神聖かまってちゃん×戸川純 対談|世代を超えて惹かれ合う2組の「生に対する執着とあきらめ」 (3/3)

レコーディングですごく印象に残ってるのが、みさこさんに言われた言葉

──歌録りに皆さんが立ち会っていたということは、ボーカルディレクションのようなこともメンバーがしたんですか?

の子 僕はもう「恐れ多くもレコーディングしてくださってる」って感じだったし、どのテイクを聴いても最高だったので、偉そうなことは言えなくて。

mono 本当にいいから「今のよかったです」しか言えないよな(笑)。最終的にはどれを使うか選ばざるを得ないんですけど、どれを聴いても「でも、こっちのニュアンスも好きだな」って迷っちゃう。

mono(Key)。ワンマンツアー「結成15周年ツアー『聖なる交差点』」11月8日の埼玉・HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3公演の楽屋にて撮影(所属事務所提供)。

mono(Key)。ワンマンツアー「結成15周年ツアー『聖なる交差点』」11月8日の埼玉・HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3公演の楽屋にて撮影(所属事務所提供)。

の子 全部よくって、もうわけがわからなくなってたな。それに「なんだこれ、この状況は現実か?」って気分にずっとなってたし(笑)。だから今回のレコーディングはみさこさんがリードして進めてくれました。

戸川 レコーディングですごく印象に残ってるのが、私がみさこさんに「どう思います?」って聞いたときにトークバックで「良きでーす!」って言われたことで(笑)。「良き」って言うんだ!って思った。

みさこ すごく素敵なテイクだったんですよ(笑)。素晴らしかった。戸川さんが特に力を入れていたのが「凄く 辛い」と歌う部分で。

戸川 そこは強く歌いたかったんですよね。シンプルで直接的な言葉だから、素直にネガティブな感情を出そうと。そしたらエンジニアの金井さんが調整してよくしてくれました。昔から不思議なんですけど、かまってちゃんの曲はたくさん素材が詰め込まれてて音数が多いのに、塊にならずにちゃんとバラバラに聴こえるんですよね。それってエンジニアさんによっては難しかったりするのに。

──ほかにレコーディングで印象に残っていることはありますか?

の子 ありますよいっぱい。一緒にタバコを吸ったこととか(笑)。夜、レコーディングが終わってタバコ吸ってるときに、「目の前でタバコ吸ってるの、戸川純……!?」って、冷静に考えてみたらゾワッとしちゃって。信じられなかったです。

mono 行きの車の中で「戸川さんってなんのタバコ吸ってるんだろう?」とか言ってたよな(笑)。

の子 そのレベルのファンなんですよ(笑)。「今日は絶対に聞かなきゃ」って思いながらスタジオ入りしました。

上に行けば行くほどいろいろ風当りが強くなるよね

──ベストアルバムに収録される新録コラボ音源には、戸川さんのほかにACAねさん(ずっと真夜中でいいのに。)とanoさんが参加していますが、戸川さんはこの2人の曲についてどう感じましたか?

戸川 私も「グロい花」を愛しているんですけど、ほかのゲストボーカルのお二方からも、カバーしている原曲への愛があるのがすごく伝わりました。それでいて、お二方とも自分の味がすごく前に出ていて、ただのコピーではなくご自身の新曲のように昇華なさっているなと。

──僕はこの人選にすごく説得力があるなと思ったんですよ。

の子 この3人は僕の中で真っ先に思い浮かんだんです。それぞれ確固としたアーティスト性と個性がある方々ですし。

みさこ メンバーとも「その御三方からOKをいただけたら念願の最強メンツがそろってしまう」って話をしてました。

──かまってちゃんが一番影響を受けている戸川さんがいて、かまってちゃんから影響を受けているACAねさんとanoさんがいて、その影響の流れが3曲で1列につながっているように感じたんですよね。

の子 ああ、戸川さんの作り出した強烈な表現は、遺伝子になって数多のアーティストに受け継がれてますからね。もちろん僕ら神聖かまってちゃんもその1つですし。

戸川 でも、昔は「ビョーキ」だの「ネクラ」だのとくくられてたんですよ。80年代は表面的なことしか見てくれない人が多かったから。それで私は「ビョーキのキャラを売りにしてるやつ」とか勝手に決めつけられて。その頃は“戸川純ブーム”みたいなのが、こんなやつでもあったんですよ(笑)。それでいっぱい取材を受けたんだけど、当時のマスコミはゲラチェックなんかさせてくれないから、世に出たインタビューの8割方が嘘で。

みさこ ええー!

戸川 取材する前に書くことを決めてるんだよね。で、笑顔で写ってる取材時の写真が一緒に載ってるから「本当に言ったんだ」ってみんな信じちゃう。

みさこ 「こんなこと言ってない」なんて自分で訂正できないですもんね……。

戸川 そう。当時はネットもなくて雑誌とか新聞だけだから。見出しに「16歳で妊娠し、17で堕胎」って書かれて雑誌に載ってたこともあるけど、私には何もできなくて。

みさこ どうしてそんな話に……?

戸川 確かに言ったは言ったんですよ。「普段私は何もすることがないので、いつも妄想ばかりしています。16歳で結婚して妊娠するんだけど、すぐに旦那さんが浮気して離婚して、『父親のいない子供を1人で養っていくのは大変だから堕ろせ』と元旦那に殴られる自分の姿とかを。自分の8畳くらいの部屋で、夜になると目をつぶってそんなことを考えてます」みたいに。そしてインタビュアーに「暗いですねー!(笑)」とか言われて。ほかにも楽しい妄想の話もしたんですよ? 海辺で彼氏を追いかけながら「待ってー」「ははは、置いていくぞー」みたいな会話をしたり(笑)、逆に私が裸足でサンダルを持って「うふふふ、捕まえてごらーん」って言いながら走ったり。でもそういう妄想の話は使ってくれないんですよ。

みさこ うわ~、その一部分だけ切り取って見出しにされちゃったんだ(笑)。記事の内容まで読んだら意味はわかるかもしれないけど……。

戸川 でも見出しだけ見て、あきれて読まない人は多いですよ。その記事を読んだ私のファンのお母さんから「うちの娘は『いくつで処女を捨てようと関係ない』と言いますが、あなたは悪影響なので引退してください」って手紙が届きましたし(笑)。かまってちゃんも身に覚えがあると思うけど、上に行けば行くほどいろいろ風当りが強くなるよね。

の子 ははは。僕らも「病んでる」みたいな見られ方をされることばかりなんですけど、戸川さんは僕らを評して「前向きでユニークなところがいい」って言ってくれたんです。人間にはいろんな面があって、光の面もあれば闇の面もあるものなのに、どうしても一面だけをピックアップされがちですよね。

戸川 ちゃんと多面的に見てもらいたいですよね。

の子 僕は光の面と闇の面を併せ持つアーティストが好きなんですよ。どちらか片方ではなく。絵の具で例えると、自分のパレットにいろんな色があって、明るい色も暗い色も使える人。それが人間らしさだと思うから。

みさこ 私は後追いで戸川さんのいろんな情報を知れたので、ただ「病んでいる」というイメージはあんまりなかったかな。戸川さんには一貫してポップな面がありますし。

──それはかまってちゃんにも共通している部分だと思います。どんなテーマを扱っていても、最終的なアウトプットはあくまでもポップであるという。

戸川 そうそう、それが私がかまってちゃんを好きな理由の1つです。

──もうすでに2時間半くらいしゃべっているので、とりあえずこのへんでレコーダーは止めようと思うんですが、締めくくりとして今日の対談の感想を聞かせてください。

みさこ 私としては楽しい夢のような時間をくださって感謝しています(笑)。

mono 対談というより普通に楽しいおしゃべりみたいで、いい意味で全然緊張せずにいろんな面白い話を聞けて楽しかったです。これが取材って、なんか不思議な感じですね(笑)。

ユウノスケ 今日はあまりちゃんと発言できてなかったんですけど、そもそも僕は数年前までかまってちゃんのいちファンで、の子さんの配信を観たりインタビューを読んだりして戸川さんのことを知ったので、そんな方々がしゃべってるこの状況をすぐ目の前で見ていて、ずっと「すごく不思議な空間にいるな」って気持ちでした(笑)。

ユウノスケ(B)。ワンマンツアー「結成15周年ツアー『聖なる交差点』」11月8日の埼玉・HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3公演の楽屋にて撮影(所属事務所提供)。

ユウノスケ(B)。ワンマンツアー「結成15周年ツアー『聖なる交差点』」11月8日の埼玉・HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3公演の楽屋にて撮影(所属事務所提供)。

──ああ、そうか。確かにそうですよね(笑)。

の子 僕は子供の頃から大人になった今に至るまで、戸川純という存在に救われ続けています。ありがとうございました!

戸川 私もかまってちゃんに救われ続けています(笑)。同じように私は、すごく年上の三上寛さんにも救われてきたと思ってるんですけど、自分よりすごく若い人にそんな気持ちになるだなんて、まさか思わなかった。そしてそんな人が私のことを「もっとたくさんの人に知ってもらいたい」「布教活動をしたいんです」って、すごく真面目に言ってくれて……本当にうれしかったですね。これからもがんばりますね。

公演情報

神聖かまってちゃん15周年っファン投票スペシャルライブ!

2023年12月27日(水)東京都 LIQUIDROOM


神聖かまってちゃん 結成15周年ツアー「聖なる交差点」

  • 2023年11月8日(水)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
  • 2023年11月15日(水)千葉県 LOOK
  • 2023年11月29日(水)福岡県 BEAT STATION
  • 2023年11月30日(木)広島県 HIROSHIMA 4.14
  • 2023年12月5日(火)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
  • 2023年12月9日(土)大阪府 umeda TRAD
  • 2023年12月13日(水)北海道 BESSIE HALL
  • 2023年12月20日(水)静岡県 Shizuoka UMBER
  • 2023年12月21日(木)愛知県 CLUB UPSET
  • 2024年1月11日(木)神奈川県 F.A.D YOKOHAMA
  • 2024年1月24日(水)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)

プロフィール

神聖かまってちゃん(シンセイカマッテチャン)

の子(Vo, G)、mono(Key)、みさこ(Dr)からなる“インターネットポップロックバンド”。の子による2ちゃんねるバンド板での宣伝書き込み活動を経て、自宅でのトークや路上ゲリラライブなどの生中継、自作ミュージックビデオの公開といったインターネットでの動画配信で注目される。2010年3月に初のCD作品となるミニアルバム「友だちを殺してまで。」を発表したのち、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・unBORDEと契約してメジャーデビュー。子供の頃の暗い記憶やニートの抱える不安な感情などを美しいメロディに乗せた楽曲、予測のできない破滅的なライブパフォーマンスでファンを増やした。2017年4月から放送のテレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」にエンディングテーマとして「夕暮れの鳥」を書き下ろし。2018年公開の映画「恋は雨上がりのように」では、鈴木瑛美子と亀田誠治によってカバーされた神聖かまってちゃんの代表曲の1つ「フロントメモリー」が主題歌となった。2020年1月、それまで10年間ベーシストを務めてきたちばぎんが脱退。同年12月にスタートしたテレビアニメ「進撃の巨人『The Final Season』」にオープニングテーマ「僕の戦争」を提供した。2023年11月にベストアルバム「聖なる交差点」をリリース。

戸川純(トガワジュン)

子役経験を経て、1980年に「しあわせ戦争」でテレビドラマデビュー。1982年に上野耕路、太田螢一とゲルニカを結成する。同年にTOTO「ウォシュレット」のCMに出演して話題に。1983年にゲルニカの活動休止を受けて元ハルメンズの泉水敏郎らとヤプーズを結成する。1984年にアルバム「玉姫様」でソロデビュー。俳優業と並行しつつ、精力的に音楽活動を展開する。近年は戸川純 avec おおくぼけい、ヤプーズ、戸川純+山口慎一としての音源を発表。また1985年のシングル「好き好き大好き」がTikTokで大流行し、世界各国のバイラルチャートでトップ50に入った。2020年からはYouTubeにて「戸川純の人生相談」を不定期で配信している。