地球で一番孤独な動物の歌なんです

──カップリング曲についても聞かせてください。まず「52Hz」の作曲は東野さん、和泉さんの共作です。

東野　編曲も2人でやってますね。

和泉　僕が基になる曲を作ったんです。個人的に「こういう曲を神僕でやりたい」というアイデアがあったので。

東野　すでにドラムとベースは録り終わっていたんですけど、ベースラインって基本的にはルート音だけじゃないですか。「ピアノの右手にあたる部分は変えられるな」と思って、少しコードとメロディを変えたんです。

和泉　リズムのアレンジだったり、キメの部分は変わってないから、僕は満足ですけどね。東野もきっと満足してるだろうし。

──歌詞は東野さんにお任せだったんですか？

和泉　完全にそうですね。

東野　好きなように書かせてもらいました。彼の曲を聴くと、いつもSF映画を思い出すんですよ。でも、神僕で宇宙っぽい曲をやるのは違うなと思って。だから逆に潜ってみようと思って、深海をテーマにして。これ、クジラの歌なんですよ。クジラって15Hzから25Hzの周波数帯の鳴き声でコミュニケーションを取っているそうなんですけど、1頭だけ52Hzで鳴く個体が存在していて。そのクジラはどれだけ鳴いてもほかのクジラに気付かれない、地球で一番孤独な動物と言われているんです。それを自分自身の人生観の比喩として、歌詞に落とし込めないかなと。

考えることから逃げ出せないからこそ、作品はさらに強固になる

──4曲目の「青春脱出速度」は高速のビートと鋭利なフレーズが絡み合うアッパーチューンですね。

東野　めちゃくちゃ速い曲が最後に入っているのも面白いかなと。曲調に関しては、「神僕がやるメロコアってどういうものだろう？」と考えて作ったのが、この曲ですね。メンバーは微妙な反応だったんですけど、僕とスタッフは「すごくいい！」って盛り上がって。

和泉　いやいや、微妙じゃないよ（笑）。

蓮　ビートが速いから演奏するのが大変ですけどね（笑）。

東野　僕が好きなメロコアは、BPMが230くらいですからね。それくらいの速さの曲を作ると、リズム隊の2人が死にそうになるっていう（笑）。歌詞については、「52Hz」の宇宙的なインスピレーションを引き継いでいて。青春を走り抜けられた人もいれば、うまく走り抜けられなかった人もいると思うんですが、僕は抜けられなかったタイプで。そのときのアティテュードと大気圏突破のイメージを重ねた歌詞ですね。挫折感も出せたらいいなと。

──バンドの音楽性の広がり、メンバーの作家性やプレイヤーとしての個性が感じられるシングルになったと思います。最後に、神僕の今後のビジョンについて聞かせてもらえますか？

東野　これをやりたい、あれをやりたいというのはあるんですけど、それを定めてしまうと、思考停止に陥りそうな気がして。この2年間の活動を振り返ってみると、バンドとしての軸はまだ明確に定まっていないんですけど、逆にそれはいいことだと思うんですよ。考えることから逃げ出せないからこそ、そこから生まれてくる作品はさらに強固なものになるはずなので。「この先のビジョンはありますか？」と聞かれたら「ないです」としか言いようがないけど、それが最良ではないかという感じですね。