神山羊「CLOSET」インタビュー|クローゼットから多彩な音楽の世界へ導く、待望の1stフルアルバム (3/3)

いろんなものが混ざったときに自分のサウンドになっていく

──11曲目の「SHELTER」は軽快なテクノナンバーで、曲名も「閉じられた空間」という意味で、モチーフとしてクローゼットと共通するものがありますね。かつ、ここではシェルターをクラブに見立てている。

そうです。コロナ禍以降、クラブやライブハウスに行けなくなって、そういう場所で踊ったり歌ったりできなくなって、たぶんみんなそうだと思うんですけど、僕自身もそれにすごくストレスを感じているんです。だけど僕たちは楽曲を作り続けるし、その中に踊れる曲が存在したほうが絶対にいい。だから、今回はテクノというアプローチを取りましたけど、シンプルに踊れる曲を作りたいと思って作りました。

──踊れると同時に、やはりこの曲も、前半は四つ打ちだったのがサビ明けにいきなりトラップビートになったり。

そうそう(笑)。

──パートごとに切り分けたら同じ曲に聞こえないんじゃないかと思うのですが、先の「セブンティーン」もそうであったように、それらをシームレスにつなげる手つきも鮮やかですね。

ありがとうございます。僕としては、いろんなジャンルの魅力的なところを1つの楽曲に落とし込んでいけるのがポップスのよさというか、その自由度の高さがポップスの魅力だと思っていて。「SHELTER」でいえば、電気グルーヴ的なダンスミュージックをベースにしつつ、トラップのような現代的なEDMの要素もあり、なおかつK-POP的なノリもあるみたいな。そうやっていろんなものが混ざったときに自分のサウンドになっていくのかなって。

神山羊

──この「SHELTER」に限ったことではありませんが、シンセの音色がチープなのも神山さんの特徴なのかなと。

それはどの曲でもけっこう意図的にやっていて。シンセがリッチになっていくと、疎外感を覚える人もいる気がするんですよ。

──パリピ的な、ビッグルーム系のEDMは苦手な人もいるみたいな、そういう話ですか?

なんていうんですかね。「これ、俺は関係ねえや」ってなっちゃいません?(笑) たぶん自分がそうだからだと思うんですけど、なるべく初期装備みたいな音色を混ぜていくのが好きですね。

──先ほど話した「青い棘 -CLOSET ver.-」と「煙」と同様に、この「SHELTER」と次の曲「Laundry」(2020年9月発売の配信シングル)にも連続性を感じまして。というのも「SHELTER」は「踊ろうぜ」という曲で、「Laundry」は歌詞に「踊り疲れたら 眠ればいい」とあるように、踊ったあとの曲なので。

連続性という意味では、それも偶然ですね。曲を作っているときにはリンクは考えていないんですけど、アルバム全体の構成を考えるにあたって、それぞれの曲がリンクするように配置しています。

──僕の深読み損でしたね。

いやいや、ありがたいです。そういうふうに仕向けたところもあるので(笑)。

何をやってもクローゼットに戻ってきて、1人でいる時間が生まれる

──そしてアルバムの最後に収録されているのが、タイトルトラックの「CLOSET」ですね。

「CLOSET」は、楽曲制作のアプローチとしては誰かや何かのために作ったのではなく、自分の個人的な欲求に従って作ったので、すごくピュアな曲になっています。これは本当に、クローゼットの中にいる自分ですね。

──ご自身の欲求に従って作った曲が「CLOSET」になったのか、それとも「CLOSET」を作るにあたってご自身の欲求に従ったのか、どちらですか?

後者です。このアルバムを完成させるための「CLOSET」を作ろうと思って、ものすごい数の「CLOSET」を作りました。その中の1曲がこちらになります。

──ほかの「CLOSET」も聴いてみたいです。

もうね、本当にいい曲しかないですよ(笑)。「これ全部捨てるのか……」と思うともったいなくて。

──ストックしておかないんですか?

いやあ、ある目的で作った曲を、別の目的のために使うのがあんまり得意じゃないんですよね。少なくともそのままでは絶対に使えないので、ある程度は作り変えたりしないと。

──ちなみに数ある「CLOSET」の中から、この「CLOSET」を選んだ決め手は?

うーん……曲も歌詞も、一番リアルになったから。

──シンプルな理由ですね。

歌詞に関しては、さっきも軽く言ったんですけど、クローゼットの中で曲を作って、その楽曲ごとにいろんな世界に行くのが自分のスタイルだと思っていて。例えば「群青」だったら「空挺ドラゴンズ」というアニメのオープニングテーマなので、そのアニメを通して僕の楽曲を知ってくれる人がいたり、あるいは「群青」でロックのサウンドアプローチを選択することによって、そういうサウンドが好きな人に届いたり。そうすることによって、楽曲の向こうにいるまだ知らない人と握手して仲よくなりたいんですよ。だからたくさんある扉をどんどん開いていくというのが僕の音楽活動の根幹にあるんですけど、何をやってもまたクローゼットに戻ってきて、1人でいる孤独な時間が生まれる。そういうことを考えて書きましたね。

神山羊

一番自分らしい姿がこれです

──「CLOSET」のトラックに関しては、あまり装飾的ではないというか。特に平歌のパートは四つ打ちのキックの音が軸になっていて、「CLOSET」というアルバムコンセプトの原点となった「YELLOW」と相通じるものがあると思いました。

四つ打ちの音楽というか、ダンスミュージックが自分のルーツの1つとしてあるので、そこに軸足を置いている点はもちろん共通しています。キックとベースが鳴っていれば音楽として十分に成立すると僕は思っているし、そういうのが本当は一番自分らしいんじゃないかって。だから、削ぎ落としていった結果、自分に残っているものが「CLOSET」に反映されているという感じですね。と同時に、それはクローゼットの扉を開けるために、身に付けているものが何もない原初的な状態でもあって、そういう意味でも一番自分らしい姿がこれです。

──ただし、やはりサビはリズムパターンを変えて、まさにクローゼットを開け放つような開放感がありますね。

そうそう。サビでは、実はけっこうえげつない音が鳴っているので。

──そしてアウトロなしで、クローゼットを閉めるようにパタンと終わる。アルバムのクロージングとしてもとてもスマートですね。

「CLOSET」にはアウトロの必要性がなかったというか、アウトロを付けたら蛇足になる。僕としてもこれは完璧な終わり方だと思っていますね。でも、アルバムを逆から聴いてもらっても全然問題ない。そういうふうに作っています。

──ああ、それも面白そうですね。でも僕は、まずは曲順に沿って、例えば「SHELTER」から「Laundry」の流れを感じるのもいいと思います。しつこいですが。

「踊り疲れたら 眠ればいい」(笑)。

──このアルバムは既発曲でも、例えば「色香水」は80年代のサウンドに寄せるなどいろいろなことをやっていますが、並べてみるとちゃんと筋が通っていて、神山さんにとっても充実度の高い作品になったのではないかと。

「YELLOW」を作っている段階からこのアルバムの形を構想していて、タイアップとかもあったので微調整もしましたけど、思い描いていた以上のものが作れたという感覚があります。素直にうれしいですね。

──最初のほうで楽曲制作に対するスタンスの変化についてお聞きしましたが、今後もある意味でより内省的になっていくんでしょうかね? いや、「そんなのわかんねえよ」という話でもありますが。

どうなんでしょうね(笑)。まあ、少なくとも自分自身のポジショニングみたいなものは明確に自覚していて。繰り返しになりますけど、クローゼットの中で自分と向き合って、作品ないしは物語を作っていくというのが自分のスタイルであり、作ったものを届けることによって人とつながりたいという欲求を強く感じているので、そのために音楽を続けていくことは確かですね。

プロフィール

神山羊(カミヤマヨウ)

サウンドクリエイター&シンガーソングライター。「有機酸」名義で2014年に11月に初のVocaloid楽曲「退紅トレイン」をニコニコ動画に投稿し、キャリアをスタートさせる。自身の声によるセルフカバーがWeb上で話題を呼び大きく注目される中、2018年11月に神山羊名義では初の楽曲「YELLOW」をYouTubeに公開し、昨年12月に1億再生を記録する。「YELLOW」も収録した1stミニアルバム「しあわせなおとな」を2019年4月にプライベートレーベルe.w.eからリリースし、CDデビューを果たす。2020年3月、テレビアニメ「空挺ドラゴンズ」オープニングテーマのシングル「群青」でメジャーデビュー。2022年4月に1stフルアルバム「CLOSET」をリリースする。