「唯一無二の初期衝動」をテーマに掲げて活動しているロックアイドルグループ・カイジューバイミー。2021年にデビューした彼女たちは、感情がほとばしる歌声、衝動的なライブパフォーマンスで注目を浴び、2022年末には音楽事務所WACK代表の渡辺淳之介が「これめっちゃ聴いてる。なぜかは聞けばわかるはず」というひと言とともにミュージックビデオのリンクをX(Twitter)に投稿したことでも話題になった。
刹那的な空気をまといながら独自の道を歩んでいるカイジューバイミーは、4月26日に東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)でワンマンライブ「怪獣爛漫」を開催。5月22日に2ndミニアルバム「bleach」をリリースすることが決まっている。音楽ナタリーではメンバー4人と、カイジューバイミーの全楽曲を手がけているプロデューサーのメルクマール祐にインタビューし、グループの現状を聞きつつ、ミニアルバムやワンマンライブについて語ってもらった。
なお、「bleach」は当初3月20日リリース予定だったが、制作上の都合で4月23日に発売が延期に。取材後にさらにリリースの延期が発表され、現在は5月22日が発売日としてアナウンスされている。特集の最後には、グループの“今”に向き合いながら楽曲を制作しているメルクマール祐による最新コメントも掲載する。
取材・文 / 真貝聡撮影 / 坂本陽
最近は4人とも不気味なくらい仲がいい
──まずは、現在制作中のミニアルバム「bleach」の話を聞かせください。もともとは3月20日にリリース予定でしたが発売延期となり、取材を行っている3月中旬の今日もまだできあがっていない状況です。
メルクマール祐 カイジューバイミーの曲を作るときは、僕が感じるメンバーの心境の変化や彼女たちの生き様を曲に残すつもりで書いていまして。今回のミニアルバムを作ると決まったとき、ちょうどメンバーが伸び悩んでるというか、壁にぶち当たってるというか。なんて言うんだろう……? 今までになかったことだよね?
スタンド・バイ・菜月 やみくもに進んでいる感じでしたね。
祐 うん、端的に言うとあまり雰囲気がよくなかったんですよ。昔からメンバー同士はよくケンカをしていたし、ステージ上でぶつかることもしょっちゅうあった。それがパフォーマンスのエネルギーになっていたのと同時に、メンバーなりの信頼関係の作り方でもあったと思うんです。でも、2年半も一緒に活動しているとぶつかり合うだけじゃ解決できないことも出てきて。真剣にステージと向き合っていると、メンバーそれぞれに大切にしたいこと、譲れないことが生まれてくるので当然ですよね。ただ、彼女たちはぶつかり合うことでしか解決方法を知らないから、どんどん激しさを増して、気が付けば今度はそれを応援してくれるファンが心配するようになってしまって(笑)。いつの間にか4人とも違う方向を向いたまま、真正面からぶつかることもなくなってしまいました。それに1人ひとりが気付きながらも、無理やり自分の気持ちを隠してステージに立つことが増えていった。
──その状況にどう対処していったんですか?
祐 今までは、カイジューバイミーをプロデュースしていくにあたって、日頃の衝動的な彼女たちらしさみたいなものが少しでも感じられなくなったときは、僕が間に入って引っかき回すというか、どこか起爆剤のようなきっかけになれるように積極的に介入してきたんです。でも結成してから2年半以上経って、Zepp Shinjukuでのワンマンも決まっている中、本当にこのままでいいのかと。毎月ライブが10本以上ある中で、ステージで感情を吐き出し続けるあの刹那的なパフォーマンスだけが本当の彼女たちらしさなのか、疑問に感じるようになりました。無意識に僕や応援してくれている人たちが、彼女たちを誘導してしまってるんじゃないか、そしてその期待に応えようと、彼女たちも演じてしまってる部分があるんじゃないかって。だから一度立ち止まってでも、メンバーの4人だけでどう乗り越えていくのかを見届けたくなったんです。
──立ち止まったとしても、ミニアルバムの制作は続いていくわけですよね。
祐 はい。僕が曲を書くにあたって大事にしてる事があって。やっぱり音楽は前向きなものであってほしいんですよ。もちろんネガティブなことだって書くことはありますが、その中で見出した光とか美しさを伝える場合だけにしたい。でもそんな気持ちとは裏腹に、メンバー間ではどんどん状態が悪化していくわけで、僕は僕で締め切りに追われながら「こんなの曲にならねぇ」ってメンバーのせいにする日々が続きました(笑)。そんな中で、ある日を境に、ライブのパフォーマンスの質がガラッと変わったんですよ。希望に満ちあふれた姿でステージに向かっていく4人がそこにいた。ステージ上でメンバー同士がイラついて、小競り合いをしてるのがウリにもなっていたのに、最近は4人とも不気味なくらい仲がいいんですよ。
──今までになかった光景だと。
祐 結成してからの2年半、ある意味でここまで平和なのはずっとなかったことで。とはいえ決して仲が悪かったわけじゃないんですよ。信頼関係の作り方が不器用だから、ぶつかって、泣いて、抱き合う感じだった。でも今はライブが終わったあと、ニコニコしてステージから降りてくるんです。今までとはまったく違った。僕の知らない4人の空気感があって、すごく感動したんです。僕が見たことのなかったこの4人を曲に書きたい、そしてこの4人が次に道に迷ったときの居場所になれるような音楽を作りたいと思いました。その瞬間、作品の方向性を変えることを決めて、リリースを延期させてもらうことにしました。
──祐さんの話を整理すると、メンバー同士で本音を隠していたがゆえに雰囲気が悪かったネガティブな時期と、4人が希望にあふれているポジティブな時期と、2段階あるわけですね。ネガティブな時期、メンバーの皆さんはどう感じていたんですか?
スタンド・バイ・エレナ 去年の7月にデビュー2周年ワンマンをLIQUIDROOMで開催したくらいから、グループ内での雰囲気に違和感を感じていて。当時はそこまで気になってなかったんですけど、今考えるとよくない方向に向かっていたんだと思います。不器用という表現がまさにピッタリなんですけど、思っていることをうまく形にできず、自分に対しても「なんでできないんだ?」と悔しくてムカついていたし、それをメンバーに対しても思っていて。不満があるけど、それを言えずに塞ぎ込んでいたんです。「こうするべきでしょ」という思いと、「じゃあ正しいものってなんなの?」という葛藤がここ半年ぐらいはずっとありました。で、その鬱憤が今年に入って爆発したんです。メンバー全員で「私、本当はこう思ってるんだ!」とひさしぶりにぶつかり合ったことで素直になれた。衝動的に感情をぶつけることはあっても、素直になって話し合うことって今思うとそんなに多くなかったんです。結成してもう2年半も経っているんですけど、新しいことに気付けたと思います。
スタンド・バイ・ミーア 今年1月からミニアルバムのリリースイベントをやることになり、まずはタワーレコード渋谷店のCUTUP STUDIO公演が決まりまして。そのステージは1stアルバム「純白BY ME」を出したときから「あそこでライブをやりたいね」とみんなで話していた場所だったんですよ。だからこそ絶対に成功させたかった。そのためにどうしたらいいのかを考える中で、1人の力だけでは前へ進めないからこそ、みんなと相談をする機会も増えていって。その中でメンバー同士でちゃんと腹を割って話す機会が増えたんですね。いつもなら口に出せなかったことも、伝えられるようになった。
──ライブを成功させたいという思いが原動力になったんですね。
ミーア 私はもともと、その瞬間瞬間で思ったことを衝動的に口にすることはあっても、日頃から考えていることや思い悩んでいることを話すのはあまり得意ではなくて。CUTUPでのイベントが自分の気持ちを打ち明けられるようになった最初のきっかけだと思います。「お客さんに来てもらうためにはどうしよう?」「告知をしなきゃね」「じゃあ、こういうこともしよう」って。誰が見てもわかるくらいに進化したミーアを4月26日のZepp Shinjukuで見せられる自信があるので、楽しみにしていてほしいです。
スタンド・バイ・華希 振り返ると、LIQUIDROOMが終わってからのライブも1本1本を大切にしていたし、全力でやっていたけど、完全にはやりきれていない感覚があって。エレナが言ったように、1人ひとりがその状況に耐えられなくなっていた。でも時間は進んでいくし、焦る気持ちも正直ありました。しかも、4月にZepp Shinjukuでのワンマンライブが決まっていたし、「このままじゃダメだな」と個々では思っていたけど、なかなか行動に移せなくて。話し合いをしなくちゃいけないと思いつつ、逃げたいわけじゃないけど、もっと雰囲気か悪くなっちゃうんじゃないか、応援してくれるファンの方が心配しちゃうんじゃないかって見て見ぬふりをしていた部分がメンバー同士であったんです。それでは絶対にダメだし、何よりカイジューバイミーの現状がとにかく嫌で、Zeppまでに変えなきゃいけないと思った。それで先ほどの話につながるんですけど、4人の会話が自然に増えて、お互いに自分の感情を伝えるようになりました。
ちゃんとメンバーと向き合わないと、最高のものを作れない
祐 今までは未熟な部分に蓋をしたままでも、なんとかやっていけていたんです。自分もメンバーもゼロからカイジューバイミーをスタートさせた中、応援してくれる人が増えてきて、1年ごとにワンマンライブの会場の規模も大きくなっていった。そしてグループがどんどん上に行くにつれて、ごまかしが効かなくなってきた。「このままじゃダメだよ」と言っても、それはほんの少しの気付くきっかけを作ってあげられるだけで、やっぱり自分で後悔して気付かないと、本当の意味では変われないことのほうが多いんだなって改めて感じました。これが次の一歩を踏めるためのきっかけになってほしいと願いながら、今回は長かったですが、約半年間ほど静観してきて。それによって、もしこのままグループがなくなってしまうのだとしても、そのほうが彼女たちのためだとも思いました。
──メンバーの意識に変化が起きるのを待っていたと。
祐 そんな中、失敗を重ねながらも自分たちでも気付けるようになってきたんです。でも4人とも気付いてるのに、そこに触れられなかった。応援してくれるファンが増えていく中でその思いがよりはっきりと目に見えるようになったけど、今度は自分たちが指針としているものにも矛盾が生まれるようになった。止まっている暇なんてないし、変に触ると歩みを止めてしまいかねない。そんな中でも状況が日々目まぐるしく変わる。焦りもあったけど、それが放置できないレベルにまで来てしまったと思いました。
菜月 そうですね。振り返ると、1年目に渋谷CLUB QUATTRO、2年目にLIQUIDROOMのステージに立たせてもらって、すごく恵まれた環境にずっといて。しかもWACKの代表である渡辺淳之介さんがX(Twitter)で私たちのことを話題にしてくれたり、神聖かまってちゃんのの子さんがツイキャスの配信でカイジューに触れてくれたり。そんなふうに恵まれていることにも気付かず、ここまで来た感じがありました。自分たちでは必死にやってきたつもりだったんですけど……。
祐 うんうん。渋谷クアトロなんて、たくさんのミュージシャンが目標にしている歴史あるハコじゃないですか。そんなステージに結成1周年で立たせてもらったうえ、菜月が言った通り、有名な方々がSNSでカイジューについて触れてくださって。僕らの知らないところで、多くのお客さんがカイジューの音楽に興味を持ってくれた。そして自分たちが思っている以上に、どんどん期待が膨らんでいったんだよね。
菜月 そうなんです。祐さんには前々から「このまま進んだら、どこかで痛い目を見るよ」と言われていたんです。当時は「そんなの知らないよ! 自分は必死でやってるつもりだよ」と思っていたけど、やっぱり言ってた通りのことが起きた。それまではメンバーと改まって向き合いながら話すとか、そういう意味で本音をぶつけるのが嫌だったし、きっとステージの上だからこそ感情を吐き出せていたんだと思います。でも最近は、1本1本のライブを今までよりも大事にしていて。ちゃんとメンバーと向き合わないと、最高のものを作れないということがわかりました。
──相当な心境の変化があったんですね。
菜月 これまでは目の前のことに必死で、知らないうちに失ったものがいっぱいあったし、離れちゃったファンの人もいた。「もっといいライブができたのに」と後悔する日もありました。そういうのはもう嫌なんです。もともと私は「音楽をやりたい」とか「アイドルをやりたい」と思ってこの世界に入ったわけではなく、祐さんに偶然声をかけてもらって、気付いたらこういう活動をしていて。ライブで暴れて自分が気持ちよくなるのが好きだったけど、それだけじゃダメだなと思うこともあるんです。ステージでやりたいと思っていることはこれからも曲げたくないけど、オタクはどんな気持ちで応援してくれているのか、ライブに足を運んでくれているのか、それを考えないといけないし、Zeppに立つ人間としてまだ足りていないものはあるものの、いろいろなことに気付けていなかった頃よりはよくなってるはずで。今の4人でなら、いい状態でZepp Shinjukuでワンマンができると思っています。
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