なんか全体的に艶っぽい

川谷　今回のアルバム、昔からライブでやってる曲（「傷口」）で始まりましたね。いきなり知ってる曲だったけど、昔と今とで全然違う感じになってる。もともと優しい感じだったのに、なんか色気が出てきたというか。

かみぬま　大人になりましたからね。

川谷　そう、大人の恋愛をしてるんだろうなって思いましたね。どういう恋をしたらこんな歌が生まれるんですか？（笑）

課長　はははは（笑）。それかなり気になるなあ。1曲1曲洗ってく？

かみぬま　（笑）。いろんなことあったけど話せば長くなるから……。この間仙台でライブやったときに1曲1曲解説を入れてみた。「この曲は○○ちゃんと」って。

課長　それ特典でコメンタリー入れましょうよ。

川谷　かみぬまさんってそういうのがけっこう出るタイプの人ですよね。昔は優しい人がそばにいたから優しい音だったのかな、それが今やなんか全体的に艶っぽくて。

課長　いやあ、今どんな恋してるんだろう。

かみぬま　例えばある女の子のために作った歌でも、自分の周りにいる女の子ってのはどんどん別の人に変わっていって。そのときそのときでイメージする人は違うのに同じ歌を歌い続けるから、歌い方も変わってくると思うんですよね。

川谷　そういうのありますよね。indigo la Endはメンバーチェンジなどもあるので僕自身昔の音を聴いて「なんでこんな感じで作ってたんだろう」って不思議に思ったりするし。僕の場合、変わっていくって言うよりは「今ならもっとよく歌えるのにな」っていう感じですけど。

ひねくれた感じが“らしい”

課長　僕は「ハローグッバイ」っていう曲が好き。「君と会ったばかりなのに もう二度と会わない気がした」「心と心を 通わせる程興味が無い」とか、どういうつもりで書いてるのかなあって思うんですよね。

かみぬま　この歌詞の主人公、冷たい人って感じだよね（笑）。俺のライブは女性のお客さんが多いけど、「自分が女性だったらこういう歌詞の曲を聴かないのになー」って思う。もっと男の人に共感されるのかなって。

課長　僕は共感しまくってるけどね（笑）。あの歌詞も「ああこういうことあるな」って考えさせられる。で、そんなトゲがある内容を明るい曲調や軽快なリズムで歌うっていう、ひねくれた感じ。それがかみぬまくんらしいって思うんですよね。だから今回この曲が入っててうれしい。音もかみぬまくんの世界観に合ってるというか、きちんと聴けて感情移入しやすい作りになってる。単純に、僕はいい作品だと思うからいろんな人に聴いてもらいたいなと思いましたね。

シンプルだけどいい厚み

かみぬま　「ハローグッバイ」の歌詞みたいな曲はもっとロックなバンドで歌ったほうが合うのかな。言い放つみたいな感じというか。

川谷　でもそれだと暑苦しくなっちゃいますよね。僕は弾き語りの人の作品でドラムの音がドーンって入ると一気に野暮ったく感じちゃうんですよ。今回の場合は不思議とそれがない。

課長　うん。バンドになってても各パート歌心ある感じがしましたね。シンプルだけどいい厚みがちゃんと出てるし。コテコテじゃない。

川谷　さらっとしてる。僕は、かみぬまさんの音楽って最初に知ったときの弾き語りの印象が強いから、今回けっこうガッツリとバンドが入ってて「あれ？」って思ったけど、聴いてみたら全然変わってなくていいなあって思いました。基本的に弾き語りの人のバンドアレンジの曲ってあまり好きじゃないけど、かみぬまさんのは自然に入ってきた。

──このアルバムは7曲中3曲がバンド編成で録った音源です。でもアルバムを通して聴いてみても全体的に素朴な雰囲気のままで、うるささを感じないですよね。

かみぬま　今回、例えば「ちいさな背中」って曲はまず歌とギター、ピアノとウッドベースをせーので録ってからドラムを乗せるいう作り方をしていて。

課長　面白い。そうなんだね。

かみぬま　これはエンジニアの近藤（祥昭 / GOK SOUND）さんにデモを聴いてもらったとき、「ピアノボーカルの曲みたいだから、歌にピアノが寄ってるほうがいいね」って言われて。だからドラムを先に録ってしまうとリズムがどうしてもドラムありきのものになって、歌もそこに合わせちゃう。だからドラムは最後にしようって。そう言ってできたのがこのバージョンなんです。エンジニアの人は「これは100年に1度のアイデアだ」って言ってた（笑）。

──「ちいさな背中」はアルバムではバイオリンも重ねたバージョンが収録されていますね。先行配信された音源より豊かなサウンドになっています。

かみぬま　はい。バイオリンの音はハンバート ハンバートの佐藤良成さんに最後に入れてもらいました。