音楽ナタリー Power Push - kain×佐香智久
友人であり“きっかけの人”歌い手同士の対談
真逆な2人
──佐香さんの書き下ろし曲はアコースティックギターのサウンドが根底にあるのに対し、kainさんはピアノのサウンドがベースになっていて。それぞれ得意としている楽器が違うんですよね?
kain そうですね。僕はピアノでTくんがギター。最近、僕もギターが弾けるようになりたいなって思ってます。
佐香 音楽的経験もけっこう対照的なんですよ。僕は音楽の理論とか全然わからずに曲を作ってるんですけど、kainくんは学校で専門的なことをいろいろ習ってきてるわけですし。
kain こうやって1枚のアルバムに2人の曲が入ると、ギター弾きの人が作る曲と、ピアノ弾きが作る曲って全然違うなって思いますね。
──特にどんなところに違いを感じますか?
kain 例えばTくんが作る曲はとにかくキャッチ―なんですよ。僕はクラシックが基盤にあるので、メロディをポップスっぽくしよう!ってすごく意識しないと歌で映えるような曲にならないんです。どうしても歌モノじゃなくて、楽器で弾くメロディになっちゃうんですよね。それで困ったりします。
佐香 僕はそういうのがない分、どれもこれも似たような曲になっちゃうなと思うときがありますね。過去のメロディのパターンとかをちゃんと勉強してきた人がうらやましいって感じるときもあるんです。いつもギターを弾きながら、なんとなくで曲を作ってるからなあ。
──そうは言っても、佐香さんは楽曲提供の仕事を数多く請け負っていますから、それなりに数多くの楽曲を生み出しているわけですよね?
佐香 自分でもどういう風に作ってるのかよくわからないんですよね(笑)。僕、曲を作ろうってなるのが暇なときなんです。ゲームもそれなりにやって、友達と遊びたい感じでもなく、ほかにやることもなくて家のベッドでゴロンとしてるときに「あ、作ろう!」ってなるんですよ。iPhoneに思い付いたメロディを入れていくんですけど、結局そこから使うことはあんまりなくて。今回のkainくんに提供した曲も「今ならもっといいメロディが書ける気がする」と思って、ストックを使わずゼロから作った曲ですね。
──珍しいスイッチの入り方ですね。kainさんはどんなときに曲作りのスイッチが入りますか?
kain 僕はTくんとは逆のタイミングですね。僕、エンジニアとしての仕事も多くて、レコーディングの作業だったり、ミックスの作業とかで煮詰まってきて「どうしようかな」って思ったときに曲を作り始める感じです。バーッて弾いて出てきたピアノのメロディをパソコンに打ち込んで、そこから肉付けしていく感じですね。
──煮詰まったときに同じ界隈のシンガー同士で相談したりはするんですか?
佐香・kain しないですね。
kain 僕は煮詰まると、作りたいイメージに近い曲を聴くようにしてます。例えば恋愛の曲だったら、すでにヒットした恋愛の曲を聴いてみて、いろんなパターンを学ぶというか。そうしたあとに自分の曲に立ち返ると、もうちょっと楽器を足そうかなとか、改善点が見えてくるんです。
佐香 僕は逆ですね。自分のイメージに合う曲は聴きたくないかな。なんか嫉妬しちゃうから(笑)。
kain その気持ちはわかる(笑)。
佐香 メッチャいいじゃん!って思っちゃうと、僕が作らなくてもいいじゃんって思ってしまうから。だからもうちょっと自分でがんばろうかなって思うタイプですね。それにイメージに近い曲を聴くとたぶんパクっちゃう(笑)。
kain あ、でも勝手に似てきちゃうことはあります。だから気を付けなきゃって思いながら自分の曲を作りますね。
もっと自分に正直に
──いろいろお話を伺ってきましたが、お二人は仲がいいですね。kainさんにとって歌い手になるきっかけになったのが佐香さんなんですが、今はすごくフラットな関係になっているのが印象的です。
佐香 歌い手界隈の人たちってみんな対等な感じがするんですよね。だから僕も偉ぶったりしたくないし。確かにデビューのタイミングとかは僕のほうが早かったかもしれないけど、kainくんは僕にできないことがたくさんできる人だから尊敬もしてるし。
kain 僕にとっては今でも憧れの人ではあるんですけど、友達としていろいろ遊ぶことも多いのでこれからも仲よくしてほしいですね。
──本当はここで「先輩として佐香さんからkainさんにアドバイスを」って伺おうと思っていたんですが、そういう関係性でもないのかなと思いました。
佐香 先輩とかそういう器ではありませんから(笑)。あ、でも1つだけkainくんに伝えたいことがあります!
──なんでしょうか?
佐香 もっと自分の正直なところを外に出していいと思う。この前、友達の家でバーベキューをしたんですけど、そのときのkainくんってけっこう面白くて。さっき自分で言ってたけど意外と毒舌で、友達に対してキツく言うこともあるんですよね。そういう感じはもっと表に出してもいいんじゃないかな。だからこそ、僕はkainくんへの提供曲に強気な歌詞を入れたいなって思ったし。少なくとも僕自身は自分の心の内をどんどん出していこうと思って「いつか君はそいつと別れるに決まってる」っていうシングルを作った!(笑)
kain わかりました。でも僕自身、これから変わっていこうという気持ちをアルバムに込めてるんです。前作のアルバム「かえりみち」の書き下ろし曲は「TO DAY」で、今作に収録された書き下ろし曲が「TO MORROW」。時間が経って僕も1歩前に進んだってことを表すために「TO MORROW」という曲を書いたんです。自分で思ってることを素直に書けた曲が入っているから、これから先にもっといろんな思いをみんなに伝えられたらいいなって思っています。
収録曲
- 僕らの夏[作詞・作曲:佐香智久]
- No Logic[作詞・作曲:ジミーサムP]
- 聖槍爆裂ボーイ feat. いかさん[作詞・作曲:れるりり、もじゃ]
- バレリーコ[作詞・作曲:みきとP]
- Calc. feat.rairu[作詞・作曲:ジミーサムP]
- 夜もすがら君想ふ[作詞・作曲:TOKOTOKO]
- マッシュルームマザー[作詞・作曲:ピノキオP]
- すーぱーぬこわーるど feat. Sou[作詞・作曲:まふまふ]
- Silent blue[作詞・作曲:kain]
- 夢花火[作詞・作曲:まふまふ]
- いかないで -arranged cover-[作詞・作曲:想太]
- ぼくの声[作詞・作曲:奥華子]
- ガーネット -arranged cover-[作詞・作曲:奥華子]
- TO MORROW[作詞・作曲:kain]
kain(カイン)
2011年に“歌ってみた”動画をニコニコ動画に初投稿。歌唱のみならず、ピアノ、リコーダー、トランペットなどさまざまな楽器を奏でる“演奏してみた”動画の投稿も行っている。2015年4月に自身の書き下ろし曲「TODAY」を収録したデビューアルバム「かえりみち」をリリース。2016年2月には自身がオーガナイザーとして携わったライブイベント「DREAM TRAVELER」を東名阪の3カ所で開催した。同年7月、2ndアルバム「あおのかぜ」を発表した。
佐香智久(サコウトモヒサ)
1991年北海道生まれのシンガーソングライター。中学時代に初めてアコースティックギターを手にし、高校入学後、作曲活動を開始。2009年に「少年T」名義で動画共有サイトにオリジナル楽曲の投稿をスタートするとそのジェントルな歌声に「癒やし声の神」などのコメントが集まり、これまでに自身の参加動画の総再生回数1000万オーバーという数字を叩き出す。2012年のシングル「愛言葉」でのメジャーデビュー後は、アニメ「君と僕。2」のオープニングテーマ「ずっと」、「絶園のテンペスト」エンディングテーマ「僕たちの歌」など話題作を続々と発表。また2013年夏には舞台「タンブリングvol.4」で役者デビューも果たしている。そして2015年4月、アニメ「ポケットモンスター XY」のオープニングテーマ「ゲッタバンバン」をリリース。さらにアニメ「ポケットモンスター XY&Z」キャラソンプロジェクトの総合プロデューサーに就任し、数々の楽曲を番組に提供している。2016年8月、最新シングル「いつか君はそいつと別れるに決まってる」を発表する。