音楽ナタリー Power Push - 神聖かまってちゃん
精神科医・斎藤環との対話
心が底辺であれば不安はない
斎藤 「進撃の巨人」ってマンガの作者の諫山創さん、かまってちゃんの大ファンなんですよね。私、先日諫山さんをインタビューしたんです。あの人、今すごい儲かってるじゃないですか。
の子 あはは(笑)。そりゃ儲かってるでしょうけど、だからってあんまり本人は変わらないと思いますよ。
斎藤 そうなんです。全然変わってない(笑)。
の子 逆に、お金を手にして変わる人ってそうそういないもんだなと思いますけどね。自分もバンドである程度お金もらえるようになって、あそこまで儲かってはないですけど、バイトしないで生活できるくらいにはなったから。でも別に何も変わってないですよ。
斎藤 とはいえね、ホント驚くほど変わってなくて。大げさに言えば、心が中学生のままみたいな感じなんですよ。あれだけの人気作を描いたのにいまだに自分の作品に自信がないし、自己評価が異常に低いんですよ。
の子 へえー! 逆に俺は自己評価が高いんですよ。自分が作った曲は大好きだし。
斎藤 そうですよね。だから諫山さんが自信がないっていうのが意外だったんですよ。の子さんは自分の作品に自信があるなら、今よりもっと売れたいですか?
の子 売れたいですよ。けど、最終的には「どっちでもいい」ってなる。それが自分の卑怯なところだと思います。要するに、俺は予防線を張ってるんです。
斎藤 売れたいなら、どっちでもいいなんて言ったらダメなんじゃないですか?(笑)
の子 そう、ダメなんです。だからインタビューでも配信でも、毎回「売れたい」って言っておくべきだと思ってるんですよ。でも本質的には……。
斎藤 本質的にはどうでもいいと思っている?
の子 カッコつけてるわけじゃないですけど、「常にこたつの中に居続けてる自分でいたい」という気持ちがあって。夜通しバイトして早朝帰ってくる生活をしてた、あのときの感覚を忘れたくないんです。あの感覚をずっと自分の中に維持しとけば、「最悪でも、あの日に戻るだけ」って思えて、何も怖いものはない。むしろあの感覚を忘れてしまうのがホントに怖かったりします。
斎藤 確かに、昔の生活で満足できるなら「そんなに売れなくてもいいか」ってなりますね。
の子 うん、心が底辺であれば不安はない。いや、底辺なんて言ったら今そういう生活してる人に失礼ですけど(笑)。
斎藤 初心を忘れないっていう意味では素晴らしいと思うんですけど、でも保険でもあるんですかね?
の子 保険でもあると思います。だから、俺はずるいなって思ってます。
斎藤 ものすごく売れて、セレブっぽくなってしまうのはキャラクター的にマズい、みたいな気持ちもあるんですか?
の子 ああ……、どうかな?
斎藤 リムジンでシャンパンを飲むとか、そんな生活になれるかもしれないとしたら?
の子 なってみたいかもしれません。なんて言うか、そういう世界に自分を突っ込んでみたいっていう気持ちもあるんですよね。もし俺がそうなったら面白いじゃないですか。
斎藤 その環境に自分を突っ込んだらどんな反応が出るか、みたいな?
の子 そう、どんなことになるんだろうって。さっき諫山先生は儲かっても変わらなかったと言ってましたけど、俺はなってみないとわかんないです。どうせ雰囲気に飲まれて、自分が俗物的な感じになるだけで、あんまりいいことはないと思いますけど。
斎藤 もしの子さんがセレブになったら、例えば曲が作れなくなるとか、そういう影響はありそうですか?
の子 曲は作れるんですけど、すごくハッピーでポジティブな曲になるんじゃないですかね。で、発表したあとでファンに叩かれるっていう(笑)。でも俺、それってファンに対して歯向かってるわけでも逆らってるわけでもないんですよ。俺がひねくれてないってことなんです。ポジティブなときにネガティブなもの出そうとしても無理じゃないですか(笑)。
斎藤 まあねえ。
の子 だから俺、ライブをやるのも大変なんですよ。たまに精神的に落ち込んでるときに、前向きな曲は歌いたくなくなって、セトリを直前にガラッと変えるんです。逆に明るい気分なのに暗い曲で埋め尽くされたときも変えてますね。最近はそういうことはないようにしてるんですけど。
配信者は「過疎るよりは『死ね』って書かれるほうがうれしい」って言う
斎藤 自作のMVをネットで公開していますけど、ご自分で映画を撮りたいとか、そういう気持ちはないんですか?
の子 映画はちょっと……。撮影現場を見て「俺には向かないかな」って思った(笑)。作品を作るときに他人の手が加わると、自分が他人に対してかなり厳しくならない限りは妥協が生まれてしまう。優しい人だとダメなんです。俺はどっちかって言うと優しいほうだと思います。
斎藤 共同作業が苦手ということですか。
の子 世の中には天才がいっぱいいて、そういうのが集まることで奇跡の作品が生まれたりするもんなんですよ。映画に限らず音楽も。だから俺もそういう人との出会いがあれば、すごいとんでもないものが作れると思うんです。ただ、自分が作ってるものに人の手が入るのは絶対ストレスがたまるので、それ考えたら怖いです。
斎藤 ははは(笑)。
の子 俺は作品には妥協できないんで。昔から言ってるんですけど、CDに録音されたものは俺にとっては「仕事」なんですよ。そして個人でMTRで宅録して作ったものが「自分の作品」だと思ってる。
斎藤 趣味ってことですか?
の子 いや、むしろそっちが本業。
斎藤 バンドのみんなで演奏することで、いわゆるケミストリーが起こることはありませんか?
の子 やっぱりありますね。でも、ケミストリーを一番起こしてくれるのはバンドじゃないっす。ファンの存在のほうがでかいんじゃないかって思う。それは配信してても思う。配信だと反応がダイレクトなんで。
斎藤 じゃあ、それもヒントにして作品作りをしてるんですか?
の子 それはヒントにはならないです。悪口しか書かれないしムカつくだけですもん(笑)。
斎藤 別に必ずしも悪口しか書かれないわけじゃないでしょ? (笑)
の子 そうですけどね。
斎藤 私はニコ生の配信者を何人か知ってますけど、皆さん「過疎るよりは『死ね』って書かれるほうがうれしい」って言うんですよ。で、そうやって配信をしてるうちに引きこもりから脱出できた人が2人ぐらいいるんですよね。彼らは配信でリスナーからのいろんな書き込みを読むうちに承認されてる気持ちになって、だんだん自信がついて外に出てきたんです。
の子 まあ確かに、セラピーになりますもんね。
斎藤 やっぱりなりますか?
の子 いや俺はわかんないですけど(笑)。配信っていうのはリアルタイムでの会話のキャッチボールなんで。俺はコメント読んでたまに怒りますけど、しゃべりまくって怒りを吐き出してるから、悪く言われてもストレスになんないんですよね。
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- ベストアルバム「ベストかまってちゃん」2015年6月24日発売 / Warner Music Japan
- 初回限定盤 [CD2枚組+DVD] 5000円 / WPZL-31016~8 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 3240円 / WPCL-12088 / Amazon.co.jp
CD収録曲
- ロックンロールは鳴り止まないっ
- ぺんてる
- ちりとり
- 夕方のピアノ
- 美ちなる方へ
- いかれたNeet
- ベイビーレイニーデイリー
- 怒鳴るゆめ
- グロい花
- 23才の夏休み
- 仲間を探したい
- 友達なんていらない死ね
- コンクリートの向こう側へ
- ズッ友
- ロボットノ夜
- 自分らしく(2015年新録音ver.)
初回限定盤DISC 2収録曲
- 23才の夏休み feat. でんぱ組.inc
- 僕は頑張るよっ feat. 榊いずみ
- 笛吹き花ちゃん feat. 上坂すみれ
- 肉魔法 feat. 赤飯
- フロントメモリー feat. 川本真琴
- Os-宇宙人 / エリオをかまってちゃん
- ロックンロールは鳴り止まないっREMIX feat. tofubeats
初回限定盤DVD収録内容
神聖かまってちゃん「妖怪かまってちゃんネットウォッチツアー」ワンマンライブ@赤坂BLITZ
- オルゴールの魔法
- ゆーれいみマン
- 友達なんていらない死ね
- 夜空の虫とどこまでも
- 彼女は太陽のエンジェル
- 背伸び
- ロボットノ夜
神聖かまってちゃん(シンセイカマッテチャン)
の子(Vo, G)、mono(Key)、ちばぎん(B)、みさこ(Dr)の千葉県在住メンバーからなるロックバンド。の子による2ちゃんねるバンド板での宣伝書き込み活動を経て、自宅でのトークや路上ゲリラライブなどの生中継、自作ビデオクリップの公開といったインターネットでの動画配信で注目を集める。2010年3月に初のCD作品となるミニアルバム「友だちを殺してまで。」を発表したのち、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・unBORDEと契約してメジャーデビュー。子供の頃の暗い記憶やニートの抱える不安な感情などを美しいメロディに乗せた楽曲、予測のできない破滅的なライブパフォーマンスでファンを増やした。2014年9月に約2年ぶりとなるフルアルバム「英雄syndrome」をリリースし、翌2015年6月には初のベストアルバム「ベストかまってちゃん」を発表。このベストアルバムの初回限定盤に付属したCD“フィーチャリングボーカル盤”には、ゲストボーカルとしてでんぱ組.inc、榊いずみ、上坂すみれ、赤飯が参加したセルフカバーなどが収録されている。
斎藤環(サイトウタマキ)
1961年9月24日生まれの精神科医。筑波大学医学医療系にて社会精神保健学の教授を務める。ひきこもりやいじめ後遺症といった思春期の精神病理学を専門領域とし、「社会的ひきこもり--終わらない思春期」を始めとした数々の著書を出版。マンガや映画などのサブカルチャー、オタクカルチャーに精通しており、著書「戦闘美少女の精神分析」ではアニメで描かれる少女に対する“萌え”を分析した。