畑山悠月(KALMA) 石原慎也(Saucy Dog)|兄弟のような2人が語るスリーピースバンドならではの共通点

KALMAが10月20日に初のフルアルバム「ミレニアム・ヒーロー」をリリースした。

このアルバムにはTOKYO MXほかで放送中のテレビアニメ「MUTEKING THE Dancing HERO」のエンディングテーマ「希望の唄」や、6月に先行配信された夏歌「夏の奇跡」のほか、新曲やインタールードを加えた全14曲が収録されている。

音楽ナタリーでは本作の発売を記念して、KALMAのフロントマン畑山悠月(Vo, G)と、彼らと親交の深いSaucy Dogの石原慎也(Vo, G)による対談を実施。2人に出会いの経緯や楽曲制作方法、「ミレニアム・ヒーロー」の魅力について語ってもらった。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 大城為喜

「イノセント・デイズ」の泥臭さ、青春感

──お二人の交流はどういうきっかけで始まったんですか?

左から石原慎也(Saucy Dog)、畑山悠月(KALMA)。

畑山悠月(KALMA / Vo, G) 僕らが高校3年生の頃に「イノセント・デイズ」(2018年11月リリースのミニアルバム)をリリースしたんですよ。そのとき、KALMAのTwitter公式アカウントの「リリースします!」というツイートに(Saucy Dogの石原)慎也さんがいいねをしてくれて。それで「もしかしたらKALMAのことを気にしてくれているのかな?」と思ったので、僕の個人アカウントからミュージックビデオのURLをDMで送ったのが始まりでした。

石原慎也(Saucy Dog / Vo, G) そうみたいです。

──石原さんは当時のことを覚えていないんですか?

石原 正直あんまり覚えていないんですよ。だけど今考えると、僕は高校生の頃KALMAほど本格的に活動できていなかったので、たぶん「高校生なのにCD出してすごいな」という気持ちでいいねをしたんだと思います。その話をさっき悠月から聞いたので、当時のDMを探してみたんですよ。サウシーのことについても書いてくれていて、すごく長文でした。

畑山 僕の長文に対して、慎也さんの返信は2文だけ(笑)。

石原 (笑)。でもそれが3年前なのかー。

畑山 そうなんですよ。

石原 そのあと「イノセント・デイズ」のサンプル盤をうちの事務所に送ってくれたよね。手書きの手紙も一緒に入っていたんですけど、「音源聴いてください!」「僕Saucy Dog大好きなんです!」みたいに書いてくれていて。

畑山 ただのファンレターですね(笑)。

──石原さんは「イノセント・デイズ」を聴いてどう思いましたか?

石原 すごくいいなあと思いました。そのあと「DAYS E.P.」(2019年10月発売)の音源も送ってくれたと思うんだけど、確か「俺は『イノセント・デイズ』のほうが好きだったな」という話をした気がする。もちろんどっちもいい作品なんだけど、俺は「イノセント・デイズ」の泥臭さ、青春感が特に好みだったというか。

畑山 「DAYS E.P.」は高校を卒業したばかりの時期に作ったものでしたからね。「イノセント・デイズ」のほうが演奏も粗いけど、確かにあの粗さは高3だからこそ出せたものだったかもしれません。

僕って生意気ですか?

──畑山さんはもともとSaucy Dogが好きだったんですよね。それが今となっては、対バンをするほどの仲になったということで。

畑山 サウシーと対バンできるのも、こうして慎也さんと対談できるのも、僕にとってはすごいことなんですよ。ましてや大好きな人の家に行ける日が来るなんて思ってもいなかったので……。

石原 そう、何回かうちに来ているんですけど、こいつマジで図々しいんですよ(笑)。北海道から東京に来るたびに「今日何してます?」と連絡してくるし、「慎也さんち行っていいですか?」と急に言ってくるし。

畑山悠月(KALMA)

畑山 え、僕って生意気ですか?

石原 うん、生意気(笑)。俺、こういうタイプの人間と接するのが初めてなんですよ。自分だったら年上の人に対して「家行っていいですか?」なんて絶対に言えないし、先輩と話すときはどうしても後輩感が出ちゃうし。だけど悠月は後輩というよりも弟みたいな感じで来てくれるから、親近感が湧くし接しやすい。結局はないものねだりだけど、俺はそうなれないからこそ、元気で生意気なくらいのほうがいいと思うよ。

畑山 でも最近、ちょっと気を付けてるんですよ。

石原 気を付けてるって?

畑山 僕は元気で明るいのが大事だと思っているので、例えばラジオ番組に出るにしても、場を盛り上げるためにふざけるようにしているんですよ。だけど、慎也さんのようにかわいがってくれる人もいれば、「こいつ何?」みたいな感じで距離をとられることもあって。結局年上の人からいい印象を持たれやすいのは「おつかれさまです!」「よろしくお願いします!」と挨拶していた真面目なバンドのほうなんです。(スタッフに向かって)だから最近ちょけてないですよね?

KALMAスタッフ まあ、うーん……。

畑山 ほら、この前「最近大人になったね」って言ってくれましたもんね?

石原 (笑)。でも俺の場合、丁寧な感じで来られたら逆にちょっとムズいかも。

畑山 じゃあやっぱり「おつかれさまです!」みたいな態度はやめたほうがいいですか?

石原 あ、でも、それもいいかも。

畑山 え? いいんですか? どうしよう……(頭を抱える)。

石原 ははは。今度1回やってみたら?

初めて比喩を使った「希望の唄」

──今回の対談にあたって、石原さんには「ミレニアム・ヒーロー」を事前に聴いていただいています。気になったポイントはありましたか?

石原 「希望の唄」の「世界中の街に虹をかけながら 通り過ぎてく幸せの風に」という歌詞がいいなあと思いました。

畑山 うれしい!

石原 比喩表現は今まであまりしていなかったよね。これはアニメのタイアップ曲という前提があったから?

畑山 はい。「MUTEKING THE Dancing HERO」(TOKYO MXほかで放送中のテレビアニメ)のエンディングテーマなんですけど、アニメが空想の世界だし、ヒーローアニメということで、今までのリアルすぎる歌詞では届かないところもあると思ったので初めて比喩を使いました。

石原 上から目線な言い方になっちゃうけど、それによって世界がすごく広がったなあと思ったよ。あと、僕と同じように悠月にも「できる限り3人だけの音でやりたい」という気持ちがあると思うんだけど、3人の音だけだとどうしてもチープに聴こえてしまうのがスリーピースバンドの難しいところで。

畑山 そうですね。

石原 だけどKALMAの音源はちゃんとみずみずしいんですよ。ふわーっと弾けるような、霧吹きのような音というか。特に「Millennium Hero」や「モーソー」では広いホールで録っているような音が鳴っているので、いいなあと思いながら聴いていました。

畑山 その2曲は「イノセント・デイズ」の頃のような泥臭さもありますしね。

石原 今は東京でレコーディングしてるの?

畑山 はい。「La La La E.P.」(2020年11月に発売されたE.P.)までは札幌でレコーディングした曲もあったんですけど、最近やっと全曲東京で録るようになりました。

石原 誰が録ってくれてるの?

畑山 何人かの方に録ってもらっているんですけど、「Millennium Hero」や「モーソー」でお世話になったのはBigfish Soundsの田中章義さんというエンジニアさんです。「イノセント・デイズ」を録ってくれた、SHISHAMOやthe HIATUSを録っている柏井日向さんのスタジオの方で、エンジニアさんにしては比較的年齢が僕らと近くて。

石原 なるほど。だからKALMAの音源からは若々しさを感じるのか。「モーソー」は1分半くらい?

畑山 いや、40秒です。

石原 短かっ! 逆に「Millennium Hero」は珍しくイントロが長いよね。

畑山 そうですね、早く歌いたいから、普段はできるだけイントロを短くしているんですけど。

石原 この曲、UKっぽくてよかった。

畑山 本当ですか! 仮タイトルはまさに「Oasis」だったんですよ。慎也さんさすがっすね。

石原 やめてよ(笑)。

畑山 「Millennium Hero」は初めてスタジオでセッションして作った曲なんです。「ライブのSEとして使えるような曲を作りたいよね」と話しているときにディレクターさんから「セッションでもしてみたら?」と言われて。僕は「いや、そんな無茶ぶりされても無理っすよー」と言っていたんですけど、竜也(金田竜也 / Dr)が叩き始めたので、コードもメロディもその場で考えていって。終わったあと、みんなで「めっちゃよくない?」と顔を見合わせました。

石原 へえー。いいね。

畑山 サウシーはセッションで曲を作ることってありますか?

石原 あるよ。「リスポーン」がそう。

畑山 そうなんですか!?

石原慎也(Saucy Dog)

石原 うん。ゆいか(せとゆいか / Dr)が「最近ハチロク(8分の6拍子)の曲がなかったからハチロクがいいんじゃない?」って叩き始めて、秋澤(秋澤和貴 / B)と3人で「じゃあこういう感じはどう?」「いいんじゃない?」って言いながら作っていって。歌詞も含めて3時間くらいでできたよ。

畑山 「リスポーン」は、「レイジーサンデー」(Saucy Dogが2021年8月にリリースした5thミニアルバム)の中で一番好きな曲です。サビのメロディがめっちゃすごいし、だからこそ「慎也さん、苦労して作ったんだろうなあ」と思ったんですけど……あのサビメロもスタジオで浮かんだんですか?

石原 そうだね。楽器がバーッと鳴っている間に歌を入れていって。

畑山 それであのメロが浮かぶんですか?

石原 うん。

畑山 すごい! セッションで作った曲ってほかにもありますか?

石原 最初にセッションで作ったのは「曇りのち」だったかな。

畑山 なるほど、それはちょっとわかる気がします。

石原 実はあの曲を作った頃、俺たちちょっとケンカをしていて。スタジオに入ったときに2人が勝手に合わせ始めたから、「なんなん?」と思った記憶がある(笑)。

畑山 2人で始められるとそれはそれで嫌ですよね。俺らも最近そういうことがよくあるんですよ。陸斗(齋藤陸斗 / B)と竜也が急にNirvanaを合わせ始めて。

石原 あー、そういうときあるよね。

畑山 ドラムはビートさえわかれば演奏できるけど、ベースとギターはコードがわからないと弾けないじゃないですか。だから今までは俺がミスチル(Mr.Children)やサウシーを歌っていると、竜也が入ってきて、陸斗はその間チューニングしているみたいな感じだったんですけど、最近は2人でNirvanaを合わせ始めるんですよ。しかも「ワン、ツー、スリー、フォー」とか言って、曲の頭から。そんなことをやられると寂しくないですか?

石原 でも今までさんざん置いてけぼりにしてたんでしょ? そのくらいええやん。

畑山 でも「どうしたの?」と聞いたら「いや、ドラムとベースを強化しようと思って」と言ってくるんですよ。俺としては「なんでそれを言ってくれないの?」って感じで……。

石原 あははは! めんどくせーな、お前!

畑山 そしたら「いや、悠月は曲作りがあるだろうから……」と言われたんですけど、そういう遠慮はしてほしくないんですよね。言ってくれれば俺もNirvana練習してきたのに……。グループLINEでひと言入れてくれるだけでもよかったのに……。

石原 まあ怒んなや(笑)。そのあと悠月はNirvana練習したの?

畑山 いや、練習しようと思ったけどちょっと難しかったです……。

石原 あはははは。