音楽ナタリー Power Push - 神聖かまってちゃん
精神科医・斎藤環との対話
神聖かまってちゃんがCDデビュー5周年を記念して初のベストアルバム「ベストかまってちゃん」をリリース。これにあわせてナタリーでは、精神科医で筑波大学教授の斎藤環氏を迎え、の子(Vo、G)との対談を実施した。
斎藤氏は引きこもり治療の第一人者として数々の著書を出版した医学博士であり、サブカルチャーやオタクカルチャーにも造詣が深い人物。神聖かまってちゃんの活動に注目し、精神医学の専門誌「こころの科学」に昨年、かまってちゃんをテーマにした「『無敵』のロックンロール!」と題した8ページの論文を寄稿している。
彼らはこの日が初対面だったがすぐに話が盛り上がり、の子はこれまで語られなかったさまざまな思いを吐露。終電の時間が来てタイムアップになるまで、2人はノンストップでトークを繰り広げた。
取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 笹森健一
「ヘタしたら死んでるんじゃねえかな」って思ってた
斎藤環 ベストアルバムの発売、おめでとうございます。以前の子さんのソロ名義でベストっぽいのを出してましたけど、バンドでは初めてですよね。
の子 そうですね。レーベルとの契約的な理由もありつつ。俺ももともとベストアルバムを出したいって思ってたんで、今回は利害一致みたいな。
斎藤 どうして出したかったんですか?
の子 やっぱり休めるんで。まあ不労所得みたいなもんです(笑)。
斎藤 そんなことはないでしょ(笑)。それにしても、メジャーデビューから5年も経ったんですね。
の子 そうですね。その間に毎年オリジナルアルバムを出し続けてきたんで、今年はちょっと落ち着ける年にしようかなと。まあなんだかんだでツアーとかいっぱいあるんですけど。自分も最近30歳になったんで。
斎藤 そういえばこの間、誕生日でしたよね。おめでとうございます。
の子 ありがとうございます。
斎藤 30歳を迎えることができると思ってました?
の子 ふふふ(笑)。正直、10代の頃に2015年の未来像が描けてたかというと、何も描けてなかったです。精神的な面で自制が効かないところがあったんで、やっぱり「ヘタしたら死んでるんじゃねえかな」みたいなところもあったし。だからまさかバンドも、この歳になってこう低空飛行な感じで続いてると思わなかった(笑)。
斎藤 低空飛行ってことはないでしょ、ベストアルバム出すのに(笑)。
の子 いや、これが売れなかったら今回で契約がなくなると思いますよ。でも、今インディーズになったところで何が変わるってこともないと思いますけど。個人的にはメジャーかインディーズかはそこまで気にしてないです。やっぱりメディアへの打ち出し方は大幅に変わるだろうなってことくらいで。露出が減れば人からの見られ方も変わるから、「終わってんな」みたいな意見がネットで増えるだろうと思うけど、それは今でもすでに言われてることだから(笑)。
斎藤 ミュージシャンの人気度の指標って、CDの売上枚数だったりライブの動員数だったりいろいろあると思いますが、の子さんの場合は配信もあるわけじゃないですか。
の子 そうですね。今はネットで人気が数値化してますからね。配信のリスナー数だったり、Twitterのフォロワー数だったり、全部数字で計られてる感じはあります。
斎藤 その中で、の子さんは何を気にしますか?
の子 とりあえずCDの枚数は全然気にしないですね。売れてるバンドはちゃんと気にしてるんでしょうけど、ウチらレベルだとヤケクソになってどうでもよくなってるんで(笑)。Twitterのフォロワー数も、一時期は気にして自撮り写真とかいっぱい載せてがんばってたんですけど、アップデートしたらフォロワー数の文字のサイズが小さくなったから、目に入らないのでまったくもって気にしなくなりました。
稼げないからみんな10年くらいしたらバイトしてるんじゃないか
斎藤 SNSはTwitter以外に何かやってますか?
の子 やってないですね。そんなのやらなくても、配信やってればそこで出るもの全部出ちゃうんで。
斎藤 ああ、それが一番手っ取り早いと。
の子 そうですね。それと、最近はニコ生にユーザーチャンネル(リスナーからの課金収益の一部がチャンネルオーナーに支払われるサービス)ができたことで配信者も商業化してる人がいて、俺も運よくそのチャンネルをもらえたので、そこで少し稼ぎがあるんですよ。俺はそれがすごくうれしいんです。音楽は音楽で、もちろん夢を持ってやってたんですけど、俺は10代の頃からネットにすごく夢を託してて、新しいアーティストのあり方を模索していたので、ネットの活動で収入があるのは感慨深いんです。
斎藤 なるほど。
の子 ぶっちゃけ、音楽なんてもう稼げないんです。これで一生確実に稼ぐなんてありえないんで。いや“(※俺らレベルだと)”っていうカッコ付きの話ですけど(笑)。
斎藤 音楽業界もいろいろ厳しいって話を聞きますね。
の子 それは年々感じますよ。はっきり言って配信での収入のほうがデカくなんじゃねえかなって思いますもん。それはネットで稼げてるって意味じゃなくて、それくらい音楽で稼げないってことですけど。これは別に俺だけの話じゃないと思います。今人気でも、あと5年とか10年したらバイトしてる人いっぱいいるんじゃないですか。マジでそう思いますよ。
斎藤 そうなったときに、かまってちゃんの配信による収益構造が1つのロールモデルになるんじゃないですかねえ。
の子 そんなこと言われたら俺、すごい勝ち気になっちゃいますね。「俺が先駆者だぜ!」みたいな(笑)。
自分を破滅的な方向に追いやるために薬を飲んでいた
の子 俺、先月めっちゃ体を崩して倒れたんです。
斎藤 あら、どうしたんですか? 過労ですか?
の子 わかんないです。だから最近ジョギングとか、運動するようになりました。30歳になる間近に急にそれが起きたんで、「俺も30前に死ぬミュージシャンの仲間入りかー」とか思って(笑)。昔からそういう人けっこういるじゃないですか。
斎藤 いますねえ。でもの子さんはドラッグをやってるわけじゃないでしょ?
の子 やってないですよ! ホントにドラッグは1回もやったことないですから(笑)。もうタバコだってやめてますから。まあタバコは、曲作りとか配信中とかにたまに吸っちゃうんですけどね。
斎藤 精神薬は何種類ぐらい飲んでます?
の子 今はマイスリーとリーゼ、リーマスの3種類だけ。10代から20代前半の頃は、薬との付き合い方がわかってなかった面があって、濫用しちゃったりしてたんですけど。
斎藤 OD(オーバードーズ)しちゃいました?
の子 配信中にやったことがあります。アルコールと一緒に流し込んで、そのまま気絶してしまって。ホントいけませんね。でも若い頃は特に、破壊衝動が自分に向かうことがたまにあったので、今考えると「そりゃそうなるよな」って思います(笑)。かまってちゃんのファンにはメンヘラと呼ばれる人たちがいるので配信でたまに話すんですけど、特に10代くらいの若い子は、薬との付き合い方がわかんなくて余計に悪化させてる子が多いと思うんです。直すつもりで薬を飲み始めたのに、逆に自殺する方向に行ってしまうとか。いや、それはあくまで俺の持論なんですけど。ぶっちゃけた話、精神薬ってまだはっきりとわかってない部分がありますよね?
斎藤 うん、全然わかってないですよ。しかも日本で2番目に多い依存症は処方薬依存ですからね。精神薬を飲み始めたことがきっかけで最悪の結果を迎えるというのは、残念ながらあり得ます。
の子 まあ俺には「飲むな」なんて絶対に言えないんですけど(笑)。メンヘラと呼ばれる人たちは、もともと「死にたい」っていう願望がある人が多いから、薬でその第1歩を後押ししたら自殺への道にそのまま行ってしまうだけだと思う。そういえば10代の頃、病院の先生に「君が持ってる薬を全部よこせ!」っていきなり怒られて、めっちゃケンカしたことがあって。
斎藤 ODしたあとですか?
の子 いや違います。病院を変えて、新しい先生だったんです。で、「君が持ってる薬を全部返せ!」とか言われて。返せも何も、その病院からもらった薬じゃないのに(笑)。でも今思うとその先生が言ってたことに「なるほど」って思うところもあって。正直そのとき、自分をものすごく破滅的な方向に追いやってて、それを助長するために薬を飲んでいたところがあって。……まあ昔の話みたいに言ってるけど、これから先もそういうことがないとは言えない。それを考えたら自分としても気を付けたいところですね。
斎藤 の子さんもかつて「死にたい」と歌っていましたが、そういう気持ちはだんだん減ってきていますか?
の子 やっぱり20代前半のときと今を比べたら、そういうのは減ってますね。
斎藤 それはなぜですか? 成熟した?
の子 成熟でもありますけど、今言ったような「精神薬との付き合い方」がはっきり言って一番でかいと思ってます。
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- ベストアルバム「ベストかまってちゃん」2015年6月24日発売 / Warner Music Japan
- 初回限定盤 [CD2枚組+DVD] 5000円 / WPZL-31016~8 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 3240円 / WPCL-12088 / Amazon.co.jp
CD収録曲
- ロックンロールは鳴り止まないっ
- ぺんてる
- ちりとり
- 夕方のピアノ
- 美ちなる方へ
- いかれたNeet
- ベイビーレイニーデイリー
- 怒鳴るゆめ
- グロい花
- 23才の夏休み
- 仲間を探したい
- 友達なんていらない死ね
- コンクリートの向こう側へ
- ズッ友
- ロボットノ夜
- 自分らしく(2015年新録音ver.)
初回限定盤DISC 2収録曲
- 23才の夏休み feat. でんぱ組.inc
- 僕は頑張るよっ feat. 榊いずみ
- 笛吹き花ちゃん feat. 上坂すみれ
- 肉魔法 feat. 赤飯
- フロントメモリー feat. 川本真琴
- Os-宇宙人 / エリオをかまってちゃん
- ロックンロールは鳴り止まないっREMIX feat. tofubeats
初回限定盤DVD収録内容
神聖かまってちゃん「妖怪かまってちゃんネットウォッチツアー」ワンマンライブ@赤坂BLITZ
- オルゴールの魔法
- ゆーれいみマン
- 友達なんていらない死ね
- 夜空の虫とどこまでも
- 彼女は太陽のエンジェル
- 背伸び
- ロボットノ夜
神聖かまってちゃん(シンセイカマッテチャン)
の子(Vo, G)、mono(Key)、ちばぎん(B)、みさこ(Dr)の千葉県在住メンバーからなるロックバンド。の子による2ちゃんねるバンド板での宣伝書き込み活動を経て、自宅でのトークや路上ゲリラライブなどの生中継、自作ビデオクリップの公開といったインターネットでの動画配信で注目を集める。2010年3月に初のCD作品となるミニアルバム「友だちを殺してまで。」を発表したのち、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・unBORDEと契約してメジャーデビュー。子供の頃の暗い記憶やニートの抱える不安な感情などを美しいメロディに乗せた楽曲、予測のできない破滅的なライブパフォーマンスでファンを増やした。2014年9月に約2年ぶりとなるフルアルバム「英雄syndrome」をリリースし、翌2015年6月には初のベストアルバム「ベストかまってちゃん」を発表。このベストアルバムの初回限定盤に付属したCD“フィーチャリングボーカル盤”には、ゲストボーカルとしてでんぱ組.inc、榊いずみ、上坂すみれ、赤飯が参加したセルフカバーなどが収録されている。
斎藤環(サイトウタマキ)
1961年9月24日生まれの精神科医。筑波大学医学医療系にて社会精神保健学の教授を務める。ひきこもりやいじめ後遺症といった思春期の精神病理学を専門領域とし、「社会的ひきこもり--終わらない思春期」を始めとした数々の著書を出版。マンガや映画などのサブカルチャー、オタクカルチャーに精通しており、著書「戦闘美少女の精神分析」ではアニメで描かれる少女に対する“萌え”を分析した。