音楽ナタリー Power Push - KAN

“KAN流のかけ算”で生んだ6年ぶりのアルバム

穴埋め問題形式で馬場俊英に歌詞を埋めてもらう

──「精神的にはこのアルバムのタイトル曲」とセルフライナーノーツに書かれていた「ロックンロールに絆(ほだ)されて」でコラボした馬場俊英さんとのエピソードを聞かせてください。

KAN

2012年に馬場くんの作品(シングル「馬場俊英EP3~弱い虫」収録の「ありそでなさそ」)のレコーディングにゲストボーカルとして呼んでもらったのもあって、「次は僕のところで何かやろうね」という話は漠然とあったんです。曲を作っているうちに「これは馬場くんだな」と思って参加してもらいました。

──歌詞は穴埋め問題形式で馬場さんと共作したものだとお聞きしました。この「穴埋め問題形式」とは?

僕がまず全体の歌詞を作って、いくつかのブロックや行を空欄にした状態で馬場くんに送って、「前後の流れをよく読んで空欄を埋めなさい」っていうやり方をしたんです。

──国語のテストみたいですね。

僕が全部書こうと思えばできたんだけど、一緒にやる以上、馬場くんの言葉が必要だな、と。僕には出てこない言葉や表現が馬場くんにはいっぱいありますから。

──歌詞には「人生気がつきゃ残りはチョイ」と、年齢を重ねてきたからこその言葉も入っています。最近再発されたDVD「東京ライブ」のリーフレットでは、当時30歳のKANさんが「30歳という数字はロックンローラーとしてはまだ若輩者である」とメッセージを残していました。現在53歳のKANさんは今の年齢についてどう考えていますか?

「あと何年やれるんだろう?」っていうのが、自分の気持ちとは別のところであります。

──それは体力的なところですか? それとも精神的なところ?

気持ち的にはずっとやりたいんですけどね。ただ、身体がダメになったらしょうがないじゃないですか。その可能性がどんどん高くなっている感じがあります。あと20年……いや、10年もやっていない気がするんですよ(笑)。

──そんなことをおっしゃらないでください(笑)。

そういうことが「ロックンロールに絆されて」の歌詞にも出ています。

最近はPerfumeときゃりーちゃんしか聴いていない

──「6×9=53」のジャケット写真ではKANさんが珍しく和服を着ていらして、渋い男らしさが出ています。なぜ和服なのでしょうか?

アルバムのタイトルが「6×9=53」で、53歳のロックなわけじゃないですか。ただ、このタイトルだからといって、ビジュアルがロック方向に行ったら負けなんですよ。

──負けですか(笑)。

そうです。だから、全然違う方向にするべきだなと思って。昨年10月に大阪で「靱公園 MUSIC FESTA FM COCOLO ~風のハミング~」という、STARDUST REVUEの皆さんや馬場俊英くんと一緒にやっているライブがあって。そこにシンガーソングライターのKくんが着物で来たんですよ。「着物いいなあー。よし、着物だな!」というきっかけがありました。

──これまでウエディングドレスやアメフトのユニフォームなど、あらゆる衣装をライブで着てきたKANさんの目に留まったのが今回は着物だったと。

ライブでは、動くことを考えると着物はなかなか難しいんです。写真だったらいいな、と思って。よく見ると、アーティスト写真よりもアルバムのジャケット写真のほうが、よりおじいさんになっているんですよ。「6×9=53」なので、アーティスト写真が53歳で、ジャケット写真が69歳というイメージです。

──なるほど。ちなみにそんなKANさんが現在、若手の中で気になっているアーティストはいますか?

KAN

最近はPerfumeときゃりー(ぱみゅぱみゅ)ちゃんしか聴いていないです。

──その影響は「6×9=53」の収録曲「ブログ! ブログ! ブログ!」で感じました。「カンチガイもハナハダしい私の人生」に収録されている「REGIKOSTAR ~レジ子スターの刺激」に続いて、中田ヤスタカさんの作風を意識していますね。

そうそう。Perfumeときゃりーちゃんの曲はどんどん新しいものがリリースされるから飽きることもなくずっと聴いていて。合間合間に知り合いのアーティストの曲を聴いている感じです。

ニューアルバム「6×9=53」/ 2016年2月3日発売 / [CD+DVD] 3240円 / UP-FRONT WORKS / EPCE-7183~4
「6×9=53」
CD収録曲
  1. Listen to the Music ~Deco☆Version~
  2. 胸の谷間
    [with TRICERATOPS / Cho:菅原龍平]
  3. ポカポカの日曜日がいちばん寂しい
    [Duet with 佐藤竹善(SING LIKE TALKING)]
  4. 安息
    [作詞:桜井和寿(Mr.Children)]
  5. どんくさいほどコンサバ
    [G:根本要(STARDUST REVUE) / Cho:佐藤竹善(SING LIKE TALKING) / Piano:塩谷哲]
  6. scene
    [Dr:吉田佳史(TRICERATOPS)]
  7. ブログ! ブログ! ブログ!
  8. 桜ナイトフィーバー ~Album Version~
    [Special Guest Guitar Solo:和田唱(TRICERATOPS)]
  9. 寝てる間のLove Song
  10. ロックンロールに絆されて
    [Duet with 馬場俊英]
DVD収録内容
  • Recording Documentary【6×9=53が成り立つまで】
KAN(カン)

KAN

シンガーソングライター。1962年、福岡県生まれ。1987年に「テレビの中に」でデビュー。1990年のシングル「愛は勝つ」が200万枚を超えるセールスを記録した。2002年に音楽留学のためパリに移住し、2004年に帰国。大の素数好きを公言しており、デビュー29周年の今年2016年を「KAN芸能生活29周年記念 特別感謝活動年」と銘打ち、精力的な活動プランを公表している。2016年2月、6年ぶり16枚目のオリジナルアルバム「6×9=53」をリリースした。