ナタリー PowerPush - カミナリグモ
僕らはまだ戦えるんだ
短編映画のオムニバスみたいな流れに
──4曲目の「あの虹」は「王様のミサイル」と並ぶアルバムのリード曲としてビデオクリップも制作されましたよね。カミナリグモの場合、リード曲はどのようにして選ぶんですか?
アルバム制作段階で作ってあった曲の中から、シングルとしても通用しそうな曲をいくつか選んで、その中からメンバーとスタッフで話し合って選ぶ感じですね。ほかにも候補はあったんですけど、現状考えられる中で一番いい曲だなって。今回のアルバムは「『王様のミサイル』が入るアルバム」というのを前提に、今ある曲の中から世界観の合う曲を選んでいって、さらに世界観を表現する上で足りない要素は新曲を作って補っていく中で「あの虹」ができてリード曲に決まって……そうやって完成したのがこの12曲です。
──その一方で、アルバムタイトルにも選ばれた11曲目「MY DROWSY COCKPIT」は「王様のミサイル」「あの虹」とはまた違った、若干ディープな内容ですよね。これをアルバムタイトルに冠したのはなぜですか?
「MY DROWSY COCKPIT」も自分としては良い曲ができたと思ってるし、これがリード曲でも全然良いと思うんですけど、前回のインタビューでも話させてもらった“ポピュラリティ”という面で考えると、この曲ではちょっと後ろ向きというか。僕らの音楽がもっと広く伝わってからじゃないと、こういう曲を前面に出すのは難しいなって正直思うんですよ。
──でもアルバム全体を象徴するイメージとしては、むしろこっちだったという。
実はこの「MY DROWSY COCKPIT」はさっきの話で言うと、あとで書き足したほうの曲なんですよ。僕らはバンドで作る曲以外に毎回1~2曲打ち込みのトラックものを作るんですけど、この曲は元々そのつもりで作ってたんですね。全然違う構成だったんですけど、作り込んでいくうちにどんどんエモーショナルな感じに変わっていったので、バンドサウンドが合うようにさらに作り込んで。最終的にこの形が見えたことで、アルバムのイメージがすごくまとまったんです。
──それでアルバムタイトルに。
はい。「王様のミサイル」は自分の中では珍しい独特なテーマを歌ってる楽曲だし、作ってから9年間のタイムラグがあって。今の自分にはこういう歌詞は書けないと思うんですよ。だからアルバムの核として置くにはどうしても浮いてしまうんじゃないかなって。それで今回のアルバムは、それぞれ独立して物語性の強い楽曲が並んだ、短編映画のオムニバスみたいな流れにしようと考えたんです。でも「MY DROWSY COCKPIT」は、操縦が効かない宇宙船の中で主人公が終わりを覚悟してる。最後にタイマーをリセットしてこの曲の物語は終わるんですけど、6曲目の「RUSTY ALARM CLOCK」には「時間切れ もうとっくにね アラームは錆びて僕を起こし損ねたみたい」というフレーズがあって、ラストの「Perfect Sky」では「僕はもう行かなくちゃ」と言って、最後にアラームが鳴るんです。
──それぞれ独立した物語だけど、アルバム全体を通してひとつの物語としても解釈できるという。
まあ解釈は聴いてくれた人それぞれが感じてくれたらいいんですけど、僕の中では完璧なハッピーエンドの物語を書いたわけではなくて、最後はただアラームが鳴っただけなんです。錆びてもう鳴らないと思っていたアラームが鳴った、タイマーをセットしたままパイロットが眠ってしまった宇宙船の中でもアラームだけは鳴ったっていう。ただ僕は自分が書いた作品に限らず、物語の結末には少なからず希望があってほしいと思うんです。例えば自分が小説を読んだとしても、結末はこうであってほしいというか。最後に「Perfect Sky」でアラームが鳴るというのは、例えば自分が客観的に「MY DROWSY COCKPIT」という小説を読むとしたら、エンディングはこうあってほしいんですよね。この終わり方で、作り手としてはなんと言うか……してやったりじゃないですけど、ちょっとした達成感がありましたね。
僕らはまだ戦えるんだ
──「MY DROWSY COCKPIT」の物語の背景にコックピットを選んだのはなぜですか? ここになんらかの意思が込められているのか、単に物語のひとつとして描いているのかに興味があって。
それは多分どっちもありますね。物語として都合がいい場所だったというのもありますし。実は今の形でカミナリグモを始めるよりもっと前、カミナリグモとして自主制作でアルバムを作ったことがあって、そのタイトルが「コクピット」だったんですよ。そのときは「自分の頭の中にもうひとり操縦士としての自分がいて、自分の感情を俯瞰的に見ている自分」という意味合いだったんですよ。
──しかもそれが“DROWSY”なわけですよね。
そうですね。まあ決して完全に前向きな気持ちで操縦しているわけではなくて……眠ってしまうっていうのはある意味都合のいい表現で、死んでしまった人のことを曖昧に「眠っている」と表現したりしますけど、結末は曖昧にしながらも、今の自分の感覚としては、眠ってしまう、まどろんでいる……そういうところに自分はいるのかなと。曲を作り始めたときは、前回のインタビューでも言ったようにあまりいい気分ではなかったので。アルバムの帯にはこの曲の歌詞から「コクピットでうたうよ キミを想って」というフレーズが引用されてますけど、最初は「さよなら 点滅を繰り返す 虹みたいな夢」にしようと考えてたんですね。でも、そのあと「あの虹」ができて「僕らはまだ戦えるんだ」って気持ちになった。「きっとこの音楽を理解してくれる人がまだまだいるはずだ」と改めて思い直して、もっと前向きな言葉を選びたくなったんです。
──どちらも同じ曲の中に込められたフレーズながら、意味合いは大きく違いますね。
「MY DROWSY COCKPIT」は絶望感の強い曲ではあるけど、自分の中で世界観の軸を「さよなら 点滅を繰り返す 虹みたいな夢」から「コクピットでうたうよ キミを想って」に移せたのは、「あの虹」という曲ができたことが大きいですね。必然的にアルバム全体の世界観もそういう方向に進められて、「Perfect Sky」のような曲で締めくくろうという気分になれたんだと思います。
──「Perfect Sky」はエンドロールのような位置付けというか。アルバムにはフィクション性の高い物語が並んでいるから、最後のベルを聴くとものすごく不思議な気持ちになるんですよね。急に現実世界に引き戻されるような。
聴いている人にとっても目が覚めるっていう印象を受けると思うし、バンドとしても個人としても、目を覚ましたい、そして現実と戦っていかなきゃいけないっていう。そういう意味合いもあるんです。
- 3rdアルバム「MY DROWSY COCKPIT」 / 2012年11月14日発売 / 3000円 / KING RECORDS KIZC-195~6
- 3rdアルバム「MY DROWSY COCKPIT」
CD収録曲
- 201周目の飛行船
- Toys
- SURVIVE
- あの虹
- Stray Moon
- RUSTY ALARM CLOCK -DROWSY Ver.-
- 脇役の犬
- ラストシーン
- 王様のミサイル
- Butterfly Girl
- MY DROWSY COCKPIT
- Perfect Sky
DVD収録内容
- 「王様のミサイル」Music Video
- 「あの虹」Music Video
カミナリグモ(かみなりぐも)
2002年、上野啓示(Vo, G)が中心となってカミナリグモを結成。翌年には上野のソロプロジェクトとなり、弾き語り、バンド、ユニットと形態を問わないスタイルとなる。2007年にはサポートとして参加していたghomaこと成瀬篤志(Key)が正式メンバーに。インディーズで3作のマキシシングルと1stアルバム「ツキヒノォト」を発表した。かねてよりthe pillowsを敬愛していた上野が、ライブ会場で山中さわお(the pillows)に手渡した音源が高く評価され、2010年7月に山中プロデュースによるマキシシングル「ローカル線」でメジャーデビュー。同年11月にはメジャー1stアルバム「BRAIN MAGIC SHOW」、2011年にはミニアルバム「SCRAP SHORT SUMMER」と2ndフルアルバム「SMASH THIS WORLD!」を発表した。2012年8月8日にはインディーズ時代からの定番ナンバー「王様のミサイル」を再度レコーディングし、ニューシングルとして発売。11月14日には3rdアルバム「MY DROWSY COCKPIT」をリリースした。