感覚ピエロが9月4日に初のベストアルバム「全裸」をリリースする。
11月4日にバンド史上最大のチャレンジとなる千葉・幕張イベントホールでのワンマンライブ「感覚ピエロ 5-6th anniversary『LIVE - RATION 2019 FINAL』~幕張ヴァージンはあなたのもの~」を開催する感覚ピエロ。その先駆けとしてリリースされる今作は、2013年にバンド結成と同時に発表した「メリーさん」から、昨年10月リリースのシングルに収録された「ありあまるフェイク」までの5年間の音源をまとめた作品で、代表曲「O・P・P・A・I」や、テレビドラマ「ゆとりですがなにか」の主題歌として話題を呼んだ「拝啓、いつかの君へ」など16曲が収録される。
今回のインタビューでは、そんなベスト盤からトピックとなる楽曲をピックアップしつつ、バンドが歩んできた道のりを紐解いた。
取材・文 / 秦理絵 撮影 / 新元気
今出すことで、幕張へのストーリーにも納得してもらえれば
──結成6年目に突入した感覚ピエロですけど、このタイミングでベスト盤を出そうと思ったのは、バンドとして何かひと区切りを付けたかったからですか?
横山直弘(Vo, G) いや、ひと区切り付けるという意味ではないですね。ただ、幕張というメモリアルなライブがあるから、それに向けて記念碑的なベストアルバムを出しておく感じかな。まだ俺らのことを聴いたことがない人に聴いてもらう、そういうものを用意したいという位置付けです。すごくわかりやすい1枚になってると思います。
秋月琢登(G) ベストアルバムを出すタイミングに関しては、そんなに深く考えてないんですよ。「出すならばここかな?」っていうぐらいで。幕張が終わったあとに出すのは違うし、今出すことで、幕張へのストーリーにも納得してもらえればと思います。
──バンドの大きな挑戦である幕張ワンマンを控えたタイミングだからこそ、改めてバンドの歩みを知ってもらいたいというか?
秋月 そうっすね。僕らって初期のスタンスからいくと、幕張でやるようなバンドじゃないんですよね。ほんまはああいう大きな場所に手が届かないけど、そういうバンドが幕張に挑戦するということに意味がある。それもあってベストアルバムの完全生産限定プレミアム盤にはインタビューブックを付けて、僕たちのストーリーを知ってもらいたいと思ったんです。
滝口大樹(B) 今回のアルバムは「ありあまるフェイク」で終わるのがいいんですよ。
──それは気になってました。最新曲には「ARATA - ANATA」とか「金求 -king-」もあるけど、収録するのが「ありあまるフェイク」までなのはどうしてですか?
滝口 えっと……。
横山 急に声が小さくなった(笑)。
秋月 掘り下げられたらめっちゃ弱いな、お前(笑)。
滝口 なんて言ったらいいんだろう……ベストを出すんやったら、「ありあまるフェイク」以降の「ARATA - ANATA」とかを収録するのは、なんとなく違うかなと思ったんですよね。
秋月 今回、ベストアルバムの収録曲順は“僕らにとっての時系列順”にしたんですよ。アルバムに入れた時系列で言うと、「ワンナイト・ラヴゲーム」は2018年発売の「色色人色」に収録された曲だから、2017年にリリースした「等身大アンバランス」とか「疑問疑答」よりあとだけど、実は2016年に配信でリリースしてた。っていう、僕らが世に出した時系列順に入れたかったんですね。その流れで聴いたときに「ありあまるフェイク」のあとに、「金求 -king-」とか「ARATA - ANATA」で終わる、もしくは新曲を書き下ろすっていうイメージが湧かなかったんですよね。2018年までの作品を詰めさせてもらって、2019年の曲は入れてないんです。
──そういう意味では、幕張ワンマンの開催を去年の7月に発表したけど、その発表以前の曲を収録したと言い換えることもできますね。
滝口 そういうことです。
秋月 幕張までのストーリーを語れるので、「メリーさん」から始まって、「ありあまるフェイク」で終わるのが、1個のアルバムとしてきれいなんですよね。
実はほとんど録り直したんですけど、違和感があったんです
──実際に今作を通して聴いたりはしましたか?
横山 聴きました。すっげえ面白いアルバムなんですよ。曲のバリエーションも多いし、時期ごとに試行錯誤してるから、バンドのドキュメンタリーとして聴けるんです。「メリーさん」には結成した当時の空気感を感じるし、曲が進むにつれて、47都道府県ツアーを2回も回ったバンドの成長も感じられるアルバムになってる。それは、普通のオリジナルアルバムでは出せない匂いだと思います。
アキレス健太(Dr) エモいですよね。今回、録音は当時のままなんですよ。初期の俺らは曲を作った翌日にレコーディングしてたので、その熱がそのまま閉じ込められてる気がしますね。
滝口 街のスタジオで横山のマイクを立てて、「じゃあ、ドラム録ろうか」ってね。
──ベストアルバムを出すとなると、録音環境が整っていない昔の音源は録り直すケースも多いですけど、あえて録り直さなかったんですか?
秋月 いえ、実は録り直しもしたんですよ。最初は「ベストを出すなら、やっぱり録り直したいね」っていう気持ちがあったから、ほとんど録り直したんです。
──え、そうなんですか!?
秋月 周りの音楽関係の方とかアーティストにも録り直したほうがいいよって言われてたんですけど、録りながら違和感があったんですよね。で、結局メンバーに「できたら前の音源を出したいよね。恥ずかしいけど、あっちのほうが好きやな」という話をして。
滝口 俺もそれを「メリーさん」で感じたんです。「メリーさん」って、俺らが初めて作った曲なんですけど、リテイクしたのと聴き比べると、今のほうが余裕があるんですよ。それを俺は「違うな」と感じて。あのときはみんながみんな前傾姿勢で、「いくぞ!」っていう感じやったからこそ、カッコよかったんやっていうことに気付いたんです。
横山 やっぱり音楽は人間が作ってるんだなって思わされますよね。もう6年前の自分たちには絶対に帰れないし、あのときにしか出せなかったものがあるなら、それをそのまま収録するほうが、自分たちにとって嘘がないんですよ。
──それだけ自分たちが歩んできた道のりに自信もあるんでしょうね。
横山 うん。昔のことに嘘をつかないということは、今の自分たちに嘘をつかないっていうことにもなるだろうし。昔のことを否定したら、「なんの土台の上に自分たちは立ってるの?」っていう話にもなっちゃうから。この判断は正しいと思います。
次のページ »
当時の僕らは反骨心をむき出しにした戦い方しかできなかった