ナタリー PowerPush - KAN

もうすぐ50歳&25周年 独特な軽やかさの秘密に迫る

ロシアは根本的なシステムの違いが楽しい

──先程お話に出たロシアでの話をもう少し聞かせてもらえますか。

日本のカルチャーを紹介する「現代日本文化フェスティバル」というイベントに出演することになって。到着した翌々日がライブで後は休みだったので、ベラルーシっていう隣の国でゆっくり。僕はロシアが大好きで、今回が8回目なんですよ。

──そこまでロシアに惹かれる理由は、どのあたりにあるのでしょうか。

写真は2012年1月1日にリリースされるライブDVD「KAN LIVE TOUR 2001 Rock'n Roll 39」より。

ビリー・ジョエルがソ連時代の1987年に、モスクワと当時のレニングラードでやったライブがアルバムになって、それを聴いたときに「一体なんなんだろうな、ソ連っていうのは」と思ってたんですよ。その後に出たアルバムにも「レニングラード」って曲があって、それでなんかわかんないけど行ってみたくなって。でも当時はモスクワ行きの飛行機ってすごく高かったんですよ、ほかの国に比べて。それでなんとなく行けないままソ連が崩壊して「その前に行っときたかったな」と思いながら、結局初めて行ったのが1998年。まだ共産主義的な雰囲気がちゃんと残ってて、旅行先としてすごく楽しかったんです。日本はアメリカ式で成長したから、根本的な考え方が違うというか。例えば、笑顔でサービスしていい気分になってまた来てもらおうっていう発想がないんですよ。

──へえー(笑)。

その根本的なシステムの違いが旅行先としてすごく楽しくて、それからですね。1998年、2000年、2001年に行って、フランスに住んでた時期を挟んで、次が2006年。それで09年、10年ときて、今年2回(笑)。

──ものすごいペースですね(笑)。今のロシアでは、どういうカルチャーが盛り上がっているんでしょうか。

ヨーロッパでは10年ぐらい前から、アニメとかゲームとか、いわゆるアキバ系文化のファンがたくさんいて、フランスやドイツでは毎年大規模なイベントがあって。それがロシアにも波及したんだと思います。今回のイベントも今年で3回目だそうで、メインはやはりアキバ系の文化ですね。あとは生け花とか、幅広くさまざまなジャパンカルチャーのファンが意外といるんですよ。

弾き語りを始めてフットワークが軽くなった

──KANさんはどのようなきっかけで参加されたのでしょうか。

少し前に、世界でアキバ系ポップカルチャーのイベントをプロデュースをしている人にたまたま会いまして。別の話で来てたんでしょうけど「ロシアや中国なら別の意味で専門がいます」って僕のところに話がきて(笑)。その人が「来てくれるんだったらライブの時間とりますのでぜひ!」というので「ロシア? もちろん行きます」と。

──ロシアのお客さんの反応はどうでしたか?

ロシア語の先生に訳してもらったMCを練習してちゃんとやりましたので、こちらの友好意識は十分に伝わったと思います(笑)。歌は日本語ですけど、お客さんは日本の文化に興味を持ってる人たちだから、特に抵抗なく楽しんでもらえたみたいですけどね。着いた翌々日にライブ本番で、次の日から僕はただの旅行に(笑)。

──プライベートな部分も含めて、今回の一番の収穫は?

それはもう、大好きなモスクワでライブをやれたことですね。たまたまそういう巡り合わせがあって、実際にライブがやれたってだけでも僕としては十分な収穫でした。

──最近はジョン・B(ウルフルズ)さん、菅原龍平(ex. the autumn stone、Milco)さん、ヨースケ@HOMEさんとのバンド「Cabrells(カブレルズ)」があったり、夏フェスへの出演があったり、さらには先程話題に挙がったとおり、三谷幸喜さんの新作映画「ステキな金縛り」への俳優としての出演もあったりと、かなりアグレッシブに活動されてますよね。

ええ。ここんとこはいろいろと。フランスから帰国した後、弾き語りのツアーを始めたのがよかったんだなと今となっては思います。バンド編成だとブッキングするほうも呼びづらいだろうし、行くほうもフットワークがね。とりあえずピアノだけあればやれるというスタンスができたのはすごく大きいと思います。フェスみたいなオムニバスイベントだったり、よそのお客さんがいるところにはできるだけ行こうと思ってます。

──オムニバスイベントは、ワンマンライブとはまた違う楽しみがあるのでしょうか。

やっぱり「名前はなんとなく知ってるけど聴いたことない」という人の前で演奏するのは、とても意味があると思いますんで。そんな中で何人かでも「いいんだ、意外と」って感じてくれたらうれしいですし。

ニューシングル「Listen to the Music」 / 2011年12月7日発売 / 1050円(税込) / UP-FRONT WORKS / EPCE-5829

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CD収録曲
  1. Listen to the Music
  2. Christmas Song
  3. Listen to the Music -instrumental-
  4. Christmas Song -instrumental-
KAN(かん)

1962年、福岡県生まれのシンガーソングライター。1987年にデビューし、1990年にリリースしたシングル「愛は勝つ」が大ヒット。200万枚を超えるセールスを記録し、1991年には日本レコード大賞も受賞する。2002年からパリに移住。帰国後の2006年にはアルバム「遥かなるまわり道の向こうで」をリリース。その他、今井美樹やSMAPなどへ楽曲提供。2010年3月には"芸能生活23周年"記念アルバム「カンチガイもハナハダしい私の人生」をリリース。2012年春のデビュー25周年を目前に、2011年12月7日にはニューシングル「Listen to the Music」を発表した。