金子ノブアキ(RIZE)が10月3日に新作「illusions」を配信リリースした。本作にはフィーチャリングゲストとしてSKY-HIが参加した、トライバルなリズムとラップが絡み合う新感覚な表題曲のほか、金子自らがこの曲をリミックスした「defeat illusions」、12分におよぶアンビエントな雰囲気の新曲「whitenight」などが収録されている。
音楽ナタリーでは今作の完成を記念して、金子とSKY-HIの対談を実施した。金子がソロプロジェクトで初めてラッパーをゲストに招いた理由や、「問題作だ」と言う「illusions feat. SKY-HI」の制作について話を聞いた。
取材・文 / 岩見泰志 撮影 / 上山陽介
初めてラッパーとコラボした理由
──金子さんのソロプロジェクトは、ダンサーの鈴木陽平さんや、パフォーミング・アーツ・カンパニーのenra、アーティストの清川あさみさんといったといった、ミュージシャンではない方とのコラボレーションが印象的です。金子さんはそこに美学もお持ちになられていたと思うのですが、ここにきてミュージシャンであるSKY-HIさんを招かれたのはなぜですか?
金子ノブアキ ここで大きいのはミュージシャンと言うよりは対ラッパーであるということですね。と言うのもJESSEというラッパーがいるRIZEのドラマーであることに、ある種の貞操観念みたいなものがあったのかもしれないと思っていて。でも2017年にRIZEの20周年イヤーを駆け抜けて、そこから解き放たれたような感覚になったんです。その感覚になれたのは、バンドでやることはやったからとか、バンドに対するアンチテーゼではなく、むしろリスペクトからですね。
──JESSEさんとやることで生まれる可能性を金子さんが心から信じていることは、昨年リリースされたRIZEの最新作「THUNDERBOLT~帰ってきたサンダーボルト~」に、バンドサウンドではないトラックにJESSEさんのラップが乗るというタイトル曲が収録されていることからも伝わってきます。
金子 まさしくそうです。でも、JESSEはJESSEであって、キャラクターは人それぞれ。日常会話レベルでも、誰といるかでそこに起こる化学反応はまったく違いますよね。言ってしまえばそれだけのことで、無自覚にせよ、なぜ今までそれを心のどこかで拒んでいたのか、自問自答しました。そこで、自分のソロでもラッパーとやってみようと思っていた頃に、日高くん(SKY-HI)と街で偶然会ったんです。前から日高くんのことは気になっていたこともあって即断即決でオファーしました。
──SKY-HIさんのどんなところが気になっていたんですか?
金子 最初に日高くんを知ったのは、家で掃除をしているときにテレビから流れてきたイトーヨーカドーのCM(2012年にSKY-HIがラップを披露するCMがオンエアされていた)。「すげえな。なんだこの人は」って。鮮烈でしたね。
──オファーした段階から、曲のイメージは浮かんでいたのでしょうか。
金子 「日高くんありきのものをやれたら楽しいかな」と思ってました。あとはJESSEと、すなわちラップと共にビートを作ってきた20年があるんで、貞操観念みたいなものがなくなったときに、ラッパーとやることはすごく自然なことでもありました。そこで自分がラップしかり、そういうストリートカルチャー出身であることを、改めてソロの現場でも提示したほうがロマンチックかなって。個人的なことですけど。
転がるように完成した「illusions」
──SKY-HIさんは、オファーを受けてどう思いましたか?
SKY-HI RIZEは僕が思春期の頃から大人気で、僕も大好きなんです。空で歌えるJESSEのバースもあるくらい。実際にJESSEと出会ったのは十代の後半、僕がクラブでラップをやり始めた頃です。すごくよくしてもらったし、KenKenとも別のことでつながりを持てたし、あっくん(金子)はあっくんでこうして今一緒にやってる。でもRIZEとして3人そろって会ったことはないんです。それもあってか、個々のエナジーやミュージシャンとしてのスタンス、スイッチを切り替える感じが面白いなあって思ってました。そんな感じで、僕の中でもあっくんに対するイメージは持っていたので、トラックを聴く前から、今回のミュージックビデオのような絵のイメージはできてたんです。おそらく2人とも黒い服を着ているだろうし……。
金子 逆光を浴びるだろうし(笑)。
SKY-HI ドラムと向かい合ってラップやるだろうし(笑)。で、「それ、やりたい!」って、即座に思いました。
金子 で、日高くんの持ち味である高速ラップを、本当に苦労してやってもらって。ビデオの撮影とかだと延々とだもんね。もはや拷問。本当にごめん!
SKY-HI 曲に合わせてリップシンクで口を動かせばいいだけなんですけど、それでは気持ちが収まりきらずにやっちゃったと言うか、やりたくなりましたね。シャトルランばりに。2キロ痩せるコース(笑)。
──金子さん独特のメソッドはありましたか?
SKY-HI 最初からゴールを見据えた曲に言葉を入れていくのも楽しいんですけど、今回はそうじゃなかった。あっくんからもらったトラックと曲のタイトルにもなった“イリュージョン”というテーマに想起させられて書いたバースに、またあっくんが何か入れて返して、そうやって転がるように曲ができていったことは、楽しかったです。
金子 これ、ラップを入れたあとにドラムを録ってるんです。最初はパーカッションだけの、もっとトライバルに寄ったリズムで。それでもカッコよかったんですけど、お互いに盛り上がってきてビデオも撮ることになったので、絵的なことを考えて、ドラムを叩いたんだよね。
SKY-HI パーカッションだけのあっくんかー(笑)。
金子 2人の個性が向き合ってる緊張感や精神性みたいなものも示したかったんです。そうなると、パーカッションだけだとちょっとイメージと違うような気がして、ラップに合わせて生のドラムを構築していきました。ここまではっきり後乗せで作ったのは、JESSEともやったことない初めての試み。結果うまくいってよかったです。
──そしてすさまじい曲ができました。
金子 そうですね。変なのができちゃいました(笑)。
現在進行の音楽を作りたかった
──RIZEやソロでのキャリア、AA=など、金子さんがやってきたことを振り返ると、その音楽性の幅広さは明白です。もはや何が飛び出しても、たいていのことで驚かないですけど、「illusions feat. SKY-HI」は金子さんの引き出しには当然あるだろうなと思うところを飛び越えてきました。
金子 いろんなことをやってきて、いろんなことに飽きていたのかもしれないし、ここで1つ、何かを壊して攻めに入るときにきているのかもしれないとも思いました。で、「この人、次は何やるんだろう」って思ってる人でも、予想だにしないものになったような気がします。
──インダストリアルやテクノ、トランスなど体感してきたことがアウトプットされたものなのかな?とか、分析的に考えてしまうんですよ。
SKY-HI ご職業柄ですね。そういう角度も面白いと思います。
──で、まとまりそうで咀嚼できなくて「なんだこれは」ってサジを投げて口が開いたままになる。その違和感がツボにはまって、何度も聴いてしまいました。
金子 そうなってくれたら大成功です。そこは自分の初期衝動の1つであるラッパーを入れたことも要因だと思いますし、日高くんとだからこそ生まれた化学反応ですよね。
──「新しいものを作りたい。そこで初期衝動の中にあるラッパーとやりたい」というのはどういうことですか?
金子 自分が思春期の頃に感じたテイストをそのまま出すようなサウンドは、バンドでしかやってこなかったんです。ソロにももちろんそういう色は出てくるんですけど、テクノロジー的なものを含めて現在進行の音楽を作ろうという意識が強かった。でも過去とか今とか、そういう概念を取っ払って、自然体の自分が何をやりたいかを考えたんです。
──これまでのことを更地にして、どういう感情が出てくるか。そこでSKY-HIさんだったわけですね。
金子 それがこんな曲になるとは僕も思ってなくて。無責任な言い方ですけど。でも、いびつでもいいからとにかくはみ出したもの、何にも守られてない、ヒリヒリした傷口丸見えのものが出せたんでよかったと思います。
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“東京トライバル”を感じた