ナタリー SuperPowerPush - 神聖かまってちゃん
ニューアルバム「楽しいね」総力特集
神聖かまってちゃん5th NEW ALBUM「楽しいね」全曲試聴会 & ~夏だ!花火だ!神聖かまってちゃんだ!~ねこねこインターネットツアー前夜祭 in 渋谷屋根裏
神聖かまってちゃんのニューアルバム「楽しいね」の全曲試聴会が、発売日を直前に控えた11月12日に開催された。この試聴会はライブハウスの大音量で発売前の新作をいち早く聴けるというもので、イベントの後半にはワンマンツアー「~夏だ!花火だ!神聖かまってちゃんだ!~ ねこねこインターネットツアー」の前夜祭的な位置付けのライブも行われた。
会場となった東京・渋谷屋根裏は、かつて彼らがマネージャー・劔樹人など所属事務所パーフェクトミュージックの面々と出会った場所でもあり、1stアルバム「友だちを殺してまで。」のリリース時にレコ発ライブを実施した会場でもある。また最初期の彼らが主な活動の場としていたライブハウスということもあり、バンドにとって原点とも言える舞台だ。
本特集ページでは前半のアルバム試聴会、後半のライブの模様をそれぞれレポートする。
試聴会レポート
神聖かまってちゃんが過去に発表したアルバムは、の子がネット上で公開した宅録音源をバンドメンバー全員で"清書"するという基本的な流れのもとに制作されていた。そのため過去作品はいずれも傑作揃いではあるものの、勢いやインパクトの面では宅録デモが持つ独自の魅力を支持する声も少なくなかった。
しかし今作「楽しいね」は、さまざまな試行錯誤の末に、デモで描かれた世界観を損なうことなくCD音源で力強く描写することに成功。さらにの子1人では表現しきれなかった部分が補完され、全ての曲がデモから「完全版」と言える内容にグレードアップを果たしている。演奏面ではちばぎん、mono、みさこのプレイヤーとしての成長ぶりが鮮明に感じられ、の子もボーカリストとしてより魅力的な存在に変貌していることがわかるだろう。以下では試聴会で披露された全10曲について、その内容を1曲ずつ解説していく。
01. 知恵ちゃんの聖書
先行シングルとしてリリースされた「知恵ちゃんの聖書」は、曲中に登場する「布教活動する知恵ちゃん」に語りかける歌詞が印象的な楽曲。の子は、純粋すぎるゆえに社会から歓迎されない知恵ちゃんについて「天使のような人目指して みんなから嫌われて 傷つくもんだと思います」と歌い、そんな彼女を「それでもね 知恵ちゃんは 優しい人でいなさいな」と励ます。また知恵ちゃんへのメッセージを通して、の子自身の人生観もあらわになる。強烈なまでに神々しいシンセサイザーや、切れ味の鋭いギター、粒の立ったリズム隊など、サウンド面でもリード曲にふさわしくアルバム全体の方向性を示唆する1曲だ。
02. 仲間を探したい
かつての名曲「いくつになったら」などにも通じる切ないメロディを持つ正統派ロックナンバー。歌詞では「夕暮れ」や「夏休み」といった、彼らにとって重要なフレーズが使われており、「これぞ神聖かまってちゃん」と言える世界観が熱く歌いあげられている。友情をノスタルジックに描いているものの、「友達が欲しい」ではなく仲間、つまり目的を共有する同志を探したいという点が、この曲と自身のバンドに込めたの子の思いを感じさせる。
03. 友達なんていらない死ね
直前の「仲間を探したい」とは真逆のテーマの楽曲。ここで歌われているのは周囲を徹底的に拒絶する感情や切羽詰まった精神状態だが、それをヘラヘラと自虐的に笑うかのようにサウンドはやたらと陽気なものとなっており、むしろ事態がより深刻で真に迫ったものだと思わされる。後半にはダンサブルな四つ打ちのビートが加えられ、高揚感あふれる仕上がりに。
04. コンクリートの向こう側へ
聖歌を思わせる荘厳なコーラスがメインボーカルを埋もれさせるほどに厚く重ねられたスローナンバー。ノイジーでダウナーだったデモバージョンと比べて音像がクリアになり、分離がはっきりしたこともあって、今作の中ではデモからの印象が最も大きく変化した音源となった。白い光に包まれるような幸福感、浮遊感を持ったこの曲は、の子が自身の音楽性を説明する際によく使う「ホーリー」という形容詞を理解するのにピッタリの楽曲だろう。
05. ベルセウスの空
ケルト音楽のようなメロディと、不安定な変拍子が混じるワルツのリズムで構成された意欲作。一聴するとファンタジックな歌詞だが「ホーキにまたがるあの子も地上が嫌なんだろうな」というフレーズからわかるように、ここで描かれる「空を自由に飛びたい」という思いは無邪気な夢ではなく「地上から逃げ出してずっと1人でいたい」という感情からくるものだ。これはかつて「スピード」で歌われた「一人ぼっちになりたければ 走れ走れスピードで 誰にも見えないスピードで」といった歌詞にも通じるもの。各メンバーの演奏もこれまでとは段違いの成長を感じさせるクオリティとなっており、後半の転調後には一層密度と広がりを増した音の洪水が押し寄せる。
06. 雨宮せつな
「ベルセウスの空」に続く3拍子のこの曲は、かなり早い時期からネット上でデモ音源が公開され、ファンの間では知られていた隠れた人気曲。歌詞では冬の訪れを感じさせるある日のワンシーンを叙情的に切り取っている。トラックは、サイケデリックで幻想的な雰囲気はそのままに、デモバージョンにはなかった鐘の音や鈴の音がうっすらと加えられており、クリスマスムードを強く感じさせてくれる。
07. 2年
「2年後に2年前の今の僕らを笑い飛ばせるように」「2年前も僕は同じことを呟いたりしたよ」と、うだつが上がらないまま時間だけが経つ焦燥感と将来へのひと握りの希望をキャッチーなメロディに乗せて歌ったロックチューン。元々は前身バンド「びばるげばる書店」で発表していた楽曲をリメイクしたもので、長い時を経て演奏力が大幅に向上したのはもちろんのこと、歌詞も以前のバージョンからはかなり変更されている。
08. らんっ!
大会に向けて訓練に励むランナーを描いた、神聖かまってちゃんとしては珍しいテーマの楽曲。「走る事もやめる事もできやしない ランナーじゃ死ぬだけさ」というフレーズなどは、プロとしての覚悟を決めた自らの気持ちに重ね合わせて歌っているようにも感じられる。中盤、の子の「加速して」という言葉をスイッチに楽曲のBPMも一気に加速。畳み掛けるようなアンサンブルからのブレイクなど、スリリングな展開でリスナーをグイグイと引き込んでいく。
09. 鳥みたくあるいてこっ
「自分の未来を自分で描いていこう」というポジティブなメッセージは、まさに神聖かまってちゃんの「2ページ目のストーリー」を予感させる内容。鋭利にとがったリードギターと幾重にも重ねられたキーボードが、徹底的にスキマを埋めるように絡み合う。昨年YouTubeで公開されたデモバージョンと比べると、バンド演奏によってサウンド面が大幅に洗練。また音質の向上によって見晴らしの良さも加えられ、前向きな楽曲の世界観がより際立つ仕上がりとなった。
10. 花ちゃんはリスかっ!
自傷がテーマのこの曲は、Cメロの展開が同じことからも「笛吹き花ちゃん」の続編と思われる。大仰なゴシック風シンセに轟音ギターが被さるイントロから、歌が始まると一転して存在感のある太いベースが性急なビートを刻む。バンドの演奏はアルバムのラストに向けて一層勢いを増し、ボーカルは身を切るような切実さで「花ちゃんこいつらha全員敵だから」とその歌声を振り絞る。全方位に向けて攻撃性をむき出しにした内容ながらも、最後には聴く者の胸を打つ感動的なフィナーレを迎える。
CD収録曲
- 知恵ちゃんの聖書
- 仲間を探したい
- 友達なんていらない死ね
- コンクリートの向こう側へ
- ベルセウスの空
- 雨宮せつな
- 2年
- らんっ!
- 鳥みたくあるいてこっ
- 花ちゃんはリスかっ!
神聖かまってちゃん(しんせいかまってちゃん)
の子(Vo, G)、mono(Key)、ちばぎん(B)、みさこ(Dr)の千葉県在住メンバーからなるロックバンド。の子による2ちゃんねるバンド板での宣伝書き込み活動を経て、自宅でのトークや路上ゲリラライブなどの生中継、自作ビデオクリップの公開といったインターネットでの動画配信で注目を集める。
2009年には1600組の応募バンドの中から選ばれ、一般公募枠で「SUMMER SONIC 09」に出演。2010年3月に初のCD作品となるミニアルバム「友だちを殺してまで。」を発表した後、ワーナーミュージック・ジャパンと契約し、2010年12月にメジャーレーベルのワーナーから「つまんね」、インディーズレーベルのPERFECT MUSICから「みんな死ね」という2枚のアルバムを同時リリースした。
2011年4月にはバンド史上最大規模の会場となる両国国技館ワンマンライブを行う予定だったが、東日本大震災の影響により中止に。これを受け、4月から6月にかけて全国8都市を回るフリーライブツアーを敢行した。2012年 11月にはメジャー3作目となるアルバム「楽しいね」をリリース。子供の頃の暗い記憶やニートの抱える不安な感情などを美しいメロディに乗せた楽曲、予測のできない破滅的なライブパフォーマンスでファンを増やし続け ている。
2012年11月21日更新