ルーツにある音楽×◯◯◯=神山羊サウンド
──「journey」は生楽器が前面に出たアレンジで、神山さんの音楽の振り幅の広さが感じられる1曲だと思いました。
Nirvanaみたいな荒々しいロックをイメージしてアレンジした曲で、こういうのも僕のルーツの1つなんですよ。バンド時代はシューゲイザーをやっていて、RadioheadとかMy Bloody Valentineみたいなオルタナティブロックも好きで。自分の音楽はポップスでありながら、オルタナなものでもありたいと思っています。
──「journey」のときにNirvanaをイメージしたように、トラックを作るときは何かテーマを決めてアレンジを練っていくことが多いんでしょうか。
うーん、楽曲のジャンルを決めるとまでは行かないですけど、年代とか空気感とかなんとなくの雰囲気は決めているかも。例えば「YELLOW」はクラブミュージックっぽさを意識したし、「青い棘」はヒップホップやR&Bみたいなブラックミュージックを参照して、サンプリングを取り入れたり。暫定のトラックを作ってから、いろいろ実験してみて最終的に今のアレンジに落ち着いた、という感じですね。
──洋服を着替えるように、メロディに似合うアレンジを着せ替えるみたいな。
まさにそうですね。生のメロディとビートに肉付けしていって「うわ、これはダサいな(笑)」「これはいいな」みたいな感じで。
──「ユートピア」は1990年代のジャパニーズポップスの雰囲気を感じました。神山さんの曲は当時のポップスがルーツにありながら、まさにオントレンドな雰囲気をまとったものもあって、そのバランスが絶妙だなと思います。
ありがとうございます。「ユートピア」はまさに1990年代のポップスの要素が強く出た曲なんですが、基本的にはいろんなジャンルを混ぜたミクスチャーなものが好きなんですよね。昔聴いていたルーツにある音楽に、今聴いている最近の洋楽のエッセンスが自然と混ざってくるんだと思います。
──流行は意識しますか?
意識をまったくしないかと言われるとそんなことはないですけど、トレンドに乗りすぎるのも好きじゃないというか、遊びを残したいと思っています。今ヒップホップが流行っていたとしたら、そこにオルタナ要素を混ぜるとか、歌詞やメロディには歌謡曲のエッセンスを加えたりだとか。
──ちなみに最近はどんな曲を聴いてますか?
HonneとかThe Internetをよく聴いていますね。どちらも来日公演には行けなかったんですけど。それ以外にも本当にたくさんの音楽を聴いていると思います。
──アルバムの話に戻りますが「MILK」は、000さんのアルバム「クライベイビー ハズ ポップコーン」に提供した曲で、映画「Leon」をイメージして書き下ろされた曲なんですよね。
好きな映画を題材にしてほしいとリクエストされて作った曲で、大好きな映画の「Leon」をテーマに書かせてもらいました。
──「Leon」を観た人なら誰しもナタリー・ポートマン演じるマチルダ目線だと気付くような内容で、彼女の切ない心情が皮肉を交えながら描かれているなと思いました。そしてアルバムはサロン情報サイト「ホットペッパービューティー」の特別Web動画「春、変わる時。」の主題歌として書き下ろされたピアノバラード「ゆめでいいから」、思わず踊り出したくなるようなポップチューン「シュガーハイウェイ」へと続いていきます。
「ゆめでいいから」はリクエストを受けて書き下ろしたど直球のバラード、「シュガーハイウェイ」はジャニーズポップスを自分なりに昇華した1曲です。
──「シュガーハイウェイ」の歌詞は最後の「お客さん今夜はどちらまで? / 僕の人生最後まで連れて行って」というラインが印象的で、ボコーダーを使った無機質な声なのになんだかすごくハッとさせられました。
まあ僕は言わないですよ。現実には(笑)。自分のことはあまり歌詞にしないので、物語を作って、主人公の言葉をつづっていく感じで歌詞を書いています。
──神山さんの歌詞は日本語特有の美しい表現というか、言葉選びも秀逸だと思いました。それでいてリズムとのハマりがすごくよくて、ボーカルが楽曲を構成する音の1つとして使われているというか。これはきっとVocaloidでの楽曲制作で培ったスキルなんだなと思ったのですが……。
確かにそういうところはボカロで培ったかもしれません。Vocaloidはまさに楽器の1つですからね。
“求められる”ことが制作の原動力
──このミニアルバムは今までの神山さんの経験を詰め込んでできた1枚なんですね。
そうですね。自分がたどってきた人生や聴いてきた音楽とか、今までの自分のことを考えながら作った1枚になったと思います。基本的には“一度は終わった”人間ベースで話すんですけど、今はすごくありがたい状況をいただいていて、なんだかすごい人生だなと思うんですよ。
──今のような状況に自分が置かれることは予想できなかった?
予想なんて全然だし、正直意味がわからないですよね(笑)。
──趣味で始めた音楽が、商業的なものになっていくことについて戸惑いはなかったですか?
戸惑うことはないですし、“求められる”ことが自分の制作の原動力になっているんですよ。もともと僕の音楽は作家として始まったところがあって、自分のためよりも、人に曲を書く、何かに対して曲を書き下ろす、求められるものを作ることが性に合ってるんだと思います。その人、その場所に合う音楽を作れたら、僕としては正解だと思います。
──資料には神山さんについて「サウンドクリエイター&シンガーソングライター」と書かれていますが、まさにその通り、というところでしょうか。
うーん、でも僕自身はシンガーソングライターという肩書きにあんまりピンときてないんですよね。僕はなんなんですかね?
──自分で書いた曲を歌っているのでやっていることはシンガーソングライターなんですが……大きく言うと、音楽家?
ああ、それがしっくり来るのかも。作家としての自分も歌う自分も全部を内包している感じで。
──アルバムタイトルの「しあわせなおとな」にはどういう意味を込めたんでしょう。
さっき言ったみたいにこのアルバムを通して僕自身の人生を振り返ってみて、幸せってなんだろうなと思ったんですよ。それぞれみんなにとっての幸せがあると思うんですけど、みんながみんな子供の頃に描いていた夢を叶えたかと言えば違うことも多くて、みんないろんなことに葛藤したり妥協しながら生きて、その中で幸せを見つけていくじゃないですか。幸せには大小がありますけど、誰しもに幸せは絶対にあると思っていて。そういうものを強く意識して作ったアルバムなんですよ。この作品を聴いて、幸せってなんだろうとか、何かを感じてもらえればなと思ってこのタイトルにしました。
音楽の新しい可能性を探求していきたい
──ここ数年、今まではメインカルチャーではなかったインターネット発のアーティストが、日本の音楽のメインストリームにどんどん進出していますよね。ニコニコ動画発の米津玄師さんやDAOKOさんが「NHK紅白歌合戦」初出場を果たしたことは昨年の印象的な出来事だったかと思いますが、神山さんは日本の音楽シーンでどんな存在になっていきたいですか?
どんな存在……難しいですね。もちろんたくさんの人に聴いてもらえる音楽を作りたい思いはありますが、音楽の新しい可能性を探求していくことに興味があります。自由に音楽に関わっていく中でやりたいことが変わっていくと思うので、音楽シーンでの正解みたいなものは一生決まらないんじゃないかな。僕はもっといろんな形で音楽のあり方を提案していきたくて。音楽で人を驚かせたいんです。
──それは革新的な音楽を作っていきたいということですか?
音楽的な驚きというよりも、音楽の新しい楽しみ方の提案というか。今回神山羊として初めてCDをリリースするんですけど、わざわざパッケージを買わなくてもいい時代にCDを出す意味をちゃんと持たせたかったんですよ。「しあわせなおとな」はPERIMETRONとパッケージを一緒に作っていて、アートブック付きの“青い棘盤”なんかは、お店に置いてあったらびっくりするようなものができました。サブスクで音楽を聴く今の時代にCDを買ってくれた人が「CDを買う意味があったね」と納得してくれたら、それが僕の中では大正解なんです。このまま時代が進んでいけば、きっとCDは配信サービスに負けてしまうけれど、そのときはそのときで僕も新しい音楽の提案の仕方を考えようと思っています。
──そのときどきで神山さんの音楽の提案の仕方の“正解”が変わっていくと。
そうですね。で、僕が考える今の“正解”は作りたいものを作って、外見も中身も「やっべ! 何これカッコいい!」と思ってもらうことなので、今はリスナーの反応待ちというところですね。
──神山さんの音楽に対する価値の1つにきっとそういうものがあったんでしょうね。
そうですね。自分が丁寧に取っておいたCDの帯とかに音楽と同じように価値を感じていたので。物として手元にあるって尊いし大事なことだと思うんですよ。僕の音楽も誰かのそういう存在になってもらえたらと思います。
ライブ情報
- 神山羊 プレミアムワンマンライブ「しあわせなおとなが眠るとき」
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- 2019年4月28日(日)東京都 恵比寿ザ・ガーデンルームOPEN 17:30 / START 18:00