神山羊「CLOSET」インタビュー|クローゼットから多彩な音楽の世界へ導く、待望の1stフルアルバム (2/3)

「うますぎるのはやめてください」

──ここからは新曲について伺っていきます。まずアルバムに先行して3月に配信リリースされたリードトラックの「セブンティーン」は、インディロック的なバンドサウンドとダンスミュージックのクロスオーバーで。例えば「群青」など、神山さんがこれまでやってきたことの延長にありつつ、ド直球にキャッチーな曲ですね。

「セブンティーン」は主に10代の若い人たちに届けることを想定していて。つまり17歳前後の、中学生とか高校生に響いてくれたらいいなと思って作った結果、こうなりました。歌詞に関しても、もちろん自分の10代を振り返っている部分もありますけど、同時に今の、コロナ時代の17歳が抱えている悩みとか苦しさというものを考えながら書いていきましたね。

──演奏では、ドラムでオカモトレイジ(OKAMOTO'S)さん、ベースでなかむらしょーこさんが参加しています。このうちなかむらさんは「生絲」(2ndシングル「色香水」カップリング曲)でもベースを弾いていましたね。

そうですそうです。「セブンティーン」は、僕がギターボーカルを務めるギターロックバンドみたいなニュアンスを大事にしたかったんですよ。その雰囲気を、レイジさんのドラムとしょーこさんのベースが引っ張ってくれたので、お二人にお願いして大正解でした。あと、僕は基本的にスタジオでは「うまい!」と「すごい!」しか言わないんですけど、この曲に関しては「うますぎるのはやめてください」とお願いしまして。

──17歳だから?

そう、10代らしい“青さ”が欲しかったんです。僕の中で「セブンティーン」は、アプローチとしては銀杏BOYZの楽曲のようなテンションを意識していて。つまり衝動みたいなものが伝わるようなサウンドメイクにしたくて、そういうディレクションをさせてもらいました。

──先ほど「ド直球にキャッチー」と言いましたが、一筋縄ではいかないところもあって。例えば2コーラス目でハードコアやラウドロックでいうビートダウン的なパートを設けていて、神山さんらしい緩急の付け方だと思いました。

「セブンティーン」は尺が2分台の短い曲なので、あんまり展開を多くするのはいかがなものかとも思ったんですよ。でも、最近のポップスの作りとしても、同じメロを繰り返さないほうが今のティーンの人たちにとって耳馴染みがいいんじゃないかなって。そういう考え方のもとで、耳への質感がまったく違うものを並べつつ、スムーズに聞かせられるような展開を目指しました。

神山羊

酔っ払って曲を作るのは危険だぞ

──曲順に沿うと、次の新曲は6曲目の「煙」になります。この「煙」は、5曲目の「青い棘 -CLOSET ver.-」とうっすら連続性があるように感じたんですよね。

本当ですか?

──単純に「青い棘 -CLOSET ver.-」の歌詞に「煙」というワードが出てくるのもありますが、R&Bな「青い棘 -CLOSET ver.-」からヒップホップな「煙」へのつなぎもスムーズで、かついずれもダウナーなムードなので。

なるほど。このアルバムの曲はすべて「CLOSET」というコンセプトで、つまり同じ目線で、でも違うアプローチで書いているだけなので、連続性とかは意識していませんでした。

──そうだったんですね。この「煙」は、先の「セブンティーン」とは対照的な、歌詞にもあるように“dope”な曲で。

「煙」は中毒性とか執着がテーマになっているんですけど、僕はある時期、曲を作るときにお酒をたくさん飲むようになっていて、要は酔っ払って曲を作っていたんですよ。酔っ払って作ると、目が覚めたら曲ができているんで最高なんですけど(笑)。

──(笑)。

でも、やっぱり体にはよくないというか、どんどん負担がかかってくるので「これは一長一短だぞ。危険だぞ」と。

──歌詞も、例えば「肺に残った絵の具が こびりついて剥がれないよ」など不快な言葉を選んでいて、ボーカルもめちゃくちゃ気怠そうですね。

酩酊したような、千鳥足なニュアンスをビート感やボーカルでも出したくて。おっしゃる通りヒップホップをやりたかったんですけど、僕はラッパーじゃない人がラップするのはあんまり好きじゃないから、ヒップホップの匂いがするポップスを自分が作るとしたら、こうかなって。

──そう、ドープなヒップホップだけど、あくまでJ-POPなんですよね。

はい。僕はJ-POPを作っている人間なので。

神山羊

ちっちゃい頃から自分がいるポジションは変わっていない

──続く7曲目の「O(until death)YOU」はインタールード的なインスト曲で、チップチューン風のローファイポップに仕上がっていますね。

この曲は、スーパーファミコンの音をモデリングして作っているんですよ。だから、曲の最初のほうに入っている「ガチャ」という音は、スーファミのカセットを本体に差し込んでいる音だったりして。僕はちっちゃい頃、いつもリビングでスーファミをやりながら、働きに出ていた母親の帰りを待っていたんです。まだ外が明るいうちからゲームに熱中していたら、いつの間にか陽が落ちて暗くなっていたことってありません? その没頭している感じが、クローゼットの中で曲を作っているときにすごく似ている気がして。つまり、ちっちゃい頃から今まで自分がいるポジションは根本的に変わっていないんじゃないかと(笑)。それに気が付いたときにこのインスト曲を作りました。

──「O(until death)YOU」は、先ほどのドープでスモーキーな「煙」と、8曲目のさわやかで抜けのいいダンスロックナンバー「群像」の橋渡しをするという意味でも非常に効いていると思いました。

それも、作っている段階では全然考えていなくて。できあがった曲を並べてアルバムの曲順を考えていたときに「『群青』の前に、『O(until death)YOU』の最後に入っているドアを開ける音があったらつながるな」とか、そういう感じで。

──そうしたSEも効いていますよね。インディーズ時代から、例えば「CUT」ではハサミの音をリズムトラックのように使っていますし、本作でも「煙」にはタバコが燃える音が、タイトルトラックの「CLOSET」には扉をノックする音が入っていたり、想像が膨らみます。

うれしいです。僕はもともとインスト曲が好きで、コードとか楽器の種類とかにとらわれずに、生活音や環境音みたいなものを音楽の中に入れていくというのが自分のスタイルとしてあって。J-POPを作るにしても、楽曲の中にそういうのを忍ばせていくのが好きなんですよね。

──制作においても、日常の生活音や環境音から刺激を受けますか?

めちゃくちゃ受けます。例えばエアコンの音とか雨の音とか、冷蔵庫の「ブーン」って音とか電車の音とか……全部曲で使ったことありますけど(笑)。なんか、周りの音が気になるというか、音フェチなのかもしれないですね。