 アイドルの曲を書くときはそういう感じですね。アイドル自身のことを歌う曲のときは、その子たちの状況を教えてもらって自分がそれになりきって歌詞を考えますね。だから設定があって、それをふくらませていくっていう点ではラナちゃんと歌詞の書き方が近いのかもしれない。
カノエ 私もそのキャラクターに乗り移った感覚で歌詞を考えるんですよ。自分がもしこのキャラクターだったらどんな気持ちになってどういう行動をするかとか。
──この2曲はメロディの部分でもリンクしているんですか?
カノエ 高低差のあるサビはリンクさせてますね。ライブで歌うのがつらいんですけど、うまく歌えると気持ちいいし、歌い甲斐があります。2曲続けて聴いてもらえるのが本当にうれしいです。
最初と最後は決まってた
──「嘘つき」も美メロなバラードで、石崎さんの手腕が窺えるアレンジですが、歌っている内容は……。
カノエ かなりギスギスしてますね(笑)。この歌詞、地元の友達の実話を元に書いたんです。朝方の4時頃、友達から「彼氏に浮気されたんやけど……」って突然電話がかかってきて。それを私は「へー、それでそれで?」とメモを取って……(笑)。佐賀にライブをしにいったときにこれを歌ったら、その友達から「これってもしかしてあのときの私の話じゃね? 曲にしやがったな……」って言われて(笑)。「申し訳ありません! あはは!」みたいな感じでしたね。
──和解済みと(笑)。
カノエ はい(笑)。でも私は恋愛経験が全然ないし、ましてや浮気されるなんて経験もないんですよ。だからその話にリアリティが感じられなくて……。この状況に近い感覚はなんだろうなと考えたら、私の曲をずっと聴いてくれていたファンの人がほかのアーティストさんをすごい好きになって私から離れていく感じなのかなって。「え、ずっと聴くって言ったじゃん。嘘つき」という恨み節的なところもありますね。だからライブで歌うときも力が入るんです。低めの声で「お前らわかってるよな?」っていう気持ちで歌っています(笑)。
──「エスカレーターエレベーター」は、今までのカノエさんの曲ではなかった打ち込みメインの曲ですよね。
カノエ 遊びのつもりでGarageBandでピコピコっと作った音源をスタッフチームに送ったら意外と好評で。それで石崎さんに送ったらさらに音が派手になって戻ってきました(笑)。
──打ち込みの曲はほかにも作ってますか?
カノエ これが初めてですし、ほかにはまだないですね。歌詞は日常で理不尽だなと感じたことを詰め込んでいるんですが、深く考えることはオススメしません(笑)。
浅野 そう言われると考えたくなりますね(笑)。
──「あーした天気になぁれ」はどんな気持ちで書いた曲なんですか?
カノエ けっこう昔からあった曲で、人から「人見知りを直したほうがいいんじゃない?」とか「外に出なよ」とか「黒い服ばっかり着ちゃダメだよ」とかいろいろ言われて、「もうめんどくさい!」と思ったときに書きました。明るい曲もたくさん歌っているんですけど、自分の奥深くで眠っている曲調はゆっくりで暗いものなので、それを呼び覚まして作りました。
──なぜこのタイミングで?
カノエ 既発曲がテンション高めの曲だったので、ゆっくりした曲が必要かなと思って引っ張り出してきました。その中から「自分っぽいな」と思える曲を、せっかくの1stアルバムだしと思って選びました。
──「ツキウサギ」はボイスドラマプロジェクトのために書き下ろした楽曲ですね。和風なサウンドが印象的です。
カノエ こういう“厨二っぽさ”のある曲は得意なんですよ。あんまり出してきませんでしたけど。「I」とか「ひとりかく恋慕」と同じ系譜かなと思います。このアルバム実は13曲入りの予定で動いていたんですけど、レコーディングが間に合ったので「ツキウサギ」も入れることができました。
──そうだったんですね。そしてアルバムの最後は「ヒトミシリ」で締めくくられます。
カノエ ライブで一番歌う曲だし、演奏しながらファンの人にちゃんと刺さってる感覚がある曲なんです。どの曲よりもみんなが「わかるよ」って共感してくれて。この曲を聴いただけで歪みきった部分を含めた私の人間性をわかってもらえるから、それをやっぱり最後に持ってくるのがいいんじゃないかと思って。1曲目と最後のこの曲の位置は最初から決めていましたね。
書く曲が今までと変わったとしても、成長だと思って見守ってほしい
──そしてこのアルバムは「『キョウカイセン』」というタイトル。なぜこのタイトルにしたんですか?
カノエ アルバムタイトルは最後に決まったんですよ。「そう言えば決めてなかったね」くらいの感じで。最初は「ふぉーえばーふぉーてぃーん」にしようと思ったんですけど、長いし文字として配置したときにちょっと伸ばし棒が多いと字面がスカスカしちゃうなと思ってやめました。いろいろ案はあったんですけど、最終的に自分の立ち位置をアルバムタイトルにすることにして。このアルバムに入っている一番古い曲は19歳のときに作った曲で、今の私は22歳。大人と子供の境界線を踏んでいるなと思ったんです。あと新曲たちが今までの私を超えて出てきた曲だと感じたんですよね。今までの私じゃ歌えなかったような曲というか、そのラインを超えたなと。あと「今日開戦」の意味も込めています。
浅野 なるほど!
カノエ 今までの「カノエ○○。」シリーズはかなり喧嘩腰なタイトルだったので、それは忘れんとこうと思って。今までのシリーズは最後に「。」が付いていたんですけど、その「。」には「○○いたします。」的な謙虚さを込めていたんです。今回はあえて「。」を外して「今日開戦します」と強気に宣言しているつもりです。秘めた闘志みたいなものを宿しています。
──カノエさんはこのアルバムをもって境界線を越え、開戦宣言をしたわけですが、これからはどうなっていきたいんですか?
カノエ 開戦したからには生き抜いていきたいなと思っています。今日のライブで一番よかったのは自分だと毎回思えるぐらいのライブをしたいですね。だから常に自分との戦いだし、共演するアーティストさんとの戦いもあって。表にはそういう感じは出さないけど、心の中ではふつふつと燃え上がってるぜ、みたいな。そういう感じですね。人見知りをやっと越えられたので、前まで人の目を見て話すことがまったくできなくて全員敵やと思ってたんですね。人見知りもそうですけど、ちょっとずついろんな壁を越えていけているので、その壁を越えたときの自分を曲にしていけたらいいなと思っています。だからみんなには私が書く曲が今までと変わったとしても、成長だと思って見守ってほしいですね。
浅野 これからラナちゃんがどんな曲を書くのか楽しみですね。「サンビョウカン」はまさにそれを象徴する1曲だと思います。
──2月から大変そうな武者修行ツアー「全国キャラバンツアー2018~ぼっちカノエの武者修行、装備はギターと水のみです。」が始まりましたね。以前も弾き語りツアーがありましたが、今回はファイナル以外すべてフリーライブです。
カノエ 風邪をひかんようにがんばってたくさんの人に観てもらいたいです(笑)。ファイナルでようやくライブハウスに入れてもらえるので、そこまでたどり着けるようにがんばらないといけないなと思います。あとはアルバム制作のときに曲を出し尽くしてしばらく曲が全然書けなかったんですけど、最近また書けるようになってきたので新曲をどんどん作って、また皆さんに聴いてもらえたらいいなと思っています。
- カノエラナ「『キョウカイセン』」
- 2018年2月7日発売 / Warner Music Japan
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初回限定盤 [CD+DVD]
3456円 / WPZL-31411~2 -
通常盤 [CD]
2700円 / WPCL-12822
- CD収録曲
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- カノエラナです。改
- トーキョー
- おーい兄ちゃん
- サンビョウカン
- 恋する地縛霊
- 地縛霊に恋をした
- 嘘つき
- たのしいバストの数え歌
- エスカレーターエレベーター
- ダイエットのうた
- あーした天気になぁれ
- シャトルラン
- ツキウサギ
- ヒトミシリ
- 初回限定盤DVD収録内容
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Music Video
- カノエラナです。
- ヒトミシリ
- シャトルラン
- トーキョー
- おーい兄ちゃん
- たのしいバストの数え歌
- ダイエットのうた
Making of Music Video
- シャトルラン
- トーキョー
- たのしいバストの数え歌
- ダイエットのうた
- カノエラナ「全国キャラバンツアー2018ファイナル ~ぼっちカノエの武者修行、終わりと始まりのキョウカイセン。~」
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2018年3月31日(土)東京都 WWW
- カノエラナ
- 佐賀県唐津市出身の1995年生まれの女性シンガーソングライター。14歳の頃に出場した「唐津ジュニア音楽祭」で、EGO-WRAPPIN'「くちばしにチェリー」を歌って優秀賞を獲得した。高校を卒業した2014年の春に上京し、音楽活動を本格的に開始。Twitterに弾き語りの30秒動画を上げるようになったことをきっかけに人気に火が付き、ライブ動員を徐々に増やしていった。2016年3月に行った東京・渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライブはソールドアウト。同年8月にワーナーミュージック・ジャパンよりミニアルバム「『カノエ参上。』」でメジャーデビューを果たした。2017年2月にメジャー2ndミニアルバム「『カノエ上等。』」と、Twitterで公開してきた“30秒弾き語り曲”を30曲収録した“30秒ソング集”「『30秒~カノエの楽しい歌日記~』」を同時リリース。3月から17カ所を回る弾き語りツアー「勇者を探して三千里~ぼっちで広げる旅の地図~」、5月からバンド編成ツアー「とうめいはーん!!!ふくをマネくぜ勇者たち。」を開催し、成功に収める。7月にメジャー3rdミニアルバム「『カノエ暴走。』」を発表。2018年2月に1stフルアルバム「『キョウカイセン』」をリリースし、弾き語りツアー「全国キャラバンツアー2018~ぼっちカノエの武者修行、装備はギターと水のみです。」を行う。3月31日には東京・WWWにてバンド編成のワンマンライブ「全国キャラバンツアー2018ファイナル~ぼっちカノエの武者修行、終わりと始まりのキョウカイセン。~」を開催。
- 浅野尚志(アサノタカシ)
- 1989年10月20日、石川県生まれのサウンドクリエイター。幼少時よりピアノとバイオリンを学び、中学生の頃に独学で作曲・編曲を始める。創作活動の中で、ドラム、ギター、ベースなどさまざまな楽器をすべて1人で演奏するスタイルを構築。カノエラナをはじめ、チームしゃちほこ、でんぱ組.inc、鈴村健一などさまざまなアーティストの作品にも携わる。プレイヤーとしても活躍しており、サウンドプロデュースを手がけるNICO Touches the Wallsのライブサポートも務めている。