神田沙也加のボカロカバーアルバム「MUSICALOID #38」(ミュージカロイドナンバーサヤ)が3月7日にリリースされる。
以前からVocaloid曲のファンであることを公言していた神田。全曲ボカロ曲のカバーで構成される「MUSICALOID #38」は、神田自身が選曲およびボーカルディレクションを行った意欲作だ。音楽ナタリーでは神田にインタビューを実施し、自身の“ボカロ愛”や「新人の歌い手としてデビューした気持ち」になってレコーディングしたという今作の制作の裏側などを語ってもらった。
取材・文 / 北野創
ガチで選んだ12曲
──神田さんはご自身がボカロ曲のファンであることを公言していますが、今回はどういった経緯でボカロ曲のカバー集をリリースすることになったのでしょうか?
2016年にTRUSTRICKの活動休止を発表して間もなく、いろんなところからゲストボーカルのお誘いをいただいたんですけど、その中でEXIT TUNESさんからアルバム制作のご提案をいただいたんです。私は普段からボカロの曲を好んで聴いてまして、だからこそボカロに関するお仕事には中途半端な形では関わるべきではないと思ってたんです。今回の「MUSICALOID #38」は、私がガチで曲を選ばせていただけるということだったので、こだわって制作できるのであればぜひ、ということでお引き受けしました。EXIT TUNESさんのコンピレーションアルバムでボカロ曲を聴いていたこともあって、お話をいただいたときはすごくうれしかったです。
──そもそも神田さんがボカロ曲を聴くようになったきっかけは?
聴き始めたのはたぶん7、8年ぐらい前なんですけど、私は「初音ミク -Project DIVA-」(ボカロ曲を使った音楽ゲーム)が好きで、アーケード版が出た当時は夜な夜なゲーセンに行って遊んでた人だったんですよ。ほかにもガゼル(やなぎなぎ)さんの曲を聴いたり、ネットサーフィンで動画再生数の多いものから順に聴いたりしてました。その中でもきっかけになった曲を1つ挙げるなら、supercellさんの「メルト」ですね。
──では昨年のクリスマスイブに公開されたryo (supercell) × やなぎなぎ「メルト 10th Anniversary Mix」には特別な思いを抱いたのでは?
かなり感慨深かったです。でもボカロ曲の投稿とか“歌ってみた”というのはアマチュアの方でも参加できるコンテンツなので、たとえ曲に拙さみたいな部分があったとしても、それがよさになるものだと思うんです。「Anniversary Mix」はもちろん完成されたものになってていいんですけど、「あの日聴いた私の『メルト』はそれで正解だった」という気持ちもあって。そういう思い入れがそのときそのときで残ってるものなんだな、とも思いました。
神田沙也加、新人の歌い手に
──アルバム収録曲の選曲はどのような基準で選ばれたのですか?
シンプルに私が繰り返し聴いてたものを中心に決めたんですけど、音楽ってそれを聴いていたときに戻るような力があると思っていて。例えば、仕事場に向かうときによく聴いてた曲とか、恋愛に失敗したときに聴いてた曲とかは、それを耳にするとその頃の気持ちや色をビビッドに思い出すわけですよ。なので、自分の経験と結び付きが深かったり、思い出に残ってる曲が多くなりました。
──収録曲の並びを見ると、人気曲と言うよりは“渋い楽曲”が多く選ばれてる印象もあります。
それはぜひ貫き通したかったところですね。こういう企画ものの場合はやらされてる感があると、本当に好きな人が見たら萎えてしまうと思うんです。なのでそこはちゃんと私が好きでやってることを選曲でも証明したかったんです。「(動画の再生数が)伸びてるか伸びてないかじゃないんだよ!」みたいな(笑)。
──レコーディングに関してはご自身でボーカルディレクションを行ったとのことですが、歌手としてこだわりたい部分だったのでしょうか?
今回選んだ曲の中には、すでに“歌ってみた”動画が多く上げられてるものもあるんですけど、そういう曲って“二次創作としての正解”みたいなものができあがってる気がしてて。でも私がカバーをするからにはそこに「私が歌う意味」をちゃんと入れたかったし、「この曲のこういう形はどうですか?」ということを提案したかったんです。であれば、私の声質を一番知ってる自分がディレクションするのが早いと思って、最初にレーベルさんにお願いしたんです。初めて歌い手になるわけですから、新人の歌い手として個性を出してアプローチしていかなくてはと思って。
──すでに歌手としてキャリアのある神田さんが、自分のことを新人の歌い手と認識してるのは面白いですね。
「期待の新人」ってタグ付けされたいくらいですから(笑)。
──そこは今までの活動とは別という意識が自分の中にあるのですか?
もう全然別ですね。今回は神田沙也加としてアルバムを出すという意識はなくて、歌い手としてデビューさせていただくというのが近いです。
──アルバムタイトル「MUSICALOID #38」にある「#38」は、神田さんを表す言葉なんですよね?
そうなんです。私、昔からVocaloidのソフトウェアになるのが夢なんですけど、今回はせっかくの機会なのでイラストレーターの花邑まい先生にお願いしてキャラクターのビジュアルイメージを描いていただきまして。その子に「38」という名前を付けたんです。
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MVの女の子にキャスティングされた気持ちで
- 神田沙也加「MUSICALOID #38」
- 2018年3月7日発売 / EXIT TUNES
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此方乃(コチラノ)サヤ盤 [CD+DVD]
3240円 / QWCE-00674 -
彼方乃(アチラノ)サヤ盤 [CD]
2700円 / QWCE-00675
- CD収録曲
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- 林檎売りの泡沫少女[作詞・作曲:ゆっけ]
- SECRET DVD[作詞・作曲:みきとP]
- てのひらワンダーランド[作詞・作曲:ササノマリイ]
- 路地裏ユニバース[作詞・作曲:papiyon]
- 指切り[作詞・作曲:すこっぷ]
- シンクロサイクロトロン・スピリチュアライザー。[作詞・作曲:砂粒]
- シャルル[作詞・作曲:バルーン]
- kiss[作詞・作曲:みきーの(みきとP、keeno)]
- アイシテ[作詞・作曲:とあ]
- 潜水[作詞・作曲:青屋夏生]
- LUVORATORRRRRY![作詞:れをる / 作曲:れをる、ギガ]
- 「Crazy ∞ nighT」(w / 速水奨、江口拓也、新田恵海)[作詞・作曲:ひとしずく×やま△]
- 此方乃(コチラノ)サヤ盤DVD収録内容
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- 「林檎売りの泡沫少女」MUSIC VIDEO (another version)
- MUSICALOID #38 Making Clip
- 神田沙也加(カンダサヤカ)
- 舞台を中心に女優としてのキャリアを積み、多数のミュージカルに出演。2014年3月公開のディズニー映画「アナと雪の女王」日本語吹替版ではアナ役を担当し、大ヒットを記録。同作で第9回声優アワード主演女優賞を受賞した。2014年4月からはユニット・TRUSTRICKの一員としてアーティスト活動を本格化させる。その後3枚のアルバムをリリースし、2016年12月の東京・中野サンプラザホールでのライブをもってTRUSTRICKとしての活動を休止した。2018年2月、ソロ名義でボカロ曲のカバー集「MUSICALOID #38」を発表する。