神聖かまってちゃん×戸川純 対談|世代を超えて惹かれ合う2組の「生に対する執着とあきらめ」

神聖かまってちゃんの新作ベストアルバム「聖なる交差点」には、ゲストボーカルを迎えて過去曲を再レコーディングした3曲が収録されている。1つは、以前からライブなどで弾き語りによるカバーを披露していたACAね(ずっと真夜中でいいのに。)の「フロントメモリー」。もう1つは神聖かまってちゃんからの強い影響を公言しているanoによる「僕は頑張るよっ」。そして最後が、神聖かまってちゃんメンバーが最大級のリスペクトを寄せる戸川純が歌う「グロい花」だ。いずれのゲストもこのうえない相性で、楽曲に新たな魅力を吹き込むことに成功している。

これを受けて今回、神聖かまってちゃんと戸川純の対談を企画。の子(Vo, G)、mono(Key)、みさこ(Dr)、そしてサポートメンバーのユウノスケ(B)は、少し緊張しながら戸川の待つ都内のカラオケボックスに向かった。本稿ではここで彼らが語り合った約2時間半におよぶトークの一部を公開する。

取材・文 / 橋本尚平

自分は青春から卒業してない、だから一生悩み続けるんだろうと思っている

──「神聖かまってちゃんは戸川さんの大ファン」という話は、以前からいろいろな場でしていましたよね。

の子(Vo, G) 大ファンも何も! 僕はもともとThe BeatlesとかSex Pistolsとかを聴いてたんですけど、17歳くらいの頃に戸川さんの表現と出会ったことで、自分の中の音楽に対する価値観が変わったんですよ。自己の解放の仕方というか……うまく言語化するのが難しいんですけど、そういう面で強く影響を受けました。16歳で学校を辞めてからの僕にとって、戸川さんが教科書みたいなものだったんですよ!

戸川純 どひゃー。

の子 戸川さんは神聖かまってちゃんの血となり肉となり骨となっています。それに改めて感謝します。だから自分の曲を歌ってもらえたなんて今でも信じられない。10代の頃の自分に教えてあげたい(笑)。

の子(Vo, G)。ワンマンツアー「結成15周年ツアー『聖なる交差点』」11月8日の埼玉・HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3公演の楽屋にて撮影(所属事務所提供)。

の子(Vo, G)。ワンマンツアー「結成15周年ツアー『聖なる交差点』」11月8日の埼玉・HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3公演の楽屋にて撮影(所属事務所提供)。

──そもそも戸川さんがいなかったら、神聖かまってちゃんはこのメンバーでは活動してなかったかもしれないわけで。

みさこ(Dr) そうなんです。私がネットでバンドのメンバー募集をしていたときに、好きなアーティストの欄に戸川さんの名前を書いていたら、の子さんがそれを見つけて連絡してくれて。

戸川 そうなの!?

みさこ もともと私は椎名林檎さんが好きで、普段はそんなに見てない2ちゃんねるの「椎名林檎を聴いている人はほかにどんな音楽を聴いているの?」っていうスレをたまたまその頃に読んで、そこに戸川さんの名前が挙がってたんです。で、聴いてみたら衝撃を受けて、そこから興味がいろんな方向に広がっていって。ナゴム系とかを好きになったのも全部戸川さんが入口でした。

戸川 ありがとうございます! 私は神聖かまってちゃんのことは……なんて言ったらいいんだろう、純粋にファンです。

の子 いやいや! そんな!

戸川 10年くらい前に対談をオファーされたときは、私は50'sの曲をたまに聴くくらいで、申し訳ないけどかまってちゃんに限らず当時のバンド全体に疎かったんですよ。だから対談をOKしてから「どんな人たちなんだろう?」って思って、もらった資料を封筒から出してみたんですね。そしたらCDに「つまんね」「みんな死ね」って書いてあって。「うわー、しまったなー」って。

かまってちゃん一同 はははは。

戸川 めちゃめちゃなノイズの中でそういう言葉ばっかり連呼するバンドなのかと思ったんです(笑)。「お受けするかお断りするか、ちゃんと聴いてから考えるべきだったな」って後悔しながら聴いてみたら……すごかった! 私よりも全然若い人たちの音楽なのに、私は救われたんですよ。

──どういうところに救われたんですか?

戸川 私、自分には青春時代がないと思ってたんです。みんなが楽しく明るく青春をやっているときに、家庭環境はメチャメチャで、学校でもいじめられてて。受験に失敗して入った女子校では友達を作らなかったし、芸能活動の時間欲しさに大学も半年で行かなくなったし、仲間という言葉も好きではなかったし、失恋とかの悲しい思い出も、青春らしい浮き沈みが何もなかった。なので、青春を卒業してないから、自分は一生悩み続けるんだろうと思っているんです。でも神聖かまってちゃんを聴いていたら、いくつになっても青春のことで悩むのって、まだ青春が終わってないということ、つまり自分は一生青春だということなのかもしれないって思えてきて。「つまんね」と「みんな死ね」には、今私が青春だと感じているものが含まれていたんです。

みさこ 私も青春時代と呼ばれる時期を過ごしてこなかったんですけど、もしその頃に青春をやりきっていたら、私はたぶんバンドをやっていない。まったくやりきれずに取りこぼしたものがすごく多いから、今も抗って青春にしがみついているのかもしれません。

戸川 今この話をしていて思い出したんですけど、初めてのソロアルバム(1984年発表「玉姫様」)を出した頃に、ドヴォルザークの「ユーモレスク」に歌詞を付けた「箱に入った8月」っていう曲を作ったんですよ。同時期に同じレーベルから「鏡の中の十月」っていう似たタイトルの曲(1983年発売の小池玉緒のシングル)が出たのでそのタイミングで発表するのはやめて、去年「戸川純の童謡唱歌」ってアルバムにボーナストラックとして収録したんですけど。その曲で「17の頃誰もがみな 卒業したものって何? 知らないうちに大人になり 忘れてゆくものって何?」と歌っていて、21歳のときに自分が書いた歌詞からかまってちゃんを感じたんですよね。

戸川純

戸川純

の子 そうなんですね。うれしいです。ありがとうございます。

戸川 あとかまってちゃんがいいなと思ったのは、音楽で人を救おうとか応援しようとか全然思っていないところ。私もまったく同じなんですけど、の子さんは自分を鼓舞するだけのために表現をしてるんですよ。だから聴く人は、それに“共感する”という形で救われる。

みさこ まさに私がかまってちゃんでがんばっているのはそこなんです。戸川さんの曲もの子さんの曲も、本人は自分のために作っているだけかもしれないけど、その曲に出会ったことで生き方が変わる人もいっぱいいるはずで。だからその曲が必要な人に届くように、バンドが有名になるようにするのは私たちメンバーの仕事だ、という気持ちがあるんですよね。

の子 えっ! めっちゃいいこと言ってくれてる! 俺その言葉うれしいわ。

みさこ そして私は自分たちの曲だけでなく、戸川さんの音楽にもたくさんの人に出会ってほしいし、少しでもそのきっかけになれたらうれしいんです。

戸川 かまってちゃんから私を知ってくれた人はいっぱいいますよ。本当にありがとうございます。

みさこ 戸川さんかかまってちゃんか、どっちかが好きだったら、もう片方をまったく理解できないってことは絶対にないはずだと思います。

戸川 そうかもしれない。昔、大人が読む難しい雑誌で「玉姫様」のレビューが書かれていて、そこに印象的な言葉があったんです。「希望とみまがうような絶望に、不覚にも落涙してしまうのであった」って。「蛹化の女」について書かれたその言葉を、私はかまってちゃんのほとんどの曲にも感じています。