音楽ナタリー Power Push - 舞台「怪獣の教え」特集

豊田利晃×中村達也×太田莉菜

映像×演劇×音楽が生み出す三位一体のセッション

「最後もっと延ばそうか!」「いや延ばさなくていいですよ!」

──音楽はどんな形で作っていったんでしょうか?

豊田 「怪獣の教え」をやるって決まって、「さあどうしよう」っていうときにいきなり達也さんから20曲ぐらいデモがボーンと送られてきて。で、「この曲いいじゃん!」っていうのをピックアップして、内容に合わせて形にしていった感じですね。

中村達也

中村 まあ、デモというかスタジオで録音して、それを「こっからここまでは何分ずつ」という感じで区切られた音源ね。で、俺、タイトル付けるのが好きなの。だから1個1個にタイトル付けて監督に送って。もうどんなタイトル付けたか忘れたけど。

豊田 なんだっけなー。「養殖怪獣」とか「怪獣小学校」っていうのもあったんですよ。

中村 あったあった!

──そしてベーシックとなる曲がありつつ、公演ごとに変化を加えていったと。

豊田 そうですね。ただ毎回大きく変えることはなくて。役者がいたり、映像にはめ込んだりするのである程度は決めていかないと作品として成立しないんです。このシーンのギターのリフはこんな感じとか、そういうのはバッチリ決めてやってますね。でもその尺の中でミュージシャンチームは日々アレンジやプレイを変えていく。舞台なので、本番でアドリブが突然出たりっていうのはないですね。

──けっこうカッチリしていると。そうすると、中村さんのプレイスタイルとは真逆では……?

豊田 いや、これが今後の達也さんのスタイルになると思います。

中村 えー、気を失っています(笑)。まあ、わからんけどね。

──前回の公演時間は約100分とコンパクトでしたよね。意識してこの長さに?

豊田 あまり長く引っ張ると、観ているほうが頭おかしくなってくるでしょ? 90分か100分ぐらいが限界じゃないかなって。再演ではワンシークエンス増えるんでもうちょっと長くなるかもしれないけど、要所要所をタイトにして前回と同じように100分ぐらいを目指したいなという感じですね。ただこの間、ヤマジさんから「最後もっと延ばそうか!」ってメールが来て。「いや延ばさなくていいですよ!」って返したばっかり(笑)。

──中村さんと太田さんは、新たに加わるシーンについてすでにご存知なんですか?

豊田 いや、今日一斉にメールを送ったところなんで。具体的には窪塚くんとバンドと映像のワンシーンが増えます。

──ではその新たなシーンが見どころに?

豊田 そうですね。そもそも横浜公演を観た人もそんなに多くないと思うので、より多くのお客さんに観てもらえたらいいなと思ってます。会場が広くなるだけじゃなく、音もよくなるんで。より強烈な作品になるんじゃないでしょうか。青木ケイタがベース弾きたいらしいので、音楽もちょっと変わるかもしれないし。

太田莉菜

太田 そうなんですか?

豊田 青木ケイタがベースの練習しているって情報を、zAk経由で知りまして。

──太田さんは再演に向けて意気込みは?

太田 「やるのみ!」ですね。本番になるまでどう変わるのか、本当にわからないので。観る人数が変わったからと言って、自分が変わるかというとまた違う。でも1回やったものをもう1回できるということは、これまであまり経験がないことなので楽しみです。

今の時代に足りないものや人が求めているものがすべてある

──豊田さんが進めているプロジェクト「BONIN ISLANDS DREAMING」の今後の展望に関してもお聞かせください。

豊田 まだシークレットだから、あまり詳しくは言えないんですよ(笑)。言えるのはドキュメンタリーや映画を作っていく予定ということ。「怪獣の教え」も今回で終わりじゃなくて、毎年やってもいいかなあ。地方も回りたいし。形を変えながら2018年まで続けていきたい。

「怪獣の教え」のワンシーン。(Photo by TAKAMURADAISUKE)

──なぜ2018年まで?

豊田 2018年は小笠原がアメリカから日本に返還されて50年を迎える年なんです。そこで終わらせられたらいいなと。僕も50歳になるのでちょうど1つの区切りになると思う。だから40代後半を賭けて「怪獣の教え」と向かい合うのが僕の今の目標ですね。

──なるほど。最後に初めて観る人たちに向けて改めて見どころをお話しいただければ。

豊田 役者とミュージシャンと映像、それに音響や照明もすべて絡んで1つの生き物のように動いていくステージは、当たり前のようで実際はなかなかないような気がするんですよ。バンドの生演奏をステージ上でやるので、普通の舞台より音圧もありますし、役者の力も映像の力もある。海外旅行に行くより舞台を観に来てください。観たことのないものが観られるし、知らない世界にも触れられると思います。

中村 「怪獣の教え」を体験する覚悟で来てくれたらうれしいね。

豊田 でもそんなに敷居の高い舞台じゃないので。話もわかりやすくて入りやすいし。そんなに構えてみる必要はないと思う。俺は気軽にライブを観る感じで来てほしいな。

中村 前言撤回! じゃあなんの覚悟もなく(笑)。でも体力使うし、お腹空いちゃうかもしれないからコンビニでなんか買って。

──太田さんはいかがですか?

左から中村達也、豊田利晃、太田莉菜。

太田 私はいつも「怪獣の教え」を観る側に回りたいなって思っていたんです。リハのときもいつも「いーなー」って。音楽が聴けて、芝居も観れて、豊田さんの映像もあって……。音圧もすごいし、普通の芝居を観る感覚とは違うと思う。だから皆さん、来てくれたらいいな。豊田さんのおっしゃってる「観たことがないものが観れる」という言葉は嘘じゃないです。

豊田 あと、今の時代に足りないものや、人が求めているものが「怪獣の教え」にはすべてあるって自信を持って言えます。そういう意味でも1人でも多くの人に観てほしいです。

怪獣の教え

舞台「怪獣の教え」

ストーリー

国家秘密を暴露する事件を起こして政府から追われる天作(窪塚洋介)は、従兄弟である島育ちのサーファー・大観(渋川清彦)を頼り東京から小笠原諸島へやって来た。しかし天作には、祖父から教えられた「怪獣」をよみがえらせるという別の目的が。一隻の船に乗り込み海へ出た2人は前夜、1人の女性と出会っていた。その女性は、世界の島を転々としながら暮らすアイランドホッパーのクッキー(太田莉菜)。クッキーは“怪獣の教え”の秘密を知っていると言うが……。

スタッフ

演出・脚本・映像:豊田利晃
音楽:TWIN TAIL 怪獣の教えVersion [中村達也(Dr) / ヤマジカズヒデ(G) / 青木ケイタ(Sax、Flute)]、GOMA(Didgeridoo)
音響:zAk
照明:高田政義
衣装:伊賀大介
怪獣デザイン:ピュ~ぴる
サウンドアドバイザー:堀江博久

キャスト

天作:窪塚洋介
大観:渋川清彦
クッキー:太田莉菜

公演日程:2016年9月21日(水)~25日(日)

会場:東京都 Zepp ブルーシアター六本木

料金:7800円(全席指定・税込)

豊田利晃(トヨダトシアキ)

1969年3月生まれ、大阪府出身の映画監督。1998年、千原浩史(千原ジュニア)主演「ポルノスター」で監督デビューを果たす。2002年には松本大洋のマンガを映像化した「青い春」を発表。そのほか主な監督作に「ナイン・ソウルズ」「空中庭園」「モンスターズクラブ」「クローズEXPLODE」などがある。2006年に中村達也、勝井祐二、照井利幸とインストユニット・TWIN TAILを結成した。

中村達也(ナカムラタツヤ)

1965年生まれ、富山県出身のドラマー。浅井健一、照井利幸と結成したBlankey Jet Cityでメジャーデビューし、その後もソロプロジェクトのLOSALIOS、FRICTIONやMANNISH BOYSなど、さまざまな形で音楽活動を展開。役者としても活躍しており、豊田が監督した2009年公開の映画「蘇りの血」では主演を務めた。そのほかにも「バレット・バレエ」「涙そうそう」「I'M FLASH!」「野火」などに出演している。

太田莉菜(オオタリナ)

1988年、千葉県生まれのモデル、女優。2001年、雑誌「ニコラ」の読者モデルオーディションでグランプリを獲得したのち、ファッション誌やCMに出演し、2004年に出演した映画「69 sixty nine」を機に女優としての活動を開始する。近年の出演作には「海月姫」「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦」「テラフォーマーズ」など。2017年に出演作「君と100回目の恋」の公開を控えている。