MVの女の子にキャスティングされた気持ちで
──ここからは楽曲についても個別にお話を聞かせてください。まず1曲目の「林檎売りの泡沫少女」はゆっけ(黒髪ストロングP)さんのボカロ曲です。これは本作のリード曲にもなってますね。
この曲は単純に聴いた回数がすごく多かったのと、リスナーの頃から「自分ならこう歌いたい」というイメージがあったので選びました。曲の中で物語が進んでいくところは戯曲やミュージカルっぽくて、そういったフィールドに片足を突っ込んでる身としてもイントロデュースしやすい曲かなと思いまして。
──どんなイメージで歌われたのでしょうか。
オリジナル版の動画にはアニメーションのミュージックビデオが付いてるんですけど、その主人公の女の子の気持ちになって、アフレコをするような感覚で歌いました。なのでブックレットのビジュアルでは実際にその女の子に似せた感じで撮影してて、私がその女の子役としてキャスティングされたミュージカルを作るような気持ちでしたね。そこは今まで自分が勉強してきたことも生かせたらと思いまして。
──先ほど選曲のお話で「自分の思い出に紐付く楽曲を選んだ」とおっしゃってましたけど、それはどの曲になりますか?
「てのひらワンダーランド」と「アイシテ」はそうですね。「てのひらワンダーランド」は病んでるときに聴くと傷に貼る絆創膏のように自分を助けてくれる曲なんです。歌詞の内容は暗いんですけど、活字として読まなければ意外とスーッと聴けるので、リピートして聴いてると自分を外界から切り離してくれる感じがして。弱ってるときに繰り返し聴いた曲ですね。
──この曲は地声と裏声の間みたいな繊細な歌い方が魅力ですが、どのように自分の歌声をディレクションしましたか?
実は最初に録った曲が「てのひらワンダーランド」なんです。具体的には自分と同じ聴き方をしてほしかったので、“救護しながら痛い部分に寄り添える声質”を意識しました。音が上がるところは倍音を生かしたかったので、そこの声の抜き加減にこだわって。それとこの曲はほぼ全編にわたってハモリがあるんですけど、ボカロの原曲を聴きながらなぞるように歌ったので、いい意味での無機質感は入れられたと思います。
「オールジャンルお化け」と言われたい
──もう1曲の「アイシテ」はどんな思い出と紐付いてるのでしょうか。
「あれ? あの人のこと好きかも……」って思ったときにこの曲を聴いて自分の背中を押す、みたいな聴き方をしてました。恋愛にはそれぐらい一直線になりたいときがあると言うか、猪突猛進になってる自分を好きになると言うか。暴走しがちな女子に聴いてもらって、頭の中を桃色にしてほしい曲になっています。なのでこの曲は甘い声質にしてて、恋に撃沈していく歌詞のところは自暴自棄な感じに歌いました。
──今作は神田さんがいろんな歌い方に挑戦されてるのも魅力の1つですが、歌い方的にチャレンジした曲を挙げるとしたら?
「シンクロサイクロトロン・スピリチュアライザー。」ですね。この曲はオリジナル版の歌が、音をあえて外してるような感じで。でもその微妙に低い音にズラして歌ってる感じって、オシャレなんですよ。歌うときはピッチをよくするよりもいかに上手に外すかを意識しました。オシャレに音を外す技を会得した気がします(笑)。
──確かにウイスパーボイスっぽい歌い方が新鮮で、個人的にもグッときました。それとギガさんとれをるさんによるダンストラック「LUVORATORRRRRY!」ではラップもされてて、これも今までの神田さんにはない試みだったのでは?
リスナーとして好きな曲ではあったんですけど、まさか自分で歌う日が来るとは思ってなかったので新鮮でした。今までいわゆるラップと呼ばれる領域に踏み込んだことはなかったので、みんながガッカリしたらどうしようと思って(笑)。苦手なことに挑戦する心持ちだったから、レコーディングのときもスタッフのみんなにスタジオから出ていってもらったくらいなんです。でも、録り終わったものを聴いてもらったら皆さんすんなりと受け入れられたみたいで、レーベルの方に「逆に何が苦手なんですか?」って言われたのをすごく覚えてて、これは生涯残る誉め言葉ですね(笑)。
──でも実際にこのアルバムを聴く中で、苦手なタイプの曲はないんじゃないかと思いました。
そんなことはないんですけど「オールジャンルお化け」と言われたいです(笑)。このラップも苦戦した感じではなくて、むしろ声色を重ねていく企みをいっぱい盛り込みました。
- 神田沙也加「MUSICALOID #38」
- 2018年3月7日発売 / EXIT TUNES
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此方乃(コチラノ)サヤ盤 [CD+DVD]
3240円 / QWCE-00674 -
彼方乃(アチラノ)サヤ盤 [CD]
2700円 / QWCE-00675
- CD収録曲
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- 林檎売りの泡沫少女[作詞・作曲:ゆっけ]
- SECRET DVD[作詞・作曲:みきとP]
- てのひらワンダーランド[作詞・作曲:ササノマリイ]
- 路地裏ユニバース[作詞・作曲:papiyon]
- 指切り[作詞・作曲:すこっぷ]
- シンクロサイクロトロン・スピリチュアライザー。[作詞・作曲:砂粒]
- シャルル[作詞・作曲:バルーン]
- kiss[作詞・作曲:みきーの(みきとP、keeno)]
- アイシテ[作詞・作曲:とあ]
- 潜水[作詞・作曲:青屋夏生]
- LUVORATORRRRRY![作詞:れをる / 作曲:れをる、ギガ]
- 「Crazy ∞ nighT」(w / 速水奨、江口拓也、新田恵海)[作詞・作曲:ひとしずく×やま△]
- 此方乃(コチラノ)サヤ盤DVD収録内容
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- 「林檎売りの泡沫少女」MUSIC VIDEO (another version)
- MUSICALOID #38 Making Clip
- 神田沙也加(カンダサヤカ)
- 舞台を中心に女優としてのキャリアを積み、多数のミュージカルに出演。2014年3月公開のディズニー映画「アナと雪の女王」日本語吹替版ではアナ役を担当し、大ヒットを記録。同作で第9回声優アワード主演女優賞を受賞した。2014年4月からはユニット・TRUSTRICKの一員としてアーティスト活動を本格化させる。その後3枚のアルバムをリリースし、2016年12月の東京・中野サンプラザホールでのライブをもってTRUSTRICKとしての活動を休止した。2018年2月、ソロ名義でボカロ曲のカバー集「MUSICALOID #38」を発表する。