音楽ナタリー Power Push - 舞台「怪獣の教え」特集
豊田利晃×中村達也×太田莉菜
映像×演劇×音楽が生み出す三位一体のセッション
映画「青い春」「空中庭園」「モンスターズクラブ」の監督として知られる豊田利晃が手がけた初の舞台作品「怪獣の教え」。小笠原諸島に心奪われた豊田が、演劇、バンドの生演奏、映像を融合させた“ライブシネマ”という新たな表現で挑んだエンタテインメント作品だ。キャストには「モンスターズクラブ」に続いて豊田とタッグを組む窪塚洋介、豊田作品の常連・渋川清彦、本作が初舞台となった太田莉菜が顔をそろえた。
2015年11月に神奈川・横浜赤レンガ倉庫で上演された本作が、来る2016年9月21~25日に東京・Zeppブルーシアター六本木で再演される。今回の特集では脚本、演出、映像を担当した豊田、本作の音楽を担当したTWIN TAILのドラマー中村達也、そして“怪獣の教え”の秘密を知る女・クッキーを演じた太田の3人に前回の公演の感想やライブシネマの面白さ、再演への意気込みなどを聞いた。また特集の最後には、行定勲、板尾創路、瑛太、アヴちゃん(女王蜂)、千原ジュニア、東出昌大ら初演を観た著名人からのコメントも掲載する。
取材・文 / 金須晶子 撮影 / 後藤倫人
父の死をきっかけに訪れた小笠原
──まずはこの「怪獣の教え」の舞台になっている小笠原諸島との出会いを教えていただけますか。
豊田利晃 2014年に父親が亡くなったのがきっかけで、どこかに旅に出たいと思ったんです。それで死ぬまでに一度は行ってみたいと思っていた小笠原に行こうと。小笠原のことをよく知る作家の森永博志さんに「どこに行けばいいですか?」って相談したら「サーファーの宮川典継に会え」と言われて、宮川さんから島のいろんな場所を紹介してもらったんです。2週間の旅のつもりが結局1カ月滞在して、そのうちにフラッシュアイデアというか「怪獣の教え」のストーリーが見えてきたんです。
──そのアイデアが、豊田さんと中村さんが所属するユニット・TWIN TAILのスタイルでもある“ライブシネマ”という形で舞台になったと。
豊田 そうですね。
──普段のTWIN TAILのライブではバンドの演奏に乗せて豊田さんが映像を投影していますが、今回はそこに演劇という要素が加わりました。中村さんは新しい形の作品に参加してみていかがでしたか?
中村達也 俺はずっと豊田さんたちとTWIN TAILで一緒にやっていたから、そんなにかけ離れたことをしてる感じはなかったかな。でも「怪獣の教え」は舞台でもあるので、芝居があり、セリフがあり、転換とかもある。俺は演奏者として筋書き通りのことをやるのが苦手というのを得意としていて。
豊田 ははははは(笑)。
中村 天邪鬼なものでね。音楽をセリフや映像に合わせてハメ込んでみて、どう叩いたとか、どういうリズムだったとか、音の強弱はどうだったとか、細かいことまで再現するのかと思うと抵抗が生まれるんだよね。自分の本来の欲望と違うというか。
──では再演で前回と同じ曲を演奏するのにも抵抗が?
中村 まあ、去年の公演から時間が経って、その間に俺もいろいろ気が変わってね。
豊田 怖いな(笑)。
中村 決まったこともできるって見せつけてやろうかなと!
豊田 ホントに?
中村 ……んなことはないけど(笑)。ただ初演から時間が経ったから、そういうのに抵抗がなくなってきたかもしれない。だから、もう1回やることはすごく楽しみでもある。
千秋楽で「人前に立ってよかったのかな」
──太田さんにとって「怪獣の教え」は初舞台であり、さらに初の豊田作品でした。そんな中でのライブシネマという公演スタイルについて、どのように感じましたか?
太田莉菜 私はライブシネマっていうものに対しては、特に何も思わなくて。自分が入った場所がたまたまそこだったという感覚でしたね。
──豊田さんが、太田さんにクッキーを演じてもらおうと思った理由はなんだったんですか?
太田 そういうの目の前で聞きたくない!(笑)
豊田 えー、やっぱり脚の長さですかねー。いやいや、旦那さんが松田龍平だから、ことあるごとに会ってたんです。で、いつか一緒に仕事したいなとは思っていたんですけど。
太田 え、1回しかちゃんと会ったことないですよね?(笑)
豊田 君はそう思っているけど、俺はいろんなところでこうやって(壁からのぞきこむジェスチャーをしながら)見てたんだよ。で、ぜひ呼んでみようと。あとやっぱり、背が高いからステージ映えすると思った。それが大きな決め手かな。
──実際に舞台上で演技する太田さんはいかがでしたか?
豊田 まあ、まだまだですね(笑)。でも、千秋楽はけっこうよかったよ。
太田 成功とは言わないですけど、千秋楽で初めて「人前に立ってよかったのかな」という気持ちになれたんです。ただ、前回はどうだったかとか過去のことを話すのはそんなに興味がなくて……次は次。またこのメンバーで集まってやるときに、自分は何を発するんだろう?っていう気持ちですね。
3対3対3でセッションしている感じ
──役者、ミュージシャン、映像と役割が明確に分かれていますが、本番中は豊田さんが全体の指揮を執るんですか?
豊田 いや、僕も映像でいっぱいいっぱいなんですよ。もちろんキメのところは稽古で合わせているし、本番が終わったあとにその日の映像を確認して、翌日みんなと共有したりもします。でも本番中は、舞台上に役者が3人、スクリーンの後ろにミュージシャンが3人、そして客席を挟んだ会場の一番後ろに僕と音響のzAkと照明の高田政義がいて。3対3対3でセッションしている感じ。その渦の中で夢中になっているので、なかなか客観的になれないんです。
──誰か1人に合わせるというより、その時々でみんなで調整していくという。
豊田 そうですね。だから「達也さんドラムやめないんだけど!」とかあったりね(笑)。
中村 そんなことあったっけ!?
豊田 「zAk、なんとかしてー!」「じゃあ雷落としてみるわ!」「ドドーン!」って効果音出して終わらせるみたいな(笑)。
中村 ああ、そういえば緊急連絡用のランプが激しく点滅してたことがあったな……。
──中村さんは俳優の動きに合わせて音を鳴らすシーンもありますね。
中村 渋川さんの演技に合わせてね。あのシーンはもっと派手に音を出したかったんだけど、指揮系統から「やりすぎ!」って言われた。「セリフが聞こえなくなる」って。
──その塩梅は難しそうですね。バンドの音が後ろで鳴っている中で声を発するというのは、演じる側の太田さんからするとどうですか?
太田 クッキーが出るシーンの音楽は基本的にロマンチックなので、そんなにかき消されるものではなく。「セリフが聞こえない」って気にするよりも、私の精神状態がいっぱいいっぱいでした。「セリフを言わなきゃ!」って。
豊田 そんな不安なこと言わないでよ!(笑)
太田 今も一瞬でも舞台のことを考えると緊張しちゃって……。
次のページ » ここだ!っていうシーンでヤマジくんが寝てた
舞台「怪獣の教え」
ストーリー
国家秘密を暴露する事件を起こして政府から追われる天作(窪塚洋介)は、従兄弟である島育ちのサーファー・大観(渋川清彦)を頼り東京から小笠原諸島へやって来た。しかし天作には、祖父から教えられた「怪獣」をよみがえらせるという別の目的が。一隻の船に乗り込み海へ出た2人は前夜、1人の女性と出会っていた。その女性は、世界の島を転々としながら暮らすアイランドホッパーのクッキー(太田莉菜)。クッキーは“怪獣の教え”の秘密を知っていると言うが……。
スタッフ
演出・脚本・映像:豊田利晃
音楽:TWIN TAIL 怪獣の教えVersion [中村達也(Dr) / ヤマジカズヒデ(G) / 青木ケイタ(Sax、Flute)]、GOMA(Didgeridoo)
音響:zAk
照明:高田政義
衣装:伊賀大介
怪獣デザイン:ピュ~ぴる
サウンドアドバイザー:堀江博久
キャスト
天作:窪塚洋介
大観:渋川清彦
クッキー:太田莉菜
公演日程:2016年9月21日(水)~25日(日)
会場:東京都 Zepp ブルーシアター六本木
料金:7800円(全席指定・税込)
豊田利晃(トヨダトシアキ)
1969年3月生まれ、大阪府出身の映画監督。1998年、千原浩史(千原ジュニア)主演「ポルノスター」で監督デビューを果たす。2002年には松本大洋のマンガを映像化した「青い春」を発表。そのほか主な監督作に「ナイン・ソウルズ」「空中庭園」「モンスターズクラブ」「クローズEXPLODE」などがある。2006年に中村達也、勝井祐二、照井利幸とインストユニット・TWIN TAILを結成した。
中村達也(ナカムラタツヤ)
1965年生まれ、富山県出身のドラマー。浅井健一、照井利幸と結成したBlankey Jet Cityでメジャーデビューし、その後もソロプロジェクトのLOSALIOS、FRICTIONやMANNISH BOYSなど、さまざまな形で音楽活動を展開。役者としても活躍しており、豊田が監督した2009年公開の映画「蘇りの血」では主演を務めた。そのほかにも「バレット・バレエ」「涙そうそう」「I'M FLASH!」「野火」などに出演している。
太田莉菜(オオタリナ)
1988年、千葉県生まれのモデル、女優。2001年、雑誌「ニコラ」の読者モデルオーディションでグランプリを獲得したのち、ファッション誌やCMに出演し、2004年に出演した映画「69 sixty nine」を機に女優としての活動を開始する。近年の出演作には「海月姫」「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦」「テラフォーマーズ」など。2017年に出演作「君と100回目の恋」の公開を控えている。