ナタリー PowerPush - KAN
もうすぐ50歳&25周年 独特な軽やかさの秘密に迫る
タイトル付けたら1万円
──来年はデビュー25周年ということで、アルバムのほうにも期待が高まるのですが……。
アルバムは作ろうと思ってます。それが25周年のうちに出るかどうかはわかりませんけど(笑)。
──既に準備が始まっていたりするのでしょうか。
まだ具体的には始めてないですね。作ろうという気持ちがほんのりあるだけで(笑)。バンドツアーが終わったら、そこに取りかかろうかなと思ってます。
──「KAN BAND LIVE TOUR 2012【ある意味・逆に・ある反面】」ですね。ナタリーではツアー決定のニュースが出ると、毎回ツアータイトルの話でコメント欄が盛り上がるんですけど(笑)、今回はどういう流れでこのタイトルになったんですか?
これはもう、意味なんてないですよね(笑)。意味ないというか……ツアーのタイトルって大体まだリハーサルも始まらないうちに決めなきゃいけないんですよ。僕は「ライブアレンジ」って呼んでるんですけど、観る人は「寸劇」って言ってるものがあって(笑)、昔「次はこんなライブアレンジをやろう」と決めてタイトルを付けたのに、そのとおりに行かなかったことがあったんです。なのでそれ以降は、意味のあるタイトルは付けてないです。
──逆にタイトルに引っ張られてしまうこともあるのでは?
いや、引っ張られないようなタイトルを選びます。もちろん優秀なアーティストは、ちゃんと計画的にどういうアルバムを作ってそれがいつ出て、いつ頃にこういうコンサートを……と事前に組み立てられてるんでしょうけど。僕の場合は頭の中にあれこれあったとしても、リハーサルが終わるまでわかんないですから(笑)。ニュースでたまたま目にしたりラジオで聴いたときに一瞬「えっ? 何? いまなんつった?」って止まってもらえればいいかなと最近は思っています。
──そういう意味では大成功ですね。ニュースのタイトルだけで「え?」って反応がありますから(笑)。
弾き語りツアーでは自分の周りのクリエイティブな皆さんに募集をかけて付けてもらってるんですけど、次はちょっと、僕のオフィシャルサイト会員の皆さんから募集しようかなと。で、タイトル付けたら1万円とか(笑)。
50歳
──ちなみに今回のツアーは「40代最後のツアー」となるそうですが。
そのふれこみもあんまり意味ないんですけどね(笑)。だって内容も決まってないのに書くことないんですよ。でもそこはがんばって書かないといけないから。「もうそんな歳なんだ」っていう印象だけが残ると思うんですけど(笑)。
──「50歳」のプレッシャーってありますか?
いやもうね、歳を取ることに関しては全然ないですよ。全然ないというか、自分ではどうしようもないんですもん。「世の中のルール、1年365日で数えるっていうことを俺はやめた!」って宣言しない限りは、1年間寝てたってめちゃくちゃがんばったって歳は取るわけで。がんばってどうにか50にならないような活動をするったって無理ですから。あとは抗うとしたら……急にこの期に及んで年齢詐称する、ってぐらいでしょうね(笑)。でも今はWikipediaみたいなものがあるから、女の子ももう年齢詐称できないですよね。
──ネット上での噂話が一気に広がったりもしますからね。
かわいそうですよね。夢がないっていうか。それが嘘か本当かは、まあ同級生の人が書きこんだらそれで終わりですから。こんな時代だからこそ、急にサバを読む(笑)。どうしたんだろうあの人って。
──普通だったら50歳、しかも25周年というと、もっと身構えてしまいそうですけど、全然そんな感じではなさそうですね。僕も素直とは言えない人間なので、KANさんの歳の重ね方は非常に頼もしい道しるべなんですよ。
去年の23周年ライブをBSで番組にするにあたって、ゲストに出てくれた皆さんにインタビューした映像があったんですけど、Mr.Childrenの桜井(和寿)くんが「普通に20周年で盛り上がっている人より信用できる」って言ってたのが……意味わかんないなと思ったんですけど。逆に信用しちゃいけないだろう(笑)。
秦基博くんをこっち側に
──子供の頃に見ていた「50歳の大人」って、もっと堅くて真面目な感じがしませんでしたか? 自分では30歳ぐらいで自然と堅い大人になれるだろうと信じて生きてきたんですけど、40が近付いてきた今でもバカみたいなことしか考えられなくて……。
でもね、僕の作品を聴いてもらったりライブを観てもらったり、こうやって直接話を聞いてもらえれば「ああ、この人は相当ふざけてるんだ」ってわかってもらえるんですけど、僕を知らない人は、冗談ひとつも言わない人だと思ってる人が多いと思いますよ。そう思っている人に気を遣われるのも、ちょっと楽しいんですよね。
──あははは(笑)。
そこで無理して「俺って面白いでしょ?」ってやるのもちょっと違うんです。三谷幸喜監督がすごいなと思ったのは、僕は何もしてないのに「この人は相当ふざけてる」って見抜いちゃったんですよ。ほんの少し話しただけで。平井堅くんのイベントで僕と三谷さんがゲストだったんですけど、僕はその年のツアーの衣装だったキルトとバグパイプ姿で出てって。三谷さんに「それは?」って訊かれたので「平井くんの曲をプロデュースしたんで、プロデューサーっぽい格好を」って答えたら「なるほど」と。それでわかってくれたんでしょうね。
──それが映画「ステキな金縛り」へのオファーにつながったんですか?
多分そうですね。だって、そのときだけですもん。会ったのは。それで2年後に急に「映画出てください」って。本当にゆっくり話したこともないですし。
──においで嗅ぎ取ったわけですね。
嗅ぎ取ったんでしょうね。あの方は常に人を見ながら「この人が僕の作品に出たらこうなるんじゃないか」って常に考えてるんじゃないですかね。当初は映画出演はお断りをしようかと考えていましたけど、今はすごい作品に出させてもらえてよかったなと思っています。こんなふうに初対面で嗅ぎ取ってくれる人はそんなにいないんですよ。音楽以外のところに行くと。
──冗談言わない人だと思われてる場所に行くのは楽しそうですね。今回のシングルだって、こんな内容なのにこのジャケットで(笑)。
こないだロシアでライブをやったんですけど、そのときもこれ(ジャケットの学生服スタイル)だったんですよ。「最近これなんだ」って。
──最近はこれ(笑)。
女の子もあるでしょ。「最近はピンクで」って。「Listen to the Music」っていうポップなタイトルを引き立たせるために、僕自身は真っ黒でいた方がいい……っていう後付けの理由は一応あるんですよ(笑)。それに、リッケンバッカーを持つとちょっとジョン・レノンっぽいでしょ。2曲ともエレキギターは一瞬も入ってないんだけど(笑)。
──これだけキャリアのある人にここまで掻き回されたら、誰も太刀打ちできないですよ(笑)。
みんなそうすりゃいいのに。今、秦基博くんをこっち側に連れてきたいんですよね。秦くんがこんなになったら最強だと思いますよ。誰も勝てないと思う。彼は今5周年ですから、20年後ぐらいには鎧かぶって馬に乗って出てきても、お客さんはビクともしないような。そんな感じを夢見てますね、僕は。
CD収録曲
- Listen to the Music
- Christmas Song
- Listen to the Music -instrumental-
- Christmas Song -instrumental-
KAN(かん)
1962年、福岡県生まれのシンガーソングライター。1987年にデビューし、1990年にリリースしたシングル「愛は勝つ」が大ヒット。200万枚を超えるセールスを記録し、1991年には日本レコード大賞も受賞する。2002年からパリに移住。帰国後の2006年にはアルバム「遥かなるまわり道の向こうで」をリリース。その他、今井美樹やSMAPなどへ楽曲提供。2010年3月には“芸能生活23周年”記念アルバム「カンチガイもハナハダしい私の人生」をリリース。2012年春のデビュー25周年を目前に、2011年12月7日にはニューシングル「Listen to the Music」を発表した。