神田沙也加|オタク目線を持つプロがボカロ曲を歌うとこうなる

神田沙也加がボカロカバーアルバム「MUSICALOID #38 Act.3」をリリースした。

2018年のシリーズ1作目以来、アルバム制作や “歌ってみた”動画の投稿など、ボーカロイド文化に寄り添う活動を続けてきた神田。3作目となる今作では「どりーみんチュチュ」「死んでしまったのだろうか」といった神田自身が選曲したボカロ曲のほか、「ダーリンダンス」「乙女解剖」などファンのリクエスト投票により選ばれたボカロ曲のカバーも収録されている。声優業、女優業など多岐にわたる活動を繰り広げながらも神田がボカロに惹かれ続けるのはなぜなのか? アルバム制作の裏側を聴きながら、彼女のボカロカルチャーへの思いを語ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦

普段は“サムネ聴き”

──音楽ナタリーで「MUSICALOID #38」に関する特集を組ませていただくのは、2018年3月にリリースされた「MUSICALOID #38」の第1作目以来です(参照:神田沙也加「MUSICALOID #38」インタビュー)。こうしてシリーズの3作品目がリリースされるのは、何より神田さん自身がボカロに惹かれ続けているからだと思います。

ずーっと興味があり続けています。私の興味関心というより、ボカロというクリエイティブの可能性が尽きることがないのが一番の魅力だと思います。単純に音楽がいいのはもちろん、“歌ってみた”や“踊ってみた”といった二次創作作品も作られ続けているし、新たなファンもいろんな入口から入ってきていると思っていて。毎日新曲が投稿されていますから、検索すればするほどいい曲に出会えますし、そうすると私の場合は歌ってみたくなるので、このシリーズは本当に終わることがないんじゃないかなと思うくらいです(笑)。

──今作の収録曲のリストを見てまず感じたのは、神田さんの選曲が非常にディープであるということです。普段どのようにボカロ曲を聴いているんですか?

私はけっこう“サムネ聴き”が多いかもしれないですね。小説を買うときもそうなんですけど、まずサムネイルが気になるものを聴いてみます。それと物語性がある曲に出会ったときは、そのボカロPが前後に発表している曲を聴いたり。今作の収録曲で言うと「愛してはいけない」は、コウさんの曲が連作として作られていたので、ボカロP軸で聴いていたときに出会った曲です。

──普段触れているボカロ曲の中から、今回はどのようにアルバムの収録曲を選びましたか?

例えば「しんでしまうとはなさけない!」とか「曖昧さ回避」は、以前の「MUSICALOID #38」の制作時にも案を出していたんですが、バランスなどを考えて収録を見送った曲なんです。なので今回が念願の収録ですね。それと今回は初めて投票企画で収録曲を募集する試みもやってみました。私の好みばかりを押し出すとバランスが悪くなってしまうので、みんなが聴きたい曲のアンケートを取ってみたところ、以前から歌ってみたかった「バレリーコ」とか、「乙女解剖」のような古参のボカロファンにもおなじみの曲が入ってきて。すごくバランスのいい構成になったと思います。

──神田さん自身の選曲がディープなこともあり、ファン投票の結果を反映した楽曲が入ることで間口の広いカバー集になった印象があります。

ファンの方が絶妙な選曲をしてくださった結果だと思います。私も高校生のときくらいからボカロの文化に触れ続けているので、皆さんが投票する理由がすごくわかるんです。当時の自分にとってボカロの入り口になった曲とか、きっとみんなはこの曲から入ったんだろうな、みたいなのが見えてくる投票結果だったので、選外になった曲目を含めて皆さんの投票には本当に感謝しています。

大好きな種村有菜のイラストが衣装に

──ジャケットアートワークのイラストを種村有菜先生が手がけているのも今作の1つの注目ポイントだと思います。

神田沙也加「MUSICALOID #38 Act.3」彼方乃サヤ盤ジャケット

私、種村さんの熱烈なファンで、今回はラブレターを添えてオファーをさせていただきました。デビュー作から読ませていただいているので、「あの作品の描写がすごく好きで」みたいな前のめりなお手紙を添えてオファーしてみたら、快く受けてくださって。実はジャケットのイラストだけじゃなくて、衣装の見取り図のような設定イラストも描いていただいたんです。本当にお忙しい方なのに、期待以上のイラストを描いていただきました。

──イラストを描いていただいたあとに此方乃サヤ盤の実写用に衣装を作ったわけですよね?

はい。種村さんに描いていただいた衣装があまりにも好きなものだったので、第1作目から衣装をお願いしているスタイリストさんに再現していただきました。スタイリストさんが仕上げてくれた衣装がものすごく忠実に仕上げられていて、すごく気持ちが上がりました。種村さんのイラストがあったから、ミュージックビデオを撮る楽曲が「ダーリンダンス」に決まったところもあります。

──衣装の影響でMVにする曲が決まることもあるんですね。

私も初めて経験しました。この衣装だったら絶対に「ダーリンダンス」が合う確信があって。

──衣装やセットの作り込みもすごいですが、動画の作り方がTikTok的というか。倍速とリピートを多用した今風の映像になっているのも見どころだと思います。

監督さんがすごく流行に敏感な方で、こういう手法を提案してくださったんです。撮影はけっこう大変で、倍速になることがわかっていても、単にゆっくり動くだけだと“チャカチャカした感じ”にならないんですよ。それが頭では理解しているんですけど、体で表現するのがけっこう難しくて。

──MVには別のパターンの衣装も着ています。これはどういう設定のもと用意されたんでしょうか?

言語化するなら「地雷系女子」みたいな感じだと思います。「地雷」という概念は私の学生時代にはなかった言葉だから、感性の若い監督さんが「量産型っぽい地雷系の衣装も入れてみましょう」と提案してくれたんです。「地雷系」と聞くとちょっとよくないイメージを持ってしまう方もいるかもしれないんですが、私の解釈では「メンヘラ」とか「病んでる」とかではなくて、単に推しがすごい好きでその愛情表現が一途すぎるだけなんです。だからMV撮影の際には監督さんに「ピンクの衣装とダークな衣装で、あまり“陰と陽”みたいな強調をしないでほしい」とお願いしました。共演相手として登場するオオカミさんもめっちゃかわいいし、全体的に明るい仕上がりになったと思います。