ナタリー PowerPush - カミナリグモ

僕らはまだ戦えるんだ

アイデアを具現化する作業は人前に出るよりも楽しい

──アルバムではバンドとしての完成度もそうですけど、ソングライティング力にも改めて圧倒されました。「王様のミサイル」は上野さんの中でもちょっと異質かもしれませんけど、基本的にはメッセージを投げかけるタイプのソングライターというよりも、ストーリーを紡ぐ力のある人だなと。今回のアルバムではその精度がさらに上がっているように感じました。

曲作りに関してはもちろん自分でも自信があって、それを届けたいという気持ちがあるから音楽を続けてるんですよ。バンドとして、ミュージシャンとして足りない部分は自分でも自覚していて、そこはがんばるしかないんですけど、自分はどう考えても人前に出て、知らない誰かを楽しませることには向いてないっていうか……。

──あははは(笑)。でもそういうネガティブな考え方や、ある意味暗いストーリーというのはカミナリグモの魅力でもあると思うし、そういう世界観を望んでいるファンも多いと思うんですよね。

インタビュー写真

その性格を許してもらって初めて成立する人間なので(笑)。自分自身が商品になるよりも作品そのものが認められる、よりクリエイター的な表現発信のほうが向いているのかなと思うことはありますね。変な話、テレビに出たいみたいな欲は全くないんですよ。

──自分自身がどうこうなりたいっていうよりは、もう単純に音楽が伝われば。

そうなんです。もっと圧倒的に音楽が認められてしまえば、表に出ないやり方もあると思うんですけど、今の自分はそういう立場じゃないから。

──自分が表に出ない表現方法、例えば小説で表現したりということは考えないですか?

小説を書きたいなというのは、実はずっと思ってはいるんですけどね。そこから入って音楽を好きになってくれる人もいるかもしれないですし。音楽だと歌っている人、演奏している人そのものがどうしても前に出てきてしまうので。まあ、今のままでは言い訳にしかならないと思うから、得意じゃない部分もできる限り戦っていこうという気持ちでいます。

──間口を広げるという意味では、カミナリグモはアートワークも高く評価されていますよね。前々作「BRAIN MAGIC SHOW」と前作「SMASH THIS WORLD!」のジャケットは「ミュージック・ジャケット大賞」にノミネートされましたし。「MY DROWSY COCKPIT」もかなり印象的なデザインですけど、アートワークに関するアイデアはどのように?

打ち合わせで僕のほうから「計器が時計になっている、時計だらけの宇宙船で横たわってる宇宙飛行士」というアイデアを出して、それを具現化してもらった感じですね。

──性格的に、自分でデザインまでやりたくなるようなことは?

技術があれば自分でやってしまいたいという欲はすごくあります。最近はグッズも全部自分がデザインから入稿までやってて。やり始めで技術的にはまだまだなんですけど、アイデアを思いめぐらせてコツコツ具体化していくっていう作業は自分の得意分野だと思うので。変な話、人前に出てしゃべるよりも全然楽しい(笑)。

9年前に作ったサークルと一緒に教室ライブ

──アルバム発売後にはツアーが控えてますが、これまでのツアーの中では一番の規模ですよね。

今のバンドの規模としてはかなり思い切ったほうで、結構本数を増やして回ったりもするんですけど、特に勝算があるわけでもなくて。それでも、多くはなくてもいろんな場所でカミナリグモを待ってくれている人がいるのはわかっているし、今回はできる限り回ってみたいなと。結果どうなるかわからないけども、とにかく歌うこと、前に進むことっていうのはこのアルバムもテーマでもあるし、「MY DROWSY COCKPIT」を携えて回るツアーとしてはこのぐらいの希望を込めてもいいんじゃないかなって。本当に10年の活動の集大成のつもりで、今の自分たちの位置を確認したいっていう意味も込めて回ります。

──ツアー開催前、12月8日にはメンバーお2人の母校である長野・信州大学でもライブ「WE COME BACK TO OUR UNIVERSITY!」がありますよね。これはどのような趣旨なんですか?

一緒にやるイベントのサークルが、元々僕が在学中に作ったサークルなんですよ。そのサークルを作ったのがカミナリグモの活動2年目ぐらいだから、大体9年前か。それが今もまだ脈々と続いていて。

──いわゆる軽音サークルではなく?

イベント制作のサークルですね。元々の趣旨としては、大学にあるいくつかの軽音サークルとか、オーケストラ、混声合唱団、ダンス系など、舞台発表の機会のあるサークルみんなでライブをやろうっていう。「FREEDIVISION」という名前で。正確に言えば「DIVISION FREE」になるんですけど、サークルの境界をなくして学内でイベントをやるために作ったサークルです。地元でライブをやるときは後輩たちも観に来てくれていて「いつか一緒にイベントやれたら面白いね」って話してたんですよ。今回はアルバムを出してからツアーまで少し間が空くし、長野でのインストアライブも予定してないから、教室使ってやってみるのも面白いかなと。

──教室って、いわゆる大学の授業が行われるような……。

はい。教壇から斜め上に席が並んでいるような講義室でやります。単純に面白いかなと思って(笑)。

──歴史の1ページにちょこっと戻ってみるみたいな。

そうですね。楽しみです。

3rdアルバム「MY DROWSY COCKPIT」 / 2012年11月14日発売 / 3000円 / KING RECORDS KIZC-195~6
3rdアルバム「MY DROWSY COCKPIT」
CD収録曲
  1. 201周目の飛行船
  2. Toys
  3. SURVIVE
  4. あの虹
  5. Stray Moon
  6. RUSTY ALARM CLOCK -DROWSY Ver.-
  7. 脇役の犬
  8. ラストシーン
  9. 王様のミサイル
  10. Butterfly Girl
  11. MY DROWSY COCKPIT
  12. Perfect Sky
DVD収録内容
  • 「王様のミサイル」Music Video
  • 「あの虹」Music Video
カミナリグモ(かみなりぐも)

2002年、上野啓示(Vo, G)が中心となってカミナリグモを結成。翌年には上野のソロプロジェクトとなり、弾き語り、バンド、ユニットと形態を問わないスタイルとなる。2007年にはサポートとして参加していたghomaこと成瀬篤志(Key)が正式メンバーに。インディーズで3作のマキシシングルと1stアルバム「ツキヒノォト」を発表した。かねてよりthe pillowsを敬愛していた上野が、ライブ会場で山中さわお(the pillows)に手渡した音源が高く評価され、2010年7月に山中プロデュースによるマキシシングル「ローカル線」でメジャーデビュー。同年11月にはメジャー1stアルバム「BRAIN MAGIC SHOW」、2011年にはミニアルバム「SCRAP SHORT SUMMER」と2ndフルアルバム「SMASH THIS WORLD!」を発表した。2012年8月8日にはインディーズ時代からの定番ナンバー「王様のミサイル」を再度レコーディングし、ニューシングルとして発売。11月14日には3rdアルバム「MY DROWSY COCKPIT」をリリースした。