音楽ナタリー Power Push - 金子ノブアキ × 綾野剛
痛みと苦しみを共有する2人
果てしなくてはかない金子の音楽
──そんな綾野さんは金子さんソロの音楽性についてどう思ってますか？
綾野 作品を聴いて思うのは、この人は果てしない人だな、と。
──果てしない？
綾野 音に終わりが見えないんですよ。音楽は常に時間と共に前に進みますよね。形としては始まりがあって終わりがあるけど、あっくんの音楽は終わらないんですよ。こういう言い方したらあっくんは喜ばないかもしれないけど、あっくんは作品ができた瞬間に「俺の最高傑作はネクストワンだ」って思ってるんじゃないかな。まだ出し切ってない感じがするというか。それは出し惜しみをしてるわけじゃなく、この人はレコーディングが終わって「最高！」と言ってるときにはすでにその曲よりもいいものが浮かんでるんじゃないかなと。
金子 うん、実際にもう次の曲を作ってるからね（笑）。そういう意味で、音源のリリースは映画初日の舞台挨拶に似てるかな。
綾野 人に届けてしまったらもう何もない？
金子 そう。ほんとに“リリース”……放流する感覚なんだよね。
綾野 あとあっくんの曲を聴いて、僕は日本ではなくて、北欧の匂いを感じるんですよね。「The Sun」を聴いて確信に変わったんですけど、音が刹那的で破壊的なんです。聴くタイミングを間違えると、気持ちが全部持っていかれる。
金子 はははは（笑）。
綾野 その時々で感じ方が変わるんですけど。音が生きてるんですよ。音楽が呼吸している気がして、聴きながらたまらなくなるときもあるし、気持ちが全部持っていかれるときもあるし、逆に置いていかれるときもある。それはコードやリズムといった論理的なものを超越した部分で、金子ノブアキという人物によるものというか。あっくん自身が自分の欲求、不満、アンチ精神とはまた別のところで、限りなく“金子ノブアキ”を探してる感じがして。それが結果的にはかなさを生んでるんじゃないかな。我々は、死に向かってるんだけど生きようとする、矛盾した生き物じゃないですか。だけどこの人の音楽には終わらないという果てしなさがある。こんな苦しいことはないですよ。
──僕は前にも金子さんにインタビューをさせてもらったことがあるんですが、金子さんが話してくれることと同じようなことを綾野さんが話されていて、金子さんと話をしているような感覚に陥りました。
金子 感激してます。剛くんが表現者として生きてるからこその言葉だし、俺の考えと似てるなあと思いますね。
綾野 あっくんも僕も根本に怒りがあって、怒りは贈り物だと思っているんですよ。その怒りが昔はもっと表に出やすくて、年齢と共にどんどん穏やかになるものだと思っていたけど、逆に鋭利になってる気がして。あっくんとはその感覚を共有できるし、それを金子ノブアキの音楽から感じますね。
金子 我々はそれぞれの何かに照らし合わせてほしくて、いろいろな作品を発表していて。作品はどんなに明るいものだったとしても、根幹は血みどろになってドバッて吐き出したものなんだよね。それを剛くんが、聴いた僕の音から感じてくれたのだとしたらうれしいですね。自分は僕の音楽を聴いた人に、それを望んでるのかもしれないなと、話をしていて思いました。
苦しみを共有できる喜び
綾野 こないだあっくんのライブを山田孝之、内田朝陽と一緒に観に行ったんですけど、この人危ないんですよ！
──危ない？
綾野 出し尽くし方が尋常じゃないんですよね。自分のドラムの音を自分に跳ね返して、ボコボコになってる。それでもドラムの音は鳴り止まなくて。思わず「頼むから、生きて帰ってくれ」って願ってしまう。ライブを観るとあっくんの苦しみを共有できた気がするんですよ。
金子 それは真理だね。人と共有できるのは苦しみだけなんだよね。そして苦しみを共有した人とはその先に幸せになれるというか。
綾野 そうそう。ライブが終わったあと、あっくんの顔を見たらめちゃくちゃ幸せになりました。映画も制作の苦しみを共有しているから、クランクアップしたときに幸せになれるしね。
──映画といえば、綾野剛さんの主演作「日本で一番悪い奴ら」が6月25日に公開されますね。
金子 観たよ。これが映画として公開されるのはすごいなと思った。痛快だよね。メッセージはまっすぐだし、誠実な作品だよね。作品自体がエネルギーに満ちあふれているから、現場は楽しかっただろうな。
綾野 うん、大爆笑の連続。
金子 ああ、そんな感じがする。
綾野 今日、話をしながら思ったんだけど、映画も音楽もプロセスがあって、結果がありますよね。興行成績やCDセールスなどはあるけど、我々にとっては過程が生で、結果が死なんですよ。死は認めるしかないんですよね。僕らはいずれ死ぬわけだから、生きている過程を真剣に邁進しなければいけないなと。
金子 プロセスが大事だということだよね。
綾野 うん。そこが生きてる時間だからね。
金子 それにしても、十代から知っている剛くんと今こういう形でお互いの作品を見聴きして、話ができるのは幸せだね。“痛みと苦しみの共有”っていう極論も出ちゃったし。酒飲んでないのにここで結論が出ちゃった（笑）。
綾野 本当だね。いつもこういう話を肴にして飲んでいても結論は出ないのにね。
収録曲
- awakening
- Take me home
- Tremors
- Garage affair
- Firebird
- blanca
- Lobo（Album ver.）
- Icecold
- Girl（Have we met??）
- dawn
- The Sun（Album ver.）
- fauve
金子ノブアキ Tour 2016 "Fauve"
- 2016年6月2日（木）
- 石川県 金沢市民芸術村 パフォーミングスクエア
- 2016年6月3日（金）
- 福岡県 イムズホール
- 2016年6月13日（月）
- 大阪府 umeda AKASO
- 2016年6月14日（火）
- 愛知県 愛知県芸術劇場 小ホール
- 2016年6月16日（木）
- 東京都 EX THEATER ROPPONGI ゲスト：enra
金子ノブアキ（カネコノブアキ）
幼馴染みのJESSEと共にRIZEを結成し、2000年いデビュー。その随一のドラムセンスが高い評価を受け、2002年に史上最年少で「リズム＆ドラム・マガジン」の表紙、2005年にはパールドラムのバナー広告をチャド・スミス（RHCP）、ジョーイ（Slipknot）に並び日本人で初めて飾る。2009年にはRIZEと並行してソロプロジェクトも始動させ、同年7月に1stアルバム「オルカ」、2014年2月に2ndアルバム「Historia」を発表した。2015年にはギタリストにPABLO（Pay money To my Pain）を迎え、初ソロライブを実施。音楽、映像、照明を駆使し総合芸術として表現するライブは高い評価を受ける。また同年10月に清川あさみ作の絵本「シートン動物記 狼王ロボ」 にインスパイアされ制作をした楽曲「LOBO」 を配信リリース、2016年5月には3rdアルバム「Fauve」を発売した。また俳優としてもテレビドラマやCM、映画などでも活躍。2016年6月25日より東京・ユーロスペースより全国順次ロードショーされる映画「スリリングな日常」に出演する。
綾野剛（アヤノゴウ）
1982年1月26日生まれ、岐阜県出身。2003年に俳優デビューし数々の映画やテレビドラマに出演する。2013年に「横道世之介」と「夏の終り」で第37回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。2014年公開の「白ゆき姫殺人事件」「そこのみにて光輝く」で第88回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞に輝いた。2016年6月25日に白石和彌監督作「日本で一番悪い奴ら」、9月17日に李相日監督作「怒り」、秋に「闇金ウシジマくん Part3」「闇金ウシジマくん ザ・ファイナル」の公開を控えている。また6月末に開催される「第15回ニューヨーク・アジア映画祭」にてライジング・スター賞を授賞する。
ヘアメイク（綾野剛） / 井村曜子（éclat）
スタイリスト（綾野剛） / 澤田石 和寛（SEPT）
衣装協力（綾野剛）：Etro
スーツ ¥250,000 / シャツ ¥53,000
（エトロジャパン 03-3406-2655） ※価格は税抜き
