音楽ナタリー Power Push - 上白石萌音
歌うように演じ、演じるように歌う
頭の中でオーケストラが鳴ってる
──今作「chouchou」は映画にまつわるカバー曲が収録されていますが、やはりそういうコンセプトで制作が始まったんですか？
そうですね。映画の主題歌や挿入歌を入れて、フランス語でお気に入りという意味の「chouchou」というタイトルにしました。ミュージカルの曲やJ-POP、洋楽も入っていますから、こうして並べてみるとすごいラインナップだと思います（笑）。
──「On My Own」なんてアカペラですからね。デビュー作でいきなりこれはすごいなと。
私もアカペラで歌うというスタッフさんの提案にはビックリしました。「On My Own」はピアノの旋律が印象的ですし、歌との掛け合いが感情を高ぶらせる大事な要素だと思っていたので、それがないとなると「どうなるんだろう？ 私の声だけで長い曲を聴かせられるんだろうか？」という気持ちはすごくありました。でもレコーディングをしてみていろんな方に「よかったよ」って言っていただけて、すごくホッとしています。大きなチャレンジでした。
──実際には楽器の音が鳴っていなくても、ご自身の頭の中にはきっと伴奏が鳴っているんだと思うんです。それはいつも1人で歌っているときからそうだったんじゃないですか？
そうですね。自分の頭の中で伴奏を鳴らしていて、ハモリも入ってます（笑）。
──脳内で伴奏をしっかりイメージできるからこそ、アカペラでもすごい集中力で歌えるんですね。
それはもうすばらしいオーケストラが頭の中で鳴ってます（笑）。「On My Own」のレコーディングのときはブースの照明を落としてもらって、広いスペースにマイク1本だけ立てて裸足になって歌いました。舞台に立っているというより、映画「レ・ミゼラブル」の中にいるような感覚で、頭の中では劇中の雨の音とかいろんな音が鳴っていました。でも実際に収録されているのは私の声だけですから、聴いてくださった皆さんの頭の中にも弦楽器の音や風の音など、いろんな音が流れたらうれしいです。
三葉の気持ちから瀧の気持ちに
──そして今作には「なんでもないや（movie ver.）」も収録されています。この曲は映画「君の名は。」の主題歌であり、映画の舞台挨拶ではRADWIMPSの野田洋次郎さんと即興で一緒に歌われていましたね。
本当にびっくりしました。舞台挨拶に野田さんがいらっしゃるというのも知らなかったんです。「前前前世」をアコースティックバージョンで弾き語ってくださったこともサプライズだったので、聴きながらボロボロ泣いていたら、野田さんに「せっかくなので一緒に歌ってもらってもいいですか？」と、突然言われて。「ご本人の前でご本人の伴奏でご本人のハモリで歌うなんて！」と緊張しましたが、もうせっかくなら楽しんで歌おうと。野田さんは会場の空気を感じてその場で決めたっておっしゃってましたけど、本当に幸せなひとときでしたし、野田さんがステージに私を呼んでくださったことで、私はこの曲をこれからも歌っていいんだなと思ってすごく自信になったというか、心強い何かが生まれました。今でも1人で歌うときは野田さんがいると思って歌っています（笑）。
──脳内で野田さんの歌が再生されるんですね。
はい、いつも頭の中でハモっていただいてます！ もともとRADWIMPSさんが大好きだったので映画の中で野田さんと私の声が同時に聞こえてくるだけでも幸せだったのに、こうしてカバーもさせていただけるなんて。なんだか、最初に出させていただいた映画「舞妓はレディ」から「ちはやふる」「君の名は。」まで全部、1本のレールの上でつながっている気がして、このレールを進んできてよかったって思いました。
──レコーディングではどんな思いで「なんでもないや」を歌われたんですか？
とにかく「君の名は。」の世界の中にいるような気持ちで歌おうと決めていて、それ以外何も決めずに、最初は三葉（宮水三葉。上白石が演じた役）の気持ちで歌っていました。不思議だったのが、途中から気持ちが瀧（立花瀧。神木隆之介が演じた役）にシフトしていったんです。大サビの部分では完全に瀧の気持ちで歌っている自分がいて、映画に出てくるような淡い光のイメージの中で私はいなくて瀧がいる、というすごく不思議な感覚で歌っていました。この曲を聴いて映画を思い出してくださったらうれしいし、映画の中とは違う表現で三葉と瀧の気持ちを歌えたと思います。
──レコーディングで歌いながら気持ちが入れ替わったというのは映画を観た人にとっては鳥肌もののエピソードですね。
そうだとうれしいです。「なんでもないや（movie ver.）」のレコーディングでは映像まで脳内で再生されていました。歌いながら完全に新海誠監督の絵が浮かんでいました（笑）。
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収録曲
- 366日（映画「赤い糸」主題歌）
- Woman“Wの悲劇”より（映画「Wの悲劇」主題歌）
- 変わらないもの（劇場版アニメーション「時をかける少女」挿入歌）
- On My Own （映画「レ・ミゼラブル」劇中歌）
- なんでもないや（movie ver.） （映画「君の名は。」主題歌）
- SMILE（映画「Modern Times」挿入歌）
上白石萌音（カミシライシモネ）
1998年生まれ。第7回「東宝シンデレラ」オーディション審査員特別賞を受賞し、芸能界デビューを果たす。2011年にNHK大河ドラマで女優デビュー。2014年公開の映画「舞妓はレディ」では映画初主演を務め、第38回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめとする各賞を受賞した。2016年には映画「ちはやふる -上の句/下の句-」や、「君の名は。」に出演。また11月5日には映画「溺れるナイフ」の公開を控えている。女優として活動する傍ら、2015年から歌手として都内のライブハウスにてアーティスト活動を始め、2016年10月にカバーミニアルバム「chouchou」をリリースしてメジャーデビューを果たした。
