ずっと隣で鮪を見ていた身としては、心にくるものがあった
──古賀さんは、先ほど歌詞をギターで表現されたとおっしゃっていましたが、特に感情を込めた曲、歌詞を挙げるとすると?
古賀 ギターソロでいうと「alone」にかなり感情を込めたんですけど、歌詞としては「いないいないばあ」の「追いかけてしまいそうだ」が、ずっと隣で鮪を見ていた身としては、心に来るものがあって。鮪はこういう気持ちやったんやろうなと感じながら弾いたので、歌詞とリンクしている、素直でダイレクトなギターになったと思っています。
──谷口さんが「いないいないばあ」に込めた心情というものは、どんなものなのでしょう?
谷口 うーん……悲哀の歌ではありますけれど、もう会えない人がいる世界を歌にしないといけなかったというか。どうしても自分の中で大切な人を失ったという事実は、過去にはできなくて。過去にしたくもないし、歌にすることが、僕のできる唯一のことだったので。「いないいないばあ」以外の曲たちもそうなんですけど。「いないいないばあ」は、そうですね……目を閉じて、また開けても、世界は変わっていないという。もう一度目を開いたら、大切な人に会えたらいいのにな。でも、もう会えない。その世界で懸命に生きていくという覚悟の歌ですね。
──なるほど。悲哀の歌だけど「いないいないばあ」というチャーミングなタイトルで、楽しい曲調で。ほかには「天国地獄」は怒りを表現しながらも踊れる楽曲になっていたり。このあたりからは、まさに、先ほどのバネの力が感じられると思ったんですよね。
谷口 そうですね。僕の経験の中には、もちろん幸せなこともたくさんあって。それが「いないいないばあ」みたいな曲調を生み出してくれたと思いますね。楽しかった時間を忘れさせないように、噛み締めるように。だから、バネの力が生まれたのかなと思います。
──歌詞でいうと、1曲目の「Re:Pray」(昨年10月リリースのシングル曲)の「昨日まで生きていた命だって連れていくよ」というフレーズからして、こういうところにも目を向けてくれるアルバムなんだなとはっきりわかりますね。
谷口 向き合うべきところに向き合わないと、大切な人に正直でいないと、バンドとして説得力がないというか。そこに向き合うのはつらさもあるけれど、自分にはやるべきことがある。そういう部分を逃さずに曲にしていく。その覚悟は「Re:Pray」を世に出した時点で決めたんです。僕自身が真っ暗闇を経験したことで、今までだったら見えなかったものが見えるようになって。世の中には、毎日を当たり前のように生きられない人たちがいて、当たり前のように笑うことができない人たちがいる。自分もその1人だったし。そういう人が、この世界にどれだけいるんだろうというのは、考えざるを得なくって。僕はこういう経験をした以上、そういった人たちにこれから出会っていかなければいけないと思っています。だから、自分の人生をあきらめかけている人とか、どうしていいかわからない人にも、ちゃんとスポットライトが当たるようにやっていきたいなって。そこが、すごく変わったところですね。
──そして、アルバムのほとんどの楽曲が“君”に宛てられていますよね。
谷口 そうですね。“君”という存在が、名前も顔も知らないあなたという存在になりえる。今までみたいに「ファンに向けたメッセージです」という曲ばかりではないけれど、誰かにとっては特別な音楽になると感じているので。例えば「ひかり」には「君を歌に刻む」という歌詞を入れていて、この“君”は最初は特定の1人だったけれど、曲が完成してみれば、“君”はリスナーになっていたし。僕が使う“君”という言葉の可能性は、どんどん広がっていくものですね。
生きたいから生きてるんだなって、歌を通して教えてもらった
──そして、ここまで話してきた生きることも死ぬことも、踊ることも、“君”への思いも、KANA-BOONのバネも、すべてが集約されているのが、最終曲の「メリーゴーランド」だと思っています。これは、いつ頃できたものなのでしょうか?
谷口 「HOPE」から作り出して、「メリーゴーランド」は3曲目ぐらいですかね。自分はこうして曲を作れるんだということ、それなら自分にはまだ生きる理由があるんだということを実感し始めたタイミングだと思うので、その力強さが含まれている曲だと思います。
──堰を切ったように放たれる言葉と、疾走するビートと、豊かなメロディが混ざり合って躍動していくという。まさに、先ほど小泉さんがおっしゃった、自由な表現が生かされている楽曲でもあると思います。
小泉 僕自身も鼓舞された楽曲というか。ここで感じた僕の気持ちを、演奏でさらに感じてほしいなと思って。「メリーゴーランド」はこの前のツアーでも披露しましたけど、その中でこのバンドが持っているパワーを感じて。この曲をやれる幸せも感じましたね。
──古賀さんは、この楽曲をどのように受け止めていますか?
古賀 最初は、Aメロめっちゃ早口やなって思って(笑)。
谷口 はははは。
古賀 歌詞を読んでいくと、日々を過ごしていると絶対につらいこと、死にたくなることがあるけど、そこでもう1回がんばってみないかと後押しされるようなイメージがあって。死んでしまうことをうらやむ瞬間ってあるんですよね。ラクになれるのかな、とか。そういうときに、がんばって生きろよって背中を押されるなと感じました。
──「生きることはつらいものです 死ぬことすら眩しく見える それでも日々にしがみついて生きよう 光れ 光れ」と。
古賀 そう、そこですね。
──「メリーゴーランド」のラストにつづられたこの言葉、よく歌えたなと思えるフレーズです。最後にまた目を覚まされる感覚になります。
谷口 生きること、死ぬことに関してって、そうたやすく書けるものではないし、そう簡単に触れていいものではないと思っていて。人生を左右する、すごくデリケートなものですからね。ミュージシャンとしてそこに踏み込むって、ひとつ覚悟がいると思うんです。僕は、その覚悟が決まっていたので。同じように生と死について感じている人も絶対にいると思うし。やっぱり、死んでほしくはないですからね。生きていてほしい。この曲のレコーディングで、この最後のひと節を歌い終えたときに、すごくすっきりしたというか。死に抱く希望もあるんですけど、やっぱり自分は心のどこかで生きたいと思っている。「メリーゴーランド」ができる前までは、生きなければという責務に駆られていたんですけれど、「メリーゴーランド」を歌い切ってからは、生きたいから生きてるんだなって、歌を通して教えてもらった感覚があって。だから、本当の意味での決意みたいなものは「メリーゴーランド」にあるかなと思います。だからこそ、アルバムの最後に持ってきたんです。
──生きるための道しるべのような楽曲ですけど、とはいえ、曲調的には普段フランクに聴けるような楽しさもあるというのは、この楽曲に限らず、アルバムを通して言えることですよね。
谷口 デリケートだから触れづらくて重いテーマに感じてしまうだけで、僕たちの身の回りに、日常的に生と死ってあるから。だから、もちろん重く受け止めてほしくはないし、楽曲を楽しんでほしい。楽しんでもらえる所以の1つとしては、レコーディングが盛り上がったんですね。全員が楽しく、やり甲斐を感じながら、笑いながらできた。その音がパッケージされているからじゃないのかな。音が弾んでいるから、決してシリアスなものにはなっていないし、楽しんでもらえるものになっていて。そこも発見でしたね。僕たちのテンション1つで、こんなにアウトプットする音楽が変わってくるんだなって。
──小泉さんと古賀さんもレコーディングは楽しかったですか?
小泉 今までのレコーディングで一番楽しかったですね。僕は今までレコーディングに苦手意識があったんですが、今回はレコーディングしているというより、楽しく音楽を鳴らしながら録っているような感覚だったので。だから、音がすごく生きている。それが、今までのレコーディングとは違いましたね。
古賀 僕は楽しかったんかな?(笑) こいちゃんとは別で、1人で作業して、最後に鮪にチェックしてもらうような形だったんですけど。とにかく鮪が命を懸けて作り出した曲や歌詞を伝えなきゃって気持ちでいっぱいで、そこに全カロリーを注いでいたので。もちろん「マイステージ」や「Dance to beat」みたいにサウンドが楽しい曲は楽しんでやったんですけど、魂を込めて演奏したというのがでかいですね。こいちゃんが楽しんでやってたから、バランスがよかったのかな。
谷口 楽しむこいちゃんと。
古賀 魂を削っている俺(笑)。
──その真ん中にしっかり谷口さんの歌があって。そのバランスがいいから、聴きやすいのかもしれない。バンドならではですね。
谷口 面白いですね。
──真摯に音楽や命に向き合いつつ、それすら楽しんでいるKANA-BOONを、一番感じられるのはライブだと思います。4月の東阪ワンマンライブと5月から始まるツアーも楽しみですね。
谷口 今、ライブがすごくよくって。今までは、KANA-BOONの役割をまっとうするライブをやってきたと思うんですね。でも、そこから解き放たれて、自由になったというか、楽しんでやっている僕たちを観て楽しんでもらおうというモードに舵を全振りしていて。この形でやっていくのが最高にいいなって、来年メジャーデビュー10周年ですけど、ようやく見つかりました。長い道のりでしたけど、ここからの旅路がすごく楽しみになった。今までよりもライブが充実して、なおかつ僕自身が人とつながっていくことに、以前よりも重きを置くようになったから。これからライブはますます重要になると思います。次の作品とか、ライブをモチーフにした曲も絶対に出てくるやろうし。ずっとつながってつながって、連鎖していく気がしていますね。
ライブ情報
KANA-BOON presents「Honey & Darling」-Tokyo Honey, Osaka Darling-
- 2022年4月15日(金)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
- 2022年4月23日(土)大阪府 NHK大阪ホール
ツアー情報
KANA-BOON LIVE TOUR 2022 Honey & Darling
- 2022年5月26日(木)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2022年5月27日(金)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
- 2022年5月29日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2022年6月4日(土)福岡県 DRUM LOGOS
- 2022年6月5日(日)長崎県 DRUM Be-7
- 2022年6月7日(火)広島県 LIVE VANQUISH
- 2022年6月11日(土)兵庫県 神戸VARIT.
- 2022年6月12日(日)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
- 2022年6月17日(金)神奈川県 Yokohama Bay Hall
- 2022年6月19日(日)山口県 周南RISING HALL
- 2022年6月22日(水)静岡県 SOUND SHOWER ark
- 2022年6月25日(土)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
- 2022年6月27日(月)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2022年6月30日(木)茨城県 mito LIGHT HOUSE
- 2022年7月1日(金)宮城県 Rensa
- 2022年7月5日(火)京都府 KYOTO MUSE
- 2022年7月6日(水)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2022年7月10日(日)愛媛県 松山サロンキティ
- 2022年7月12日(火)大阪府 Shangri-La
- 2022年7月13日(水)大阪府 Shangri-La
プロフィール
KANA-BOON(カナブーン)
高校の同級生だった谷口鮪(Vo, G)、古賀隼斗(G, Cho)、小泉貴裕(Dr)を中心に結成され、地元大阪を中心に活動を開始。2012年に参加した「キューン20イヤーズオーディション」で4000組の中から見事優勝を射止め、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのライブのオープニングアクトを務める。2013年4月には活動の拠点を東京に移し、同年9月にシングル「盛者必衰の理、お断り」でメジャーデビューを果たした。2018年3月よりメジャーデビュー5周年企画として、新作のリリースやライブイベントの開催を5シーズンにわたり展開するプロジェクト「KANA-BOONのGO!GO!5周年!」を展開。2020年3月にシングル「スターマーカー」とベストアルバム「KANA-BOON THE BEST」をリリースした。2020年10月より谷口が療養のため活動を一時休止。2021年3月に活動再開を発表し、4月に東京・Zepp Tokyoで復帰ワンマンライブ「Re:PLAY」を行った。10月にシングル「Re:Pray」をリリースし、全国ツアー「KANA-BOON Re:PLAY TOUR 2021-2022」を開催。2022年3月にアルバム「Honey & Darling」を発表し、4月に東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)と大阪・NHK大阪ホールでワンマンライブ「KANA-BOON presents『Honey & Darling』-Tokyo Honey, Osaka Darling-」を行う。さらに5月からは19都市20公演におよぶ全国ツアー「KANA-BOON LIVE TOUR 2022 Honey & Darling」も開催予定。
KANA-BOON official (@_kanaboon) | Twitter